ゴルム
あらすじ:サイコロが凄かった
「おいおい! マジかよ!」
逃げたおっさんは、俺が勝利の余韻に浸っている間に戻ってきていた。
「おいおっさん。俺を置いて逃げたくせにしれっと戻って来てんじゃねぇよ」
「はっはっは! お互いに生きてんだからいいじゃねぇか! 俺はお前を信じてたぜ?」
……嘘つけ。
俺はおっさんにジト目を送っていると。
「しっかしすげぇなオメェ。英雄格か?」
「……通常格だよ」
神の六面体の効果で英雄格にはなっているが、一応俺自身は通常格だから、嘘は言ってない。神の六面体の説明をしない限り、俺の格付けの説明が難しいし、そもそも神の六面体の存在を信じてもらえないだろうから、俺の正確な格付けは話せない。
「あの強さで通常格かよ……なんか裏技でも使ってんじゃねぇのか?」
す、鋭い……
おっさんは笑いながら言ってきたのだが、俺からしたら笑えない。あってるもん。
「いやいや……う、裏技なんてしてるはずがないだろう? それより! おっさんここで何してたんだよ」
「あぁ? 俺は仕事だからだが、オメェはそんな変な格好で何してんだ?」
言われて気付いた。俺今パジャマだ。
神様と会った時寝てて、そのまま連れてこられたのだろう。
服くらい着替えさせてくれてもいいじゃん……。
しかし、確かにこんな格好で森にいるのは不自然極まりない。
「俺は……えーっと……」
「さっきの逃げ方から察するに、冒険者では無いんだろう?」
「ぼ! ……ボウケンシャジャナイヨ」
冒険者はこの世界にもあったんだ! ちょっと感動したが、こんな格好で冒険者って言い張っても、ろくな事にならない気がしたから、とりあえず否定しておく。
「袋も持ってないから収集屋でも無いだろう? じゃあ一体何でこんな所に?」
「しゅ、収集屋? ……でもないよ!」
収集屋ってなんだよ……。そんな事はどうでもいい! 俺がここに居ても不自然じゃない理由だ!
うーん……そういえばこの世界には異世界という概念はあるのか? あるとすれば異世界から来たと言えば解決だ!
俺はとりあえず聞いてみる事にした。
「なぁ……異世界って知ってるか?」
「異世界だぁ?」
「そう! こことはまた違う世界!」
「……頭でもやったか?」
「今の無し。忘れてくれ」
ダメな気はしたけど、やっぱりダメだったよ。しかしいい理由が思いつかない。
今の俺の状況は、神様に呼び出されて、異世界に飛ばされて、森で遭難して、魔物を撃退して……どう説明しろと。
「俺は……そう! 迷子だ!」
「迷子だぁ?」
「あぁ、迷子だ」
うぅ……視線が痛い……。
苦しいのはわかっている。けどこれしか思いつかない。
見られること数秒、背中に変な汗が出てきた。やはり無理だったか?
そう思ったとの時。
「……色々聞きたいことはあるが、まあいいだろう。」
「え?」
「詮索してもろくな事になりそうじゃねぇしな。今は迷子で納得しておいてやるよ」
「あ、ああ。助かる」
なんか……いいおっさんだな。
俺は内心ホッとしつつ、表情に出さないように気を付けながら立ち上がる。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はゴムル。収集屋だ。よろしくな」
おっさんは自己紹介をしながら右手を出してきた。だから俺はその手を同じ右手で掴み……。
「俺はカズヤ。迷子だ。よろしく」
ゴルムはいい笑顔を俺に向ける。
「さっき盛大に腹が鳴ってたろ? 飯でも作ってやるよ」
「ゴルム料理なんてできんのか?」
「収集屋舐めんじゃねぇよ」
そんな会話をしつつ、ゴルムは料理の準備を開始する。その準備の手際が良すぎてちょっとキモい……。
ささっと準備を終わらせたゴルムは、早速料理を始める。森から取ってきたであろう草を鍋に入れ、よくわからん調味料の様な物と一緒に煮詰めている。
料理の工程を見ているからすごい不安になるのだが、匂いはびっくりするくらい良い香りで、食欲をそそる。
そして数分で完成したスープは、ゴルムの多分手作りであろう食器に盛られて、俺に渡された。
「ほれ」
「あ、ありがとう」
俺はスープを一口食べる。その瞬間体に電撃が走る。
「うまっ!」
「へへっ、そうだろう。俺が収集屋やってる理由の半分は、森の美味いもんを食べる為だからな」
「お前店開けよ……その方が世の為人の為だぞ……」
「そんなん始めたら、俺が美味いもん食えなくなっちまうだろ。」
ゴルムは笑いながらそんなことを言う。
店開いたら絶対儲かると思うんだけどなぁ……。
「なぁ、そういえば収集屋ってなんだ?」
「あぁ? んなもんも知らねぇのかよ。依頼されたもんを森とか山とかから集めてくる仕事だろうが」
「さっき言ってた冒険者とは違うのか?」
「お前、どっかの田舎モンか? 冒険者は依頼された魔物を殺すのが仕事だ。全然似てねぇし、危険度も需要も違げぇよ」
「そんなの冒険者にやらせればいいんじゃないか?」
「魔物の被害が多いからな。戦える奴らにこんな事させられる程、余裕はねぇんだよ。それくらい察しろよ。」
なるほど……収集屋は俺の知っている低ランクの冒険者って感じなんだろう。冒険者になった瞬間から、魔物と戦わなければならないのか……。
「カズヤ、お前これだけ戦えるなら冒険者になれよ。」
「はぁ? 嫌だよそんな……」
ふと神様の言った事を思い出す。
『僕がつまらないと思ったら、取り上げるからそのつもりでね』
……え? 俺冒険者にならないとまずいのでは?
神様が面白いと思う事、即ち世界の変化、もしくは俺の変な行動などがそれだと思うけど、それは俺が冒険しないと得られないのでは? 俺が前の世界の物を真似て色々変化をもたらしたとしても、それは神様にとっては2回目の出来事で、それはそれは面白くない事だろう。世界の変化なんて高校生如きが出来る筈もないから、俺に冒険しろという事か……。
「……そんなかっこいい職に就かないわけがないだろう! はっはっは……」
「はぁ?」
「ま、まあいいや。それよりはやく食っちまおうぜ。」
「あ、ああ」
俺は現実逃避をするように、スープを完食した。




