異世界転移
あらすじ:サイコロ貰った
気がつくと、再び見たことのない光景が広がっていた。
俺の周りには見たことのない植物、と言うか木ばかりだが、視界に入る情報の全てが俺の見たこのない物ばかりで、本当に異世界に来たのだと実感する。
俺は、ちょっと感動しながら周りを見渡すが、視界に入るのは木、木、木……そう、木しかない。
これは察するに、森に飛ばされたな。
神様よ、未知の世界でいきなり森とはハード過ぎないか? しかし、森だからと言って止まっていても助けが来るはずもないので、俺はとりあえず森を抜けようと試みる。
結論から言おう、ダメだったよ。
いや、未知の世界で未知の森を抜けることすら希望を持てないのに、周りにあるのは似たような木ばかりで、もうどっち歩いてるのか全然わかんないよ。
さらに、歩けば喉が乾くし、腹も減る。
目的地がわからない上に、どこを歩いているかわからないと言う精神状態に加えて、喉が乾いておまけに空腹……これはあれだね、絶望というやつだね。
もういっそ、そこらの草でも食ってやろうか……。
そんな非常に危険なことを考えながら、俺はふらふらと歩き続ける。
その時、遠くの方で自然では発生しないような音が聞こえた。
今のは……悲鳴?
冷静に考えれば危険だとすぐにわかるのだが、今の俺にはそんな事を考えることが出来るはずもなく、音の方に向かって歩いていく。
しばらく歩き、音がかなり近付いて来た時、1人の男が必死な顔で走って来た。
「すまねぇ! 魔物を連れて来ちまった! お前も速く逃げろ!」
「ま、魔物?」
俺は男の後ろを見る。視界に入って来たのは、大量の狼やら熊やらと言った野生動物と、漫画でよく見るゴブリンのような生物だ。
俺は、今までの疲労がなかったかのような勢いで、男と同じように走り出す。
「なななな何あれ何あれ!」
「あぁ!? だから魔物だっつってんだろうが! フォレストウルフにキラーベアーにゴブリンの群れ だ! そんな事よりさっさと走れ!」
俺はチラリと後ろを見る。確かに俺の知ってる狼や熊より大きく、獰猛な見た目をしている。
前の世界でも常識だったが、人間は自分の足で走ったのでは、間違いなく野生動物からは逃げ切れない。それはこの世界でも同じようで、みるみる差が縮まっていく。
「ハァハァ、おっさん! これ走って逃げれんのか!?」
「ゼェゼェ、いや! 無理だ!」
「ならなんで逃げてんだよぉ!」
「バカかテメェは! 死にたくねぇからに決まってんだろうが!」
知ってたけどさぁ! 異世界転移して来て初日で死にかけるってハード過ぎるだろ神様ぁ!
その時、ふと思い出す。
「神の六面体」
「あぁ!? なんか言ったか!?」
「おっさん! 俺達助かるかもしれない」
「なんだと!?」
そして俺は止まり、魔物達の方を見る。
魔物達も野生の勘か何かで俺の雰囲気が変わったのを感じたのか、一斉に動きを止める。
おっさんも魔物の動きが止まった事に疑問を持ったのか走るのをやめて、俺の横に歩いて来た。
俺は神様がやっていたように、右手の手のひらを上に向けて、そこに、意識を集中させる。
……どうしよう、何も起きない。
「おい、どうした?」
「おっさん、どうしよう。何も起きない。」
「はぁ?」
俺は右手を何度も開閉を繰り返しているが、あの美しい神の六面体が出現する気配がない。
魔物達も違和感を感じつつなのかジリジリと俺達との差を詰めて来る。
「ねぇ、どうしたらいいと思う?」
「知るかバカ!」
おっさんは勢いよく後ろに向かって走り出した。
「ちょ!」
それと同時に魔物達も勢いよく俺に向かって来た。
だから俺も後ろに走る。
「神の六面体! サイコロ! ダイス! 来てくれ! カモーン! あぁ分かんねぇ!」
俺は逃げながらも諦める事なく、神の六面体を使おうと試みる。
そして背後の狼が俺に飛び付いて来る瞬間に……。
「召喚! 神の六面体!」
その瞬間、時間が止まった。
そして右手の手のひらには、あの美しいサイコロが乗っている。
《神の六面体の召喚に成功。神の六面体を使用してください。》
声が脳裏に響く。どうやらアナウンスしてくれるようだ。
体は一切動かないが、右手のみ動くのでそれで投げるようだ。
俺は手首のスナップを利かせ、神の六面体を投げる。空中で回転しながら放物線を描き、地面に落ちる。神様の言った通り、出た目の数は3。
《3。英雄格を獲得。能力。超直感。非常に優れた勘を獲得》
説明雑っ!
詳しく聞きたいが、周りの時間が戻って来ているのでとりあえず後ろの狼を何とかするため、振り返りつつ回し蹴りをする。
武術なんて習っているわけがないのでナンチャッテ回し蹴りだが、武術家のように鋭い回し蹴りが出来て、狼は近くの木に叩きつけられた。
これが英雄格の力か。
魔物も含めこの周辺にいる生き物の中で恐らく俺が1番驚いてるなぁ。
そんな事を思っている時、不意に右側から頭部に何かが来るような気がした。
右を向いてみると、ゴブリンがちょうど矢を放ったところだ。
飛んで来た矢を俺の目はしっかりと見えている。
超直感すげぇ……これが無ければ死んでたかも。
英雄格の恩恵で矢を躱せた俺は、周りの魔物達を蹴散らしながらゴブリンの方まで走って行く。
「ギギィ!」
ゴブリンは悲鳴のような声をあげながら俺から逃げとようとするが、流石の英雄格、あっという間にゴブリンに追い付き渾身の右ストレートを叩き込む。
超直感は死角からの攻撃を何となくだけど察知出来る能力か? しかも英雄格だから見てから回避出来ちゃうし……何このチート。
超直感について自己分析しつつ俺は次の魔物に襲い掛かる。が、不利を悟ったのか魔物達は一斉に後ろに向かって走り、逃げ出した。
追い掛けようとも思ったが、未知の森で深追いは危険だ。
とりあえず勝利の余韻に浸っていよう。
英雄っぽくカッコつけながら逃げる魔物を見ていると、ぐぅ〜と情けない音でお腹が鳴った。




