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初陣

あらすじ:俺の体は既にボロボロ

 叫び声を聞いて俺とエリスは急いでその場へ駆けつける。

 漫画のように一緒に到達して、アイコンタクトで作戦を決めて戦いを始めるなんてかっこいい展開を予想していたのだが、圧倒的に足の速いエリスは俺との距離をグングン引き離して先へと行ってしまう。


 いやエリスが足が速いのもあるんだよ? でも俺はエリスに殴られ蹴られでボロボロだ。 足がいてぇ……腰がいてぇ……。

 

 痛む体に鞭打ってなんとかたどり着くと、村に侵入していたゴブリンはエリスが討伐した後で、その背後に10数匹のゴブリンが村に侵入しようとして来ていた。


「遅い!」

「お前のせいでもあるの自覚ないですか!?」

「私は村に入って来ようとしてるゴブリンを仕留めるから、入って来たゴブリンを任せて大丈夫かしら?」


 確認と挑発を含んだ質問に俺はニヤリと笑い自信満々に答える。


「当然よ! 任せろ!」


 満足気に頷いたエリスはダッシュで村の外へと消えていった。

 1匹のゴブリンが既に村に侵入しているが、残りはおそらくエリスが逃す事はないだろう。つまり俺の相手はゴブリン1匹だ。


 ゴブリン1匹程度……余裕だな!


 俺は能力の投擲を使うために近くの石を拾う。

 距離は約10メートル程であろう。流石にこの距離なら当たるだろう。

 

 俺は勢いよく石をぶん投げた。

 俺は運動はそこそこ出来る方だったので、投げた石は放物線ではなく、一直線に飛んでいく。


 そう、一直線にゴブリンの横を通り過ぎていった。


 ……知ってたよ。非常に短いわけじゃないもんね。


「……よし初の依頼キッチリこなすぜ!」


 さっきの出来事は無かった事にして、俺は自信満々でゴブリンに走り出す。

 ゴブリンはゴブリンが持っていそうな棍棒を片手に、俺を威嚇するが、エリスとの戦い(訓練)を乗り切った俺には枝にしか見えない。


 走る俺を迎撃するためにゴブリンは棍棒を振り回す。しかしその棍棒はエリスの枝に比べるまでもなく、遅く鈍い。

 

 振り回される棍棒を掻い潜り、俺はゴブリンを容易く仕留める。

 ……予定だった。


「ぐへぇ!」


 棍棒が俺の体に直撃した。

 そしてまさか当たるとは思わなかったのかゴブリンも一瞬止まった。


 棍棒が見えるところまでは良かった。そして恐れず前に出たのも良かったのだろう。しかし、見えているのと避けれるのはまた別の話であった。

 

 カズヤは一度森でゴブリンと軽く戦ったのだが、その時は

神の六面体の影響で英雄格の力を持っていた故に、ゴブリンなど相手にならなかったのだが、今回与えられたのは通常格。すなわち一般人と同じ程度でしかない。

 そしてカズヤは日本という平和な国で平和に暮らしていた人間だ。素の状態で勝てる道理がない。

 

 あ、やばいやばい痛い!


 半ばパニックになっている俺を見て、余裕を取り戻したのかゴブリンがニヤリと笑い俺の方へ歩いて来る。


 やばいやばいやばいやばい。


 武器になりそうな枝は捨てて来ちゃったし、投擲は当てにならない。

 俺は悶絶しながらもなんとか距離を置こうとするが、這って移動している俺より、歩いているゴブリンの方が圧倒的に速く、あっという間に追いつかれ俺の足を掴む。即座に棍棒を振り下ろせば再起不能になるのに何故か振り下ろさず、ただただ笑っている。

 なぶり殺す気満々なのだろう。


 俺は腹立たしさと悔しさで土をぐっと握りしめる。


 最後の抵抗だ!

 

「ふざけんなクソッタレェ!」


 まるで小学生の喧嘩のような抵抗だ。しかしこの距離で目に当たればさぞ痛かろう。

 俺は土を顔面に、あわよくば眼球に当たるように投げつけた。


 すると、投げつけた土は顔面全体に当たるように広がって飛んだが、不思議な力が掛かったかのように、飛んだ土は収束し、ゴブリンの眼球に吸い込まれていった。


 土をもろに喰らったゴブリンは声にならない悲鳴をあげ、のたうち回る。


 今のは恐らく投擲の能力だろう。あんなに近距離じゃないと効果はないが、投げたものであれば全て収束するなんてなかなか奇妙な光景だった。


 一瞬呆気に取られたが、すぐに棍棒を取り上げて距離を取る。

 完全に形勢逆転し、今度は棍棒を振り下ろせばゴブリンはそのまま殺すことができるだろう。しかしなかなか棍棒を振り下ろせずにいる。


 森の中で魔物と戦った時も、今回も命の掛かっていた。

 追い詰められればネズミだって猫を噛むように、人間も追い詰められれば、生き物に躊躇なく「暴力」を振るう事が出来る。

 しかし今は違う。ゴブリンには勝ち目はなく、俺の圧倒的に優位な状況での「暴力」だ。

 棍棒を振り下ろせば()()()で生き物を殺す事になる。

 

 なかなか覚悟を決めれず躊躇していると、のたうち回っていたゴブリンが急襲いかかって来た。

 考えに没頭していたので反応が遅れる。

 やばいっ! と思った直後に、ゴブリンの首に一閃がはしる。


「……あ」

「何してんのよ?」


 全てを片付けたエリスが戻って来ていた。



―――――――――――――――――――――――――――

 


「それで、どういう状況だったのかしら?」

 

 俺はエリスのゴブリンとの死闘の様子を、そして覚悟が足りずに殺せなかった事を話した。


「あんたねぇ、戦いの最中は殺す以外のこと考えちゃダメよ!」

「いやでもさ」

「でももくそもない! あんたそれで死に掛けてたのよ? そんなボロボロで!」

「いやこのボロボロの大半はエリs」

「えぇい喧しい!!」

 

 エリスに殴られる。

 理不尽だ。


「じゃあさ、エリスはどうなんだよ。完全に優勢の時に生き物を殺す事に躊躇はないのか?」

「私はもう無いわね」

「もう? って事は昔はあったのかよ!」

「当たり前でしょ?」


 よかった。その辺の倫理観は元の世界と変わらないようだ。

 しかし、今はという事は乗り切ったのだろうか。心を鬼にしているのだろうか。


「じゃあさ、エリスはどうやって躊躇なく殺してるんだ?」

「なんか言い方がやだ」

「……どうやれば能天気に殺戮を行えるんだ?」

「言い直した方が酷いじゃない! 私そんな虐殺してないわよ!」


 エリスの目をじっと見つめていると、エリスはため息を吐き応えた。


「簡単よ。私は()()ちゃったわ」


 エリスの目はどこか諦めてしまったように見えた。

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