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そのあとの3人

 ホゲットの町に戻った俺達は、ギルドへの報告を済ませて酒と食料を買い込み、作戦会議で使った町外れの小屋に身を落ち着けていた。仕事を成功させたあとは酒場に繰り出すのが冒険者の慣例だが、秘密性の高い依頼の場合は、仲間だけで祝杯を上げることもある。今回はどちらでも良かったのだが、ヤンクスの提案で生き残りだけでの祝杯となった。


「んじゃ、死に損ないを祝して、かんぱーいっと! いやー、すんげー子だったねー、クリエちゃん」

「同感です。その、なんというか……あの歳であんなに落ち着けるものなんですかね……」


 なるほど、クリエの名前を出すのであれば、そこらの酒場を選ばないのは道理か。口数の多さには辟易とするが、ヤンクスはこういうところに気を回すのがうまい。見習うべきかもしれんな。


「それよー。俺は途中でリタイヤしちゃってたからさー、クリエちゃんの勇姿を見てないんだよねー。どんなんだったん? ミック?」

「俺とミオも追い込まれていて、それほど状況を把握できていたわけではないが……」


 フォレストウルフに取り囲まれそうになった俺達は、どうにか馬車を背にして死角を減らすことに成功し、いざとなったら馬車に立て籠もることも考えながら戦っていた。しかし唐突にフォレストウルフが勢いをなくし、どこか怯えたような様子になったのを不思議に思った瞬間に、「味方です!」という声とともにクリエが駆け寄ってきて、正直なところその瞬間は面食らってしまった。


 そしてクリエは猟師であることと、俺達の周りに――あのお守りだな――結界を張ったこと、そして反撃のチャンスであることを伝え、的確に指示を出した。おそらくクリエが言っていた「見捨てようと思った」というのは本当で、隠れて状況を正確に把握しているうちに、確かな勝算が浮かんだから助けに来たのだろう。


「そうでしょうね。現れていきなり『盾に隠れて』とか言ってましたし、わたしたちのことも、あのエルフの盗賊のことも、よく見て分かってたんでしょうね」

「ひゅー、すっげーなそりゃ。そんで、クリエちゃんの作戦がドンズバ当たっちゃったわけだ?」

「ええ……正直わたしは、フォレストウルフが本当にこっちを狙ってこないのを確認したときに、こんだけ有利なら盾なんかいらないんじゃないかと思ったんですけど……」

「おそらくクリエは……あのエルフの抜け目のなさに気づいていたのだろうな……」

「そこよ、そこ! どんな感じでエルフ野郎を仕留めたのか、そこが分かってねーんだわー」


 クリエから牽制でいいと念を押されたこと、ナイフを投げたらすぐに盾に隠れろと言われたこと、そしてその言葉の通りに、俺がナイフを投げる瞬間を狙ってエルフが反撃してきたことを伝えると、ヤンクスは口元に引きつった笑いを浮かべた。


「……えー、なんなのそれ。なんで10歳の子がそんなん分かっちゃうの……」

「凄すぎますよね……。でも、ガルフさんを治してるときに、ミックさんになんか言ってませんでしたっけ?」

「言っていたな……。戦いを眺めていて、あのエルフがとんでもなく広い視野を持っているのは確信していたと。そして、おそらくは自分と同じ猟師――狩人なんだろうとも予想したらしい」

「へー、猟師で通じ合う何かがあんのかねー?」

「それはわからんが……クリエが言うには『俺だったら最初に狙った獲物にだけは一矢報います』だそうだ。猟師のプライド、なのかもしれんな……」

「そ、壮絶ですね……。クリエさん、あんなに若いのに……」

「1年ぐらい前、アラシシと相討ちになりかけたときに、そう思ったらしい……」

「「――――!」」


 まあ、絶句するだろうな。クリエから聞かされた時の俺も絶句したものだが、この2人のように引きつった表情を浮かべていたのだろうか。


「……なんじゃそりゃあ……、クリエちゃん、まじハンパねーな……」

「修羅場くぐってますね……」

「未熟だからそんな目に遭ったのだ、とは言っていたがな……」

「でもよー、フォレストウルフの後始末でも、クリエちゃん大活躍だったんでしょ?」

「いや、その時の様子だと、確かに未熟な感じはあったな……。あのエルフに肝を冷やされた直後だったからかもしれんが、弓の腕はそこそこといった感じで威力もそれなりで、あまり当てられていなかった」

「へー、そりゃあ意外。って10歳なんだから、それが当然かー」

「洞察力と判断力を思うと末恐ろしいが、それも猟師としての分野に限るのかもしれんな」

「あー、だから学校に入るんですかね」

「そっかー、クリエちゃんならすぐに冒険者でやっていけんじゃんって思ったけど、ちゃんと子供なんだなー。卒業してから俺らの後輩になるとしたら……5年後かー」

「どんな冒険者になるんでしょうね。デビュー即Cランクとか、クリエさんならありそうじゃないですか?」

「今のままで伸びれば、あり得るかもしれんな。そうでなくともガルフみたいな役回りなら、今でも務まるのかもしれん。Dランクのミオが切り札になったように、ランクでは計れない能力もある」

「ありそー。でもクリエちゃんにこき使われるんだったら、悪くねーかもなー」

「ふふっ。そうですね!」


 こいつらはずいぶんとクリエのことを気に入ったようだが、おそらくは俺もそうなのだろう。酒の勢いも手伝っているのか、クリエの話をしていると妙に愉快でいい気分だ。


 興が乗ったことだし、たまには俺も、ヤンクスみたいな軽口を叩いてみるか。


「……お前ら、その時にはとんでもない借りを返させられるかもしれんぞ?」


 む? これなら笑いを取れると思ったのだが、どうして2人とも真顔で固まっているのだ。


「……酔いが醒めちゃうかと思いましたよ」

「わかるわー。でもなーミオちん、あれたぶんミック的にジョークなんだわー」


 ――解せぬ。

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