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初陣を終えて

あらすじ:カズヤはポンコツ

 夜になり、村では小さな宴が行われていた。理由は単純で、初のゴブリン襲撃を撃退したからだ。

 しかし俺は肩身が狭く、あまり楽しめそうにない。


「お嬢ちゃんすげぇな! 俺見てたぜ!」

「エリスの嬢ちゃんが居てくれて助かるわ!」

「もういっそ村に住まないか!? 待遇は保証するぞ!」


 このように村の人達はエリスを褒め称えているのだ。

 今回に関しては俺は確実にお荷物だった。その自覚はあるから称賛されないのは当然だと理解している。そしてエリスが外のゴブリンを全滅させたのも事実で、称賛されて当たり前なのも理解している。しかし相方のみが称賛されているとこうも肩身が狭いとは思わなかった。

 現在宴の中央にはエリスを囲むように村の人達が集まっており、俺はその外で座ってボケェーっとしながらそれを眺めている状態だ。

 気を遣って何人かがご飯を持って来てくれて「気にするな」や「元気出せって」と慰めてくれるのだが、その口撃は今の俺に効く。


 後からエリスに聞いたのだが、ゴブリンの恐ろしさは群れることにあり、単体では脅威にならないと言うことらしい。

 つまり生身の俺ではその脅威にならない対象ですら倒せないのだ。

 漫画やアニメだと異世界に行ってもゴブリン程度圧倒する事が多い。事実この世界に来て最初の戦闘では圧倒することが出来た。しかし現実は厳しく、生身ではギリギリ戦える程度だ。


 このままでは神格になる以前に英雄格になれるかすら怪しいな。

 

 そんな事を考えていると、村の人から解放されたエリスが歩いて来る。


「やっともう宴も終わりだからって解放されたわ……」

「はっはっは……戦犯を笑うがいい……」

「別に笑わないわよ」


 エリスはそう言いながら鼻で笑い、俺の隣に座る。


「それで何考えてたの?」

「いやさ、俺ちょっと弱過ぎ? って思ってさ」

「あー確かに訓練してた感じだと話にならないレベルで弱いわね」

「うん自覚はあるからいいけどさ、お前オブラートに包むって言葉知ってる?」

「オブラートは口の中で避けちゃうから、包んで喋れないわね。まあそんな事は置いておいて、ゴブリン程度で苦戦してるようだとすぐ魔物に殺されるわよ?」

「うん……割とちょっと危機感じてる」


 1体にあれだけ苦戦したのだ。あれが2体3体に増えたら……ゴブリン以上に強い魔物だったら……俺は呆気なく殺されてしまうだろう。

 

「……あれだったら私が教えてあげようか?」

「……痛くない?」

「私が手加減を覚えるまでは痛いかも?」

「望み薄だな」

「明日覚悟しなさいね」


 わーすごいいい笑顔。俺明日死んじゃうかも。


「とりあえず、明日はゴブリンが出てきた森の中をちょっと探索する感じでいいかしら?」

「ゴブリンが出やすいよな? 不安だなぁ」

「大丈夫よ」

「その心は?」

「またしっかり訓練してから捜索するもの!」

「俺またボロボロで戦うのか……」


 どこも大丈夫じゃないんだが。むしろ明日が憂鬱になったんだが。

 

「さて、明日は朝ちゃんと起きなさいよ」

「……善処します」


 宴を終えた俺たちは、明日のために寝ることにした。



―――――――――――――――――――――――――――



「……」

「ご、ごめんね?」

「別にいけど……」


 訓練という名のサンドバッグ代わりになっていた俺は、村で治療を受けていた。


 少しは手加減を覚えると期待していたが、案の定期待は裏切られ、治療してくれる人も「え? 魔物に襲われた?」って反応をしている程だ。


「だ、だってさ、逃げるのばっかり上手くなるんだもん! 割と本気で追い掛けないと捕まらないし、本気で追い掛けると手加減が……ね?」

「だって逃げないと痛いじゃん……」

「戦う訓練でしょ!? 逃げる訓練じゃないわよ!」

「いやいや……正面から戦ってもサンドバッグになるだけじゃん……いや逃げてても変わらんかったけど!」


 格上の相手に正面から戦うのは阿呆がやることだ。特に手加減を知らない相手の場合は逃げるが勝ちである。


「というか、剣姫相手に近距離で戦うのは頭おかしいでしょ!?」

「ん? 私能力使ってないわよ?」

「へ?」


 いやいや、貴女思いっきり棒を剣扱いしてたじゃない。


「だってあれは()()()()()()()()()()もの。剣だったらそんな物じゃ済まないわよ?」

「でも試験の時木剣で戦ってたじゃん!」

「あれは私が剣って認識したからね。木の枝程度じゃ剣って認識出来ないわよ」

 

 今でも十分化け物みたいに強いのに、これが本気じゃない……だと?

 

「え……じゃあ何? エリスって能力頼りじゃなくて普通に強いの? ゴリラじゃないの?」

「あ、そういうこと言うから手加減覚えれないのかも」

「それはマジで覚えて! 本気でお願い」


 覚えてくれなきゃマジで死んじゃう!

 そんな事を言っていると、俺の治療が終わり、怪我を治してくれたおばちゃんがニコニコ笑いながら声をかけてくる。


「お嬢ちゃん。好きな子にちょっかい掛けたくなる気持ちは分かるけど、もうちょっと優しくしてあげたら? じゃないとこの子死んじゃうよ」

「は? 別に好きってわけじゃないわよ」

「そうなの?」


 お、おう……漫画みたいなツンデレ的な否定なら救いがあったんだけど、マジ顔マジトーンで否定されると心にくるな……。


「冒険者としての相棒だからね。強くなってもらわなきゃ困るの!」

「相棒?」

「何? いやなの?」

「いやほら。俺、昨日ポンコツしてたじゃん? いいのか?」


 昨日の俺は冗談抜きでお荷物だった。こんなのが相棒でいいのだろうか。


「相棒じゃなかったら訓練なんかしないわよ。それに基本性能がポンコツでも、あんたにはギルマスを瀕死にした爆発力があるからね! そこに期待してるわ」


 昨日のポンコツ具合に割とガチで自信喪失していたが、それでも相棒とし見てくれている事に、驚くと同時に喜びの感情が溢れてくる。

 やばいニヤける。


「何ニヤニヤしてるのよ。ほら、終わったなら早く行くわよ! ゴブリンが出てきた森をちょっと探索しましょ!」

「いたたた! ちょっと待てよ!」

「あらあら。気を付けてねー」


 俺はエリスに襟を掴まれ、引き摺られながら医療室を出るのであった。

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