迷子の2人
あらすじ:迷子が増えた
「「はぁ……」」
俺達2人は仲良く? 階段に座り溜息をこぼす。
なんというか……疲れたのだ。
俺は人生初の希望が絶望に変わる経験をした。そしてこの女性も、俺に話しかけられて期待してしまったようだ。
俺達2人が今まで醜い言い争いを繰り広げていたなんて、言うまでもないだろう。
「なぁ、これからどうするんだ?」
「知らないよ……せっかく君に希望を持てたのに」
「あーもうそれさっきも聞いた」
「もう! 同じ日に初めて街に入った2人が、2人ともギルドも宿も見つけれないってどんなギャグよ!」
「それ文句だとしたらブーメラン刺さってるぞ」
「分かってるわよ! 自分の不甲斐なさに落ち込んでるんじゃない!」
「「はぁ……」」
今からどうすればいいのだろうか。ギルドか宿を探すにしても完全に日が落ちているため、最初より状況は悪くなっている。
しかも外には街灯などは無く、街を照らすものが建物の窓からの明かりと月明かりだけで、めちゃくちゃ暗い。
「今からどうする?」
「はぁ? 普通に探すに決まってるじゃない」
「こんな暗い中探すのか?」
「当然よ。それともそれ以外に何かあるの?」
「いや、無いけどさ……危なくないか?」
「え? 何が?」
この女……暗い路地で起こる可能性を理解してないのか?
「いや暗い路地だぞ? 初めて来た街で治安がいいのかわからん状態で通るのはまずいだろ」
「? 誘拐とかそう言うの警戒してるの?」
「当然だろ?」
「そんな奴らに何を警戒する必要があるの?」
「は?」
何を言っているんだ?
この女は普通に可愛いに入る美女だ。こんな子なんて絶好の的だろう。もっと危機感を持つべきじゃないか?
いや、立ち振る舞いから強者感が出まくってるから襲われないかも。
「もし襲って来ても返り討ちにすればいいじゃない」
「……いやいやいやいや」
「いやいやじゃないわよ。私は冒険者になるの。だからそこらの有象無象程度に襲われても平気よ」
「すげぇ自信だなぁ」
「当然よ。それくらい出来ないと冒険者になんてなれないわよ」
おっと、冒険者ってめっちゃ強くないとなれないらしいな。
しかし考えれば当然の事だろう。冒険者とは命を懸けて魔物を倒す職業。そんな職に就く人が弱いわけがない。
……どうしよう、俺も冒険者志望なんて言えない。
「お、おう。そ、そうだよな」
「そういえば貴方も冒険者ギルドに行くってことは、貴方も冒険者志望なの?」
「まあ、一応」
「ふーん、戦えるの? 申し訳ないんだけど戦えるように見えないんだけど」
「……」
戦えなくはない、と思う。実際俺はこの世界に来てから1度、戦って生き延びている。
しかしそれはサイコロのお陰であり、俺の力ではないし、出目が1か2だったら俺は『戦えない』の部類に入るだろう。
「私が言う事じゃないと思うんだけど、冒険者は命と隣り合わせで、カッコいい職ではあるけど貴方には向いてないわ。考え直した方がいいんじゃないかしら」
「うん、ありがと。でも俺にも事情があってさ」
俺は神様の娯楽の為にこの世界に転移して来た。そして俺が神様を楽しませる為の方法は、冒険をする事。
「ふーん。まあ、私は止めたからね」
「あぁ。ありがとな」
「さて、そろそろ行きましょうか」
「でもどうやって探す?」
「そうね……私と貴方の探したところ以外をひたすら歩くしかないわね」
「ですよねー」
まあそうだよねー知ってた。
俺達はお互いに探した部分を教え合い、2人で街を歩く事にした。といっても俺と女の探していない場所といえば細い路地しかなく、探す場所はそんなに多くない。なので俺達は細い路地を中心に探す事に決めた。
そして何本か細い路地に入った所で女が止まる。
「む……誰かいるわね」
「……まじ?」
「まじまじ……そこに居るのは分かってるから出て来なさい!」
女が叫ぶと柄の悪い男が出てきた。
見てわかる。誘拐をしたりする系の人達だ。
「おいおい! 俺らに気付いて逃げねぇとはいい度胸じゃねぇか!」
「大人しくしてれば命までは奪わねぇからさ」
おぉ! こんな悪党のテンプレ台詞を言うなんて!
そんな事に少し感動をしていると、女が前に出る。
「ねぇ、冒険者ギルドって何処か知ってる?」
「あぁ? 現状が分かってねぇのか?」
「答えてくれたら、見逃してあげるけど?」
「へぇ、いい度胸じゃねぇか」
男達はゆっくりとこっちに歩いて来る。
というかよくこの女を襲おうと思ったなこいつら……どう考えても戦っちゃまずい雰囲気出てるじゃん。
男達は5人、足を止める事なく歩いて来る。
「教えてくれる気は無いようね」
「あぁ、当然だろ? 教えた所でお前はここで捕まるんだからなぁ」
「ふーん、じゃあ覚悟してね」
女が剣を抜く。それを見た男達はナイフを抜き構える。
女が1歩前に出る。それが合図だと言わんばかりに男達が女に飛びかかった。
その刹那、男が吹き飛んだ。
まさに一瞬の事で、俺の目ではなにも見えなかったが、今の女のポーズを見るに間違いなく女が剣で吹き飛ばしたのだろう。
「なんだ、口ほどにも無いわね」
女は剣を収めながらそんな事を言う。
「いやいやいや、お前強すぎるだろ」
「ふふん、当然よ! なんてったって私は英雄格なんだもの!」
……なんだって? 英雄格って言ったか?
「……まじ?」
「まじよ。だからこんな奴ら程度なら束になっても負けないわね」
あれ? 英雄格って確か英雄的な行動をした者に与えられる格じゃなかったっけ?
つまり、この女はこんなに若くして英雄になったって事か?
「失礼だけどさ、何歳?」
「ん? そういえば自己紹介がまだだったわね。私はエリス・オートネル、18歳で剣姫の能力を持つ英雄格よ」
エリスと名乗る女はドヤ顔しながら自己紹介をした。




