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神の六面体の必勝法

あらすじ:競争した

 馬車は予定よりもだいぶ早く出発した。どうやらこの馬車はアルバが俺達のために手配してくれた馬車らしく、他の乗客はいないらしい。

 人生初の馬車に乗ったが、運転が上手いのかあまり揺れることもなく、乗り物酔いの心配もないだろう。

 これは快適な移動になりそうだ。

 そんな事を思っていると、顔に出ていたのだろう。アリスが俺の顔を見て不思議そうな顔をする。


「何そんなニヤニヤしてるのよ」

「いや馬車って意外と乗り心地いいものだなって思ってさ」

「ん? どういう事?」


 エリスが首を傾げる。


「俺馬車乗ったの初めてなんだよ! もっと揺れたり乗り心地悪いもんだと思ってたわ」

「……あんたアグセムで迷子だったわよね? 外から来たんじゃないの?」

「あーそれは……色々あってね」


 どうしたものか……。

 事情を説明しようにも最初から説明すると、異世界から来た事を説明しなくてはならないが、確実に信じてもらえないだろう。しかし、嘘を付くのも何か嫌だ。

 とりあえず正直に話してみるか。


「俺実はさ、神様に異世界から森に転移させられちゃったのよ」

「……」


 話を聞いたエリスは能面のような表情をしている。その顔は『早く正直に言え』と語っている。

 わかってる……自分でも変なこと言ってるのは理解してるんだよ。


「……嘘です冗談です」

「次は無いわよ」


 嘘は言ってないんだけどな……超怖いし……もう適当でいいや。


「あれだよ……アグセムまで歩いてきたんだよ」

「1番近い村でも歩きだと相当時間かかるわよ?」

「あぁ……長い旅だった」


 と言う事にしておこう。

 エリスは納得したようなしていないような、微妙な表情をしているが、気にしない事にしておく。

 

「逆にエリスはアグセムには馬車で来たのか?」

「ええ、そうよ」

「……エリスなら走った方が速いんじゃないか?」

「バカじゃないの?」


 半分ほど本気で聞いたのだが、流石のエリスでも馬車の方が速いのか。

 

「まあそうだよな」

「単純な速さなら勝ってると思うけど、長距離走ると疲れるし走りたくないわ」

 

 速いんかい! こいつマジでとんでもないな!


 エリスの身体能力に驚愕していると、1ついい考えが浮かんだ。

 エリスは英雄格だ。当然常識では考えられないような、重たい荷物だって持ち運べるだろう。実際にそうなのであれば……エリスが馬車を引けば馬より速く移動できるのではないか? 

 名付けてエリス車……街の中の移動手段として、多少お金を貰えば一儲けできるんじゃないか?


「なあエリス、一儲けできるかも知れないいい考えを思いついたぞ」

「ふーん……変な予感しかしないけど一応聞いておくわ」

「街中で馬車とか荷車ひいてはこ引いて運ぶんだ! 馬より速く運べるだろ?」

「……それって私が引くの?」

「もちろん。俺荷車引けないしな」

「ぶっ殺すわよ?」

「じょ、冗談でやんす」


 いい英雄格の活用方法だと思ったが、やっぱりダメかー。

 

「だいたい、あんただって能力使えば引けるでしょ……って言うか説明! 馬車でするって言ってたじゃない!」

「そういえば忘れてた」


 俺はエリスに、神の六面体の簡単な説明をした。


「ふーん。って事はさっきの競争は1か2が出たって事でいいのよね?」

「そう。2が出たから戦闘で使える範囲の能力が貰えたって事だ」

「ちょっと思ったんだけどさ、能力使って弱いのが出たら、1時間待機してまた能力使ってを繰り返してさ、それをいいのが出るまで繰り返せば強い能力使い放題なんじゃない?」

「お前……天才か?」


 そうじゃん。そうすれば安全に魔物を倒せるじゃん。毎度ハズレ能力が出る度に、1時間待機しないといけないのは面倒だが、よほどの緊急時以外はリセット出来るじゃないか!


「ありがとうエリス! おかげで憧れてた異世界無双ができそうだ!」

「い、異世界無双?」

「そう! 能力を使って苦もなくバッサバッサと敵を倒しまくる! 俺の夢見た状態!」

「ふーん。苦もなく……ねぇ」

「ん?」


 何か引っかかる返事だ。


「それがどう言う存在なのか、状況なのかはわからないけどさ、きっと私は憧れないかな」

「え?」

「だってさ、何も苦もなくって事はさ……苦戦とか苦労とかそう言うのをしないって事でしょ?」

「まあ苦戦とかはしないかな? それが無双だし」

「そんなのさ、()()()()()()()()


 つまらない……だと? 

 生きるか死ぬかのこの世界で、戦いに快楽を求めているのかこいつは!?


「生き残る事の方が……大事だろう!」

「それは当然よ。でもさ……何も苦労しないで戦っても、その先に得るものは何もない」

「ッ!?」


 これがこの世界の考え方なんだろうか。

 苦労した戦いの先に得るもの……それは格の上昇なのか、それともまた別のものなのかは分からない。しかしエリスにとっては大事なものなのだろう。エリスの目が、声音がそれを語っている。

 そして、それはおそらく俺にも大事な事なのだろう。きっと前の世界では得る事のできない、とても得難いものだ。


「それに、そんなの見てても飽きそうじゃない? だからカズヤもやっちゃダメだからね」

「あ、飽きるって……」


 見てて飽きると言われて神様に言われた事を思い出す。神の六面体はつまらないと思ったら取り上げられてしまうのだ。

 

「まあでも、つまらないならしょうがないな」

「ええ。しょうがないのよ」


 俺とエリスは軽く笑った。

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