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蘇生の儀式。

 


「これが彼等に宿していた召喚獣()の石です」


 青、黒、緑と三色ある召喚石に真ん中から亀裂が入っていた。本当に少し(つつ)いただけで壊れてしまいそうなほどに脆くなっている。


 グリーヴァは石には触れず外観だけを見てそれを(あらた)める。


「ふむ。確かにこれは危険な状態だな」


「もう砕けるのを待つしかないのでしょうか」


「いや、修復自体は可能だ。しかし、素材が足りないかもしれん」


 グリーヴァは自身に行った修復法をルナアークに伝える。グリーヴァ本人もまだ完全とは言い難い状態だが、それでも属性を持っている分三体の方が修復は容易い。同じ方法を取れば修復は可能なはずだ。


「まずは魔結晶が必要だ。ケツァクウァトルには雷属性の魔結晶、ギルガメッシュには炎属性の魔結晶。エデンには聖属性の魔結晶を」


 魔結晶とは魔石を最大にまで活性化させた物で召喚石の基になる石だ。

 死んだ神獣が魔力を求めて天然の魔結晶の元へ辿り着き、石に宿る。そうして月日を重ねて『召喚石』という物が出来上がっている。

 魔力を溜め込んだ召喚石は次第に意思を持ち始め、実態化する。それが『召喚獣』誕生の原理。


 クラウディアが急いで倉庫へと駆けて行く。


(わたくし)はなんとしてでも彼等を助けてあげたいのです」


「……まあ、我も同じ気持ちだが。しかし今石を修復したところで其方の魔力が限界に達すればまた同じ事態になる。それでは意味が無いように思えるが」


「それについては虎鉄さんから『他の召喚石で代替する』ということについて提案していただいています。ただ、その後のことを話した際にあまり良いお顔はされていなかったので難しいかと思いまして。やはりこれしか無いのです」


「……なるほどな」


 代替案のリスクの部分について説明する。李紗の記憶を見てきたグリーヴァは虎鉄が何を不安視したかをすぐに察し納得する。



 クラウディアが倉庫から運んできた大量の魔結晶を検分し、使えそうなものとそうでないものを整理する。


「やはり足りんな」


 グリーヴァは一度落胆し、「どうすべきか」と頭を悩ませる。



 遺跡での日々、グリーヴァは一度ワルキューレから「召喚石には触らないようにしなさい」と注意を受けたことがあった。だからこそここ、アレクサンドリアに辿り着くまでの道中、召喚石を吸収する際には誰かしらに食べさせてもらう形で行っていた。

 ワルキューレは触ってはならない理由については頑なに話さなかったが。


 二人にもその事について共有する。


「そういえばグリーヴァ様は召喚獣なのですよね。どのような力を持っているのですか」


 それに対しクラウディアが尋ねた。


「『ただ力を望む者の理想の姿を体現し、複製した力を使えるようになるだけの贋作』。竜也にはこのように評されたが、得た者に一時だけ理想の力を与えるだけの偽物の力よ」


「では今の姿では何が出来るのですか?」


「何も」


「え?」


「今のこの姿になってからは、魔法を使うことも召喚術を扱うことも出来ない。ただ李紗と瓜二つの女性の姿になっただけなのだ」


「そうですか……」


 グリーヴァの力に何かを期待したのであろうクラウディアはあからさまに肩を落とした。


「あの、触れてみませんか。召喚石に」


 今まで黙って二人のやり取りを静観していたルナアークが突然そんなことを言い出した。

 何か思い当たることでもあるのか表情自体は真剣そのものだ。


「……まあいいか」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 と早速と言った形で触れようとするグリーヴァとそれを慌てて止めようとするクラウディアだった。


「なんだ」


「なんだ、じゃないですよ。もし触れた事で取り返しがつかないことになったらどうするのですか!」


「現王女もそうならない確信があって言ったのだろうし、やってみる他ないだろう」


「ですが……」


 クラウディアはクラウディアでルナアークのことや可愛い弟子達のことを心配している。だから突飛な事をされるとその先の心配に駆られるのだった。

 ルナアークはそんな彼女を諫め、慰める。



「……では、触れるぞ」


 まずは青い召喚石に触れる。するとグリーヴァの身体を青白い鈍い光が包んだ。


 光から解放されたグリーヴァは先程までとは異なる様相を呈していた。

 美麗な羽織りに身を包み、身体中を蒼い光に覆われている。背中からは白く巨大な羽根が生えている。


 まるで召喚獣そのものを纏ったような姿だった。


「これが、召喚魔装というものなんですね……お祖母様」


 当のグリーヴァ本人は自分の姿に一瞬驚きの表情を見せたがすぐに元の質素な顔に戻る。

 クラウディアはあまりの事に目を見張り吃驚顔のまま固まっている。


 あまり長くは続かずに魔装が解け、グリーヴァが元の姿に戻る。

 同じように黒色と緑色の召喚石にも触れた。同じように一度仰々しい姿へと変貌した後にすぐに元に戻っていた。


「おい、見てみろ」


 そう言われ三つの召喚石を見てみると、三つとも宝石のように輝いていた。ヒビなど何処にもない、綺麗な結晶そのものだった。


「これは……」


 驚きに目を見張るルナアーク。そんな彼女の顔からも一切の疲労が抜けているように見える。

 それとは裏腹に、


 ガタッと音を立ててグリーヴァが倒れかけ、片膝をついた。すんでのところで踏みとどまりなんとか体勢を保ってはいるものの息を荒らげて苦しそうにしている。


 ただでさえ完全とは言えない状態で三度も魔装を行ったことによる魔力の酷使。それと召喚石修復の際に魔力を吸収されてしまったことで魔力が枯渇している状態だった。


「少し休めば大丈夫だ」


 ルナアークはそう言った彼を自らの布団に寝かせ、一応のためと回復魔法を行使して看病し始める。横で見ていたクラウディアも手伝ってなんとか急場は凌いだ。


 看病の途中に疲れ果て寝てしまっていた二人。翌朝の虎鉄達の来訪で目が覚める。


「これはどういう状況?」


 決意を胸に訪れたはずの通された部屋で三人の女性(一人は中身が男)が仲良さげに眠っている光景を見て出鼻をくじかれる形となってしまった虎鉄達。



 クラウディアの方から一通り説明を受け、大まかには事情を把握した。

 とりあえずグリーヴァの尽力でルナアークへの身体的な負担と損傷していたらしい召喚石は回復した、ということらしい。ただ、やはりまた同じようなことになっても困るからやはり手術は行いたい、との事だった。


 ルナアークが所持している召喚石の一覧をグリーヴァに渡す。そしてグリーヴァがその中からいくつかの石を選び取った。


 竜也には《アーク》という風属性の召喚獣を宿した石を、

 怜奈には《マディーン》という聖属性の召喚獣を宿した石を、

 虎鉄には《ディアボロス》という闇属性の召喚獣を宿した石をそれぞれ選んだ。



 そして早速儀式の準備に取り掛かる。今回は大掛かりな設備は必要ないらしくこのままこの室内で一人ずつ施術していくらしい。

 最初は虎鉄からだ。


「其方は完全に一からのスタートになる訳ではないのだから安心して生まれ変わってこい」


 グリーヴァがそう声を掛け、クラウディアが睡眠魔法を行使。眠った身体から一度召喚獣を抽出し、液状に溶かした召喚石を体内へと注入。馴染ませた後に虎鉄の魂に召喚獣を宿す。

 半死半生の状態だった虎鉄の生命(いのち)が繋がり、息を吹き返す。

 成功だった。


 同じように竜也と怜奈も手術を受け、二人とも無事に終わる。


 比嘉(ひが)虎鉄(こてつ)相馬(そうま)竜也(たつや)丹下(たんげ)怜奈(れいな)の三人は初めて一人の人間としてこの世界に降り立ったのだった。








 虎鉄達がアレクサンドリアの王城で過ごしている頃のこと。



 「まだ帰ってこないのかな……」


 輝夜(カグヤ)(じゃ)れながら遠くを見つめる狐人(ルナール)姿の李紗がいた。


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