マリアの手記。
一人の少女は旅をしていた。
この世界で生きるため、必要となる力を探し求めて世界中を彷徨った。汚い大人達に従うだけではない、自分でこの世界を生きていくための力を求めて。
彼女は幼い頃に親に捨てられて、男に拾われた。ろくな養父じゃなかった。
彼女の名はマリア・ウォーカー。
当時戦争中だったリンドブルムという国は治安が悪かった。物価は高騰し、一般市民の賃金は下がる一方。贅沢は出来なかった。ましてやスラム街で暮らすものなどはまともに生きることすら叶わない。
そんなスラム街の一角に住むリザーズ・ウォーカーは貧困していた。リザーズは金儲けのため、スラム街で捨てられた少女達を自分の養子としていた。
毎日のように『金が欲しい』と嘆く彼は何人かいる養娘達にスリをさせてなんとか生活していた。マリアはその『何人か』の一人だった。
養娘達に一般層の暮らす街から食料を盗ませて自分は何をするでもなく、毎日毎日金欲を訴えていた。
養娘達には必要最低限の食料しか与えず、またスリに失敗して帰ってきた義娘には何も与えなかった。養娘達が栄養失調や飢餓になっても自分優先で食事を分配するのである。
とある日、スリに失敗して捕まってしまった。相手は大柄の男だ。自分が適うはずも無い。
死を、覚悟した。
しかし偶然スラム街を訪れたらしい、明らかにスラム街には場違いな綺麗な着物を着込んだ青年が腰に指していた真っ白な剣で男を脅し助けてくれた。
「怪我はないか」
そう言って手を差し伸べてくれた彼。
「……はい、死んではいません」
マリアは返す。
青年はそんなマリアを見て憐れむような、そんな目を向けた。そして、用があるらしい我が家へ連れて帰ってくれた。
マリアは用があるらしい彼を家へと案内した。
「なんだてめえは」
「私はノア・クレセリア。ここから少し離れた小国の王子に当たるものです」
「小国の王子だ?そんなのがどうしてここにいる」
「貴方の養娘の中に我が国の国王の娘がいると耳にしたもので、迎えに来た次第です」
剣に手を当ててそう言ったノアをリザーズが睨む。
「……ふん、勝手に連れて帰ればいい」
「話が早くて助かります」
そして、養娘の中の一人がノアの手に引かれた。
「では」
そう言って帰って行く彼はマリアの方に振り返りもしなかった。
彼がマリアを助けたのはマリアがリザーズの養娘の中の一人だと知っていたからだった。それ以外に理由など無かったのだ。マリアは場違いにも落ち込んでしまった。
後日、リザーズの元にクレセリアから騎士が来た。
ノアが連れ帰った少女はクレセリア国王女の一人だった。ならば当然、今まで王女に不遇な扱いをしてきたリザーズを見過ごすはずもなかった。リザーズは騎士によって拘束され連行された。
そして、養娘達は無責任にも彼らの手でリザーズの手から解放されてしまった。挙句の果てに行き場をなくした子は為す術もなく一般市民の奴隷として自らを売った。
マリアも他の子と同様に奴隷になった。戦争で疲弊した兵士達の慰みものとなり、飽きたら捨てられるという日々を何度か繰り返しながら生きていた。
身体が壊れるほどに毎日毎日弄ばれて、けれど、それ以外に生きていく道は無いと人生を諦めていた。
それが、マリアが十四の頃の話だった。
十七となり、遂には子を孕んだ。
もはや誰の子かさえ分からない子を、命からがら産んだ。男の子だった。
マリアは彼に『ジーク』と名を与えて育てた。
それでも今までと変わらぬ生活が待つ。子に捧げるための乳を兵士達に飲まれ、いたぶられる。そんな中、ジークが泣き始める。するとマリアを嬲っていた男は「騒がしいから黙らせろ」と部下に命令した。
「やめて……!私はなんでもします。だからどうかその子だけは……」
懇願は届き、ジークは助かった。しかし、その代わりにマリアはそれまでの比ではないくらいに良いように扱われるようになった。
マリアが二十歳になった頃、ようやく戦争が終わり、人々の生活が落ち着きを取り戻した。
この頃、マリア自身は子を産めない身体となった。その上、内臓へのダメージは大きく、少し動くだけでも激痛が走る身体になった。そのため、横たわっている以外の事は出来なかった。
「こんな状態では育ててあげることは出来ないから」とジークの今後を心配したマリアは彼を置き手紙を添えて裏路地に放置した。
もう、こんな状態で生き続けるくらいなら死んでしまった方がマシだとマリアは何度も思った。
ある日、クレセリアという国から一人の王女がやってくるまでは。
「良かった。生きている子が居てくれた」
そう言った彼女。
マリアは思い出した。この子はあの日リザーズの元を離れた子だと。そして、私達が奴隷に堕とされた原因となった子だ、と。けれど、話すことさえままならない私はもう、何も言うことすら出来ない。
「今、助けてあげるからね」
彼女は私に魔法を掛けた。
すると、今まで感じていたものが嘘だったように身体を蝕んでいた痛みが消えた。身体を少し動かしても痛みが無い。まるで内臓全てを作り直してきちんと並べ直したような。
元気だった時に元通りだった。
「あの時リザーズに養われていた姉妹達をずっと探していたの。私のせいで不幸にしてしまった貴方達を。けれど、誰ももう生きてはいなかった。皆、男性達に良いようにされて殺されていた」
泣きながら話していた。
「そんな中、貴方だけは生きてくれた。本当に良かった」
なんで、そんな顔をするんだろう。ほんの一時、飼われる家畜のように偶然義姉妹をしていただけの関係なのに。どうして。
「私の名前はサーラ・クレセリア。私は貴方を妹として我が国に迎えたい」
何もわからぬままマリアはクレセリアの王女の一人に加えられた。
マリア・クレセリア。それがマリアの新しい名前だった。
当時、マリアを助けてくれて、サーラを連れて行ったノアは現国王となって国を支えていた。
過去の男達の暴挙によって口が聞けなくなったマリアは、筆談と手話によってコミニュケーションを取っていた。
そして隠し子扱いということで公の場には顔を出さないようにし、何が出来た訳でもないマリアは騎士達と共に訓練を受けていた。
『騎士なら話さなくても役に立てるから』と。
「あーもー!また剣の練習してる!」
そんな時には必ずサーラは文句を言いに来た。
『貴方は王女なんだから、何もしなくても怒られないし怒らない』とは彼女の言葉だが、そんな訳にはいかない。
『私は騎士としての腕ならば誰にも負けない』と自負する程にマリアは強くなった。
三年が経った頃。ノアが一人の女性を連れてきた。
「私の名前は草河祐菜」
クサカ・ユナ。聞き慣れない独特な独特な名前だった。
ノアの話によるとマリアと同様の奴隷とされていた少女の一人だったらしい。奴隷から解放された後に一人旅をしていた際に、ノアと出会いこうしてクレセリアに連れてこられたのだとか。
そしてそんな彼女は数日後にノアの王配ユナ・クレセリアとなった。とても急な話だと思った。
サーラは鬱陶しく思えるほどにノアに馴れ初めを訊ねていた。
ノアは何も言ってはくれなかった。
彼女が現れてからというもの、クレセリアという国はどんどん活発になっていく。彼女の奇抜な知識や発想により、国がうまく回るようになっていったのだ。
その中でクレセリアでも戦争が始まる。
戦争中、ユナは大きく活躍した。
彼女は神獣の力を己が身に宿し、纏って戦っていたのだ。彼女曰く、『召喚魔装』というらしいその力は敵軍を一人で相手にしても余りあるほどに強力だった。
ユナの貢献のお陰で隣国同士の小競り合いから始まったその戦争はたったの半年ほどで終結した。
後日、戦争で大きな活躍を見せることが出来ず悔しかったマリアはユナに決闘を申し込んだ。彼女はそれを了承した。
マリアは自らの全力で挑んだものの、しかし結果は惨敗だった。
その凄まじい戦い方に感激したマリアはユナに指南した。剣術の扱いから召喚獣の扱いまで教えてもらい日々身につけていく。そんなマリアの姿を見て、ユナ自身も嬉々として師範を務めた。
マリアは伝授されたそれらを記録として残した。
ノアとユナの間に子が生まれた。マリアは産まれたばかりの赤子を見てジークの事を思い出す。あの子は今どうしているだろうか、と。
『ラース』と名付けられた赤子は何の心配もなく、すくすくと育っていった。ユナはとてもラースを可愛がり、大事に大事に育てていたし、時には親しくなったらしい下位種の神獣達と遊ばせたりもしていた。ユナが召喚獣を撫でているとラースも母の真似をして撫でた。
しかし、三年と経たぬうち、ラースを置いてユナが消息不明になった。
その時ばかりは国が荒れた。ユナの失踪に彼女の夫であるノアが狂乱したからだった。
居なくなったユナの代わりにマリアがラースを育てた。
ユナは、何処へ行ってしまったのだろうか。
それから十五年後。
ユナが発展させたクレセリアはラースの代でアレクサンドリアという国に生まれ変わった。
記念にというラースの指示で召喚術士の総力を結して《アレクサンダー》という召喚獣を誕生させた。そしてノアは自らの聖剣に《アレクサンダー》を宿し、王の力として国民に示した。
王に連なる者達の名が『クレセリア』から『アレキサンドリア』に改められた。
七年後、ノアが死んだ。五十九歳だった。
彼の書斎から、普通の物とは全く異なる召喚魔法の陣が見つかった。マリアはラースと二人で協力して陣を起動せる。すると起動した陣が眩い七色の光を放った。
「きゃっ……」
陣の上に一人の女性が現れた。彼女は『望月渚』という名で、異世界から召喚された人間だった。
彼女は突然の異世界転移に戸惑っている事が多かったものの、次第に慣れ親しんでいった。ラースも最初は物珍しさから渚に付き添っていたのだが、次第に気にかけるようになっていった。
数年後、渚はラースと結ばれ『ナギサ・クレセリア』と名乗るようになった。
よく身体の不調を訴えるようになり、床に伏せっていたサーラは自分の事のように喜んでいた。
その頃、マリアはノアの書斎を荒らしまくっていた。そして、ラースと共に何度か召喚を行っていた。
ラースとナギサの間に双子が生まれた。
男の子と女の子だった。男の子には『ジタール』、女の子には『ルナアーク』と名付けた。
しかし、身体の弱かったジタールは十歳で亡くなる。
そのため、ルナアークが成人する十六歳までの間は父のラースが王権を持ち続けた。
そしていざ、ルナアークが成人した頃のこと。
今度はラースとナギサが行方を晦ました。
「この度騎士長に任命されましたリク・クサカと申します。王が定まるまで、私がこの国を先導致しましょう」
リク・クサカは行方不明となったユナ・クレセリアの息子を自称し、何度となく城内の者を震撼させた。
彼は優秀だった。書斎から過去の文献を引っ張り出し、読み込んでは国の為に応用した。知略を尽くして国を運営する様にルナアークは自然と心惹かれていた。
そしてルナアークは彼と結ばれた。
王が決まった。
彼の名はジークハルト。
元聖騎士団の騎士長だった男。身体不良で一時的に前線を退いていた。
彼の穴を埋めるために入ってきたのがリクだった。という訳だ。
そしてリクが王の代理をしている姿を見て「ならば私が王になろう」と言い出した。聖騎士団長にでは無く、王にだった。直感でリク・クサカに国王を任せてはならないと感じ自ら王に立候補したらしい。
周囲の人間も同じ思いだったのか止めるものは誰も居なかった。
マリアは国王になったジークハルトと言う男にに何かを感じ、そして涙を流した。
自らが捨て、育ててあげることが出来なかった子がこの国の王として抜擢されたのだと気づいたからだった。
ジークハルトが王として迎えられたことによりルナアークの意思など考慮されないままに彼女とジークハルトは結ばれることになった。リクとの子を妊娠していたルナアークは彼との結婚について何度も何度も首を横に振っていたが誰にも聞き入れてもらえず、渋々と言った形で了承したのだった。
それから一年後。ルナアークは一人目の子を出産した。グレーテルと名づけられた男の子は幼い頃からジークハルト直々に剣の扱いを習っていた。
グレーテルが四歳になる頃にはジークハルトとの子・リリィとアリスが生まれた。双子だった。
二年後、ジークハルトは何者かに毒を盛られた。治療という名目のまま搬送されそのまま姿を消した。
ジークハルトの失踪に一度は国が揺れるも、再びリクが国王代理を務めることを宣言し、騒動はすぐさま収まる。
ルナアークはその五年後、リクとの娘・アーリアを授かった。しかし、アーリアが生まれて直ぐに、リクは行方を眩ませた。
同時期にジークハルトの失踪から床に伏せていたマリアが息を引き取っていた。
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召喚石の回収も一段落し、アレクサンドリアに到着した一行は王城に向かう前に観光がてら復興した街並みを見物しながら練り歩いていた。
虎鉄は街並みに目を向けつつグリーヴァに対しても気を回し続けていた。見慣れぬ景色に戸惑っているのだろう。完全に知らない土地を往くかのように辺りを右へ左へと見渡しながら歩いていた。
ただ、それは虎鉄達も同様だった。
初めてアレクサンドリアを訪れた二年前は街は半壊した状態だったし、死にかけて城内に運び込まれ目が覚めてからは療養とリハビリの毎日だった。特に街の様子については触れてこなかった。案内を買っては出たものの虎鉄達にもこの土地感が薄かったのだった。
そこで「どうせなら色んな所を見て回るのもありなんじゃない?」という怜奈の一言により急遽だが、皆で城下街を観光することとなった。
竜也と怜奈の二人は露店を転々としながら楽しそうだった。俺も途中怜奈と一緒に李紗へのお土産を選んだりもして中々に充実した観光になっていたりする。
「悪いな。ここに居るのが李紗ではなく我で……」と彼女と瓜二つの顔でそんな風に申し訳なさそうに謝ってくるグリーヴァを怜奈と一緒に宥めたり。なんて事もあったが彼自身も「昔はここで小規模だが祭りが行われていた」「ここにはこのような建物が立っていたのだ」と昔語りをしてくれている辺り楽しんでくれていると分かって安心する。
居住区と思われる区画に辿り着いた際に「ここは昔貧民街だったのだ」と顔を歪ませていた。
一通りの観光を終えた後は城へとその歩みを進めた。
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祖母マリアの遺した手記を読んでいた時だった。突然の発作でルナアーク・ティル・アレキサンドリアは慌てて胸を抑える。竜也の師匠でもあった女性、クラウディア・ルーはルナアークの状態を診て溜め息を吐く。
「やはり、結構な無理をなさっていたのですね」
虎鉄ら一行がアレクサンドリアに到着したのと同時刻。ルナアークは憔悴しきった身体で床に伏せている。そしてアレクサンドリアに残留し続けていたクラウディアはそんな彼女の治療と看病を行っていた。
召喚獣は召喚主の魔力によって現界する。そして現在、ルナアークは召喚獣を三人の中に常に召喚させている状態に近い。それは常時彼らに魔力を注いでいることに相違なく、それを行っているルナアークはどんどん魔力を衰退させていた。
しかも、彼らに宿した召喚獣は上位種ばかり。エデンなどは特にだ。
「多分、やり方を間違えてたんだ。最初から李紗のように全員に召喚石を埋め込んで召喚獣と同化させておけばよかったんじゃないか」
虎鉄の師匠、クジャ・アルティは非難するように言う。
「そうね。それが出来ていたならこうはならなかったでしょう。あの儀式自体多大なリスクが伴うの。成功した李紗さんが奇跡と言っていいくらいなのよ」
「皮肉なものですね。苦肉の策で試した施術の方が正解だったなんて……」
「ええ、本当にね」
「それにだ。虎鉄がやっていた雷を身体に纏うあれはおそらく召喚獣の力だ。もし多様してたならその負担は全て女王に流れていたってことじゃないのか」
「はい、そうだと思います。先祖にそう言う技を使っていた人が居たと、マリアおば様の日記に残されていました。あれは元々私の先祖が残した技で、召喚魔装と名づけられたものです」
とルナアークはマリアから伝え聞いたクレセリアの歴史、そして今に至るまでの話を二人に話して聞かせる。
話を聞いたクラウディアは顔を引き攣らせた。
「……私の曾祖母はそのサーラ様から回復魔法の真髄を学んでいます」
今やこの世界随一の白魔法もクレセリアから継承されたものだった。
「そう。私の知らないところでクレセリアの技は今も生き続けていたのですね」
「その……ようですね」
「ええ、私が行った異世界からの召喚や召喚獣と魂の結合などは代々受け継がれてきた知識を応用したに過ぎません」
「じゃああいつらをこの世界に喚んだのは、貴方だったんだな」
「はい、そして彼らを死に追いやってしまったのです。だから私には彼らを救う義務があった。それが私自身の身を削るものであったとしても」
「だが……」
「ですが……」
女王の鬼迫に二の句を継げず言い淀むクジャとクラウディア。
「グレーテルは李紗さんという弟子を持ったことで自らの自信を取り戻し、虎鉄さんという恋敵を得たことで一層鍛練に励むようになりました」
「アーリアは彼らと出会ったことで自ら殻を破って外の世界へと踏み出しました」
「私の罪は消えはしないけれど、でもその罪が愛する子達に成長を運んでくれたのだと。だからここで私が全てを投げ出す訳にはいかないんです。身を削ってでも彼らに力を貸します」
一国の女王としてではない。一人の母としての想いだった。
「だが、もし今女王である貴方が亡くなった場合、この国は滅ぶぞ。それについては……」
「それについては心配ありませんよ、クジャさん。私が唯一愛した人、リク・クサカはユナ様の一人息子。そしてさらにその血を継いでいるのがグレーテルとアーリアです。つまり我が子二人は召喚魔装の起源、ユナ様の子孫にあたります。寧ろ私以上に国を治めるに相応しいと、そう思っていますよ」
「…………もう、お心は決まっていらっしゃるのですね」
「ええ」
ルナアークがにこやかに頷いたその瞬間。突然部屋の扉が勢いよく開かれた。現れたのは城の使用人だった。
「お休みのところ失礼致します。女王陛下にお客人が……」
「眠れなくて少し二人と話しをしていたところだから大丈夫よ。それでどなたがいらっしゃったのかしら?」
「ヒガ・コテツ様、タンゲ・レイナ様、ソウマ・タツヤ様。そしてもう一人、グリーヴァ様という方が見えておられます」
「噂をすればなんとやら、ね。良いわ、通してちょうだい」
「はっ!かしこまりました!」
今度は丁寧に扉を閉め慌てた様子で廊下を駆けていく使用人。五分後、再び扉が勢いよく開け四人を部屋の中へ案内した後に一言も喋らず一礼だけして静かに部屋を出ていった。
「久しぶりね。折角会いに来てくれたのにこんな状態で申し訳ないのだけれど」
ルナアークの不調については使用人の方に軽く説明を受けていた。身体を起こすことすらままならず、クラウディアさんが付きっきりで看病していること。日に日に状態が悪くなっていってるいることなど。
いざその姿を目の当たりにすると言葉が出てこなくなってしまう。何度か口をパクパクさせ、やっとの思いで出てきた言葉は「はい、お久しぶりです」の一言だった。