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1章の評判がとても悪いお話ですが、よろしくお付き合いください。手っ取り早く物語の雰囲気だけ知りたい場合には、1章を飛ばして2章から読んでもあんまり支障がないと思います。

「――知らない天井だ……」


 って言いたかったんだけどなあ。


 どんな頑張って言おうとしても、「あうー」とか「えうー」みたいな音しか出せない時点で薄々気づいてたし、自分の可愛らしいぷっくぷくの手を見て確信した。


 これ、高校生に混じって勇者召喚とかじゃなくて、転生のパティーンだな?


 あんま思い出したくもないけど、きっかけはド定番の交通事故ルートだったわけで、そりゃあこうなるしかないか。オッケーオッケー把握した。そもそも勇者召喚のパターンだとあの忌まわしい『ステータスオープン』を言わされる可能性が高かったわけだし、そこを回避できたのは僥倖とすべきだろう。


 そして10歳ぐらいで唐突に前世の記憶を取り戻す系も避けたかった。途中で人格が入れ替わって他の子になってしまうようで、この世界での両親に申し訳ない気持ちになるだろうし、「父さん母さん落ち着いて聞いて欲しい。俺、転生者なんだ」ってカミングアウトするのも絶対無理。


 ていうか、やったな俺! 憧れの異世界転生だよオイ! これで俺も、「夢は必ず叶うから」とか一流アスリートみたいなこと言えちゃう系!!


 なにしろ、定番だと俺の意識が目覚めて早々に『どうやらこれが俺の母(父)親らしい……』的なくだりになるはずだが、そういった人物は見当たらず。その代わりと言わんばかりに俺の顔を覗き込んでいるのは、どう見てもドラゴンですよ。しかもL.E.D.感あふれる超スタイリッシュで気品あふれる白銀のやつ。


 さすがにこれは確定でしょ。ドラゴンだもん。これが異世界転生じゃなかったらロマンありすぎだろ現世。とか考えてたら、ずっと目が合ってたドラゴンが話しかけてきた。


「ふむ、目覚めたか」


 おおう。ついさっき「あうー」とか「えうー」とか言ってた赤ん坊に、そんな普通な感じで話しかけますか。まともな応答が返ってくると思ってるんですか。思ってるんだろうなあ。しかしそういうことなら、こちらとしてもその期待に応えるのはやぶさかではない。


「あい」


 どうよこの母音のみで構成された完璧な返答。こういうこともあろうかと前世で考えに考え抜いた、「ぼくが異世界に行ったときの最強の振る舞い」シリーズより「0歳児転生で周囲が物分り良さそうなときの会話法」である。なんてったって相手はドラゴン。しかも人語を解するタイプ。物分りとかを超越して世界の真理に触れていたりしてもおかしくない。


「む。随分と察しがいいようだな。自分が転生したことを理解しておるのだな?」

「あい」

「そうか。ではどんどん行くぞ、私はこの世界の調和を司る存在であり、お前の保護者となるものだ」

「あい」

「お前が独り立ちできる年齢になるまでに、この世界で生きていくために必要な知識は私が授けよう。異論はあるか?」

「いーえ」

「良かろう。私の名はオーダーという。お前は今生でなんと名乗る?」

「ああいおう」

「ふむ、アーイオウか。アーイ、オーウ、レッツゴーみたいな感じか」

「う--------------」

「む? 違うのか? ではなんと名乗るのだ?」

「ああいおう!」

「アーイオウではないか。アーイオウだよな? ブリッツクリーグバップ的な」

「う--------------!!!!」

「わははははは、察しが良さそうに振る舞っていたのに、なぜ必死に喋ろうとする。念話と言えばわかろう?」


『あっマジか。念話もある感じか』

『当然だ。転生がある時点で全部乗せだぞ』

『えっ、ということはぶっ壊れチートスキルでなんでも解決しちゃう感じ?』

『すまぬ全部乗せは言い過ぎた。スキルチートはない。というかスキルという概念がない。一部のエリートや素質を持つものだけが扱える魔法はある。念話も限られた存在だけの特殊な能力だ。よって野菜マシマシぐらいの感覚で頼む』

『この場合の野菜がどんな概念を指すのかわからんが、なんとなく把握。そして俺の前世の知識を自在に使いこなすということは、オーダーは全能神のようなものなのか?』

『否。私は転生者の魂から記憶を読み取って己の知識にできるだけだ。転生者を理解し、この世界線の調和を維持するために与えられた力だという』

『与えられた? ということは全能神みたいなのが別にいるということか。で、世界線ルール採用というのはどういう意味で?』

『ここにいる私は本来の私とは別の私ということだな。本来の私がいる世界線がこの世界のオリジナルの世界線であり、転生者を迎え入れた時点で世界線は分岐する』

『はー、そういうシステムなのか。ファンタジーというかSFというか』

SFすごくファンタジーだぞ』

『あれ? 転生者を迎えた時点で世界線が分岐するということは、それぞれの世界に転生者はひとりだけ?』

『そうでもない。他の世界線がどうなっているのかを知ることは叶わんが、私のような存在は他にもいて、複数の転生者を迎え入れることもできる。とはいえクラス丸ごとなどという規模には対応できんが』

『ということは……俺以外にも転生者がいる可能性があるのか』

『それは秘密』

『いるんだな』

『ひ・み・つ☆』


 なにこのドラゴン最高にイラッとくる。とはいえこの茶番は俺の知識をもとに楽しませてくれてるんだろうから、何を言ってもブーメランな感じがまたイラッとくる。しかしまあ、他の転生者の存在を聞いてしまったのは俺のチョンボだし、そもそも詳しく聞くつもりがない。せっかく異世界転生して最高の物語が始まるかもしれないのに、飛ばし読みしてどうするって感じだ。


 そんで何だったっけ、ああそうだ、今生での名前だったか。


『タカミソウのまんまで行きたいんだけど、なんか問題ある?』

『この世界ではソウ・タカミということになるが、珍しい姓ではあるな』

『そうかー……』

『ソウだー』


 ……このドラゴンまじガチ頂点最強最高にイラッとくる。たぶん100%自分由来成分というのが本当に本当にイラッとくる。


『珍しいのは困る。悪目立ちしないけど実は凄い、みたいな人生希望』

『などと言って早々に実力を見せつけて、しまったやりすぎた……とか言うのだな?』

『いやいやいやいや、そういうのやらない。絶対やらない。そういうアホと一緒にしないで』

『アホとは。お前が憧れる楽しい異世界生活を広めた先人たちへの敬意が足りんぞ』

『たしかに。でも俺の知識があるなら、わかるだろ? なんで全能級のチート持ってんのにそんな軽率なのって』

『わかる。前世ではラノベとか読んでたとか言いながら、立ち回りが完全にうっかり系というのはいかがなものか』

『露骨にフラグ立ってるのに、後回しでいいか……とか言ってトラブルを呼んだりな』

『舞台装置というものはそういうものであろう』

『それにしてもやり方ってもんがさあ……。ってキリがないからまあいいや。じゃあひとまず高海たかみの姓はあきらめるとして、そうなるとただのソウか……』

『ソウなるとただのソウになってしまうソウなソウなソウな』

『殺す。この世界で勇者とかになったらお前絶対殺す』

『つらい学生時代だったな』

『まったくだ。名前イジりとか小学校で終わると思ってたのに、中高大学完走どころか社会人になってもイジられ続けて、まさか転生してもイジられるとは思わんかった』

『クリエ、というのはどうだ?』

『ん? 創=クリエイト=クリエか。悪くないな』

『エイトも考えたが、それだと勇者ルートまっしぐらになってしまいそうであろう?』


 なにこの察しのいいドラゴン。惚れる。自分と話してるようなもんって、こんなにもコミュニケーションがスムーズだったか。阿吽の呼吸、ツーと言えばカーだ。


 はっ! もしや!


『ひょっとしてオーダーって実は人化すると幼女で俺のヒロインだったり……?』

『違うし無理。女子だけど、クリエの性癖とか理解できないしマジで無理』

『せいへっ……! そうか! 俺の記憶を読むってことは…………死なせて。もうこの世界で生きていけない。いますぐ転生やり直させて』

『それも無理。お母さんに秘蔵のエロフォルダ見られたんだと思ってあきらめて?』

『ああああそうかっ! 俺が40年かけてたどり着いた至高の性癖が詰まった純粋なエロの上澄み! あの尊いフォルダはこの世界にないのか!』

『そもそも幼女など趣味ではあるまい』

『うんまあ。でも若い頃はけっこうアリで、自分は絶対にロリコンだと思ってたんだけどなあ。おっさんになるにつれて、なんか自然とそういう感じのやつが無理に』

『人間という生物の不思議であるなあ』

『他の動物みたいに、あたしいま発情してます!ってわかりやすいサインを出してくれれば、性癖が迷走することもないんだろうけどな』

『で、どうしてヒロインなどという話になった?』

『あー、コミュニケーションがすごく円滑だから、オーダーが相棒とかそういう感じになったら楽しそうだなって』

『なるほど。しかしそれは無理だな。私は世界のパワーバランスが崩れるような事象に目を光らせて、必要ならばちょいちょい脅かしたり、土木工事なんかもせねばならん』

『なるほど。そもそも考えようによってはというか、名目上は保護者だしなあ』

『ママとずっと一緒がいいというなら、愛しい我が子のためにこの母も多少の努力はしてみるが』

『俺がマザコンじゃないのもわかってんだろ、勇者のママみたいにコノハハとか言うな』


 やばいずっと楽しい。このままダラダラ話してたいけど、さすがは赤ん坊の身体、なんか急激にものすごく眠い。この世界の独り立ちできる年齢っていうのがいくつかわからないけど、まだ軽く10年以上はオーダーと一緒に過ごすんだろうし、今日のところは寝ちゃうかな。


『とりあえず転生の件は把握した。で、すっごい眠いから、寝ていい?』

『構わんぞ。しかしだな、その……、ママ、おやすみなさいとかは言わんのか?』

『言われたいのか?』

『割と』

『俺と同じ記憶を持ってるけど、あくまでも別人なの了解。おやすみなさい、ママ』


 オーダーが「はうン……ッ!」とか言いながらのたうち回っているのを横目に、俺は眠りについた。あの反応だと、今生での俺の容姿は天使に違いない。野菜マシマシ程度の転生補正は期待して良さそうだ。


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