競争
あらすじ:初の依頼を受けた
朝、俺達は初めての依頼にテンションが上がり過ぎたのか、予定していた時間よりも早く起きていた。
「……どうしよう二度寝するほどの時間は無いぞ」
「うーん……もう門に向かう?」
「今から準備して向かったとすると……7時くらい?」
「多分それくらいになると思うわ」
「ここでダラけて遅刻するのもアホらしいし行くか!」
集合時間には早いが、準備をしてアルバに言われた通り、門に向かう事にした。準備と言っても俺には、パジャマと黄金で派手派手な服とアルバに貰った服以外何も持っていないため、ほぼエリスの準備だ。俺はアルバに貰った服に着替え、一応服を鞄に詰め込んだだけすぐ終わった。
しかし、着替えただけの俺は無駄にテンションが上がっていた。
「見てくれよ! めっちゃ冒険者っぽくない!?」
「そうね、冒険者っぽい。馬子にも衣装ね」
「ぶっ飛ばすぞ」
「機能はどうかしらね。どう? 動きやすい?」
「結構軽いし、そこそこ動けると思う」
「ふーん」
ジッと俺の服を見たエリスは、ニヤリと笑い俺の顔を見る。
「ねね! ここから門まで競争しない?」
「競争?」
「ここから門まで大体500メートルくらいじゃない? ちょうど良くない?」
「うーん」
確かにこの服でちょっと動いてみたいが、500メートルは現代人である俺には、全力で走るにはやや長い距離だ。
それに……。
「エリスは英雄格じゃん。流石に勝負にならないって」
「私は鎧も着けてるし、腰にも邪魔っ臭い剣をぶら下げてるのよ? それにあんたの荷物……は少ないけどそれも持ってあげる。これでどう?」
「うーん……」
女の子に手加減される事もなんだか気持ちよく無いのだが、それでも勝てる気がしない。
「何? ひょっとしてビビってるの?」
エリスがニヤニヤしながら顔を覗き込んでくる。そんな事言われて反応しないわけにはいかないと、俺の中に流れている変な血が騒ぐ。
「はっはっは。舐めんな! いいだろう、やってやんよ!」
「ふふふ。流石カズヤね! 挑発すればノって来る。嫌いじゃ無いわよ!」
「奇遇だな。最近、俺もこんな性格が意外と気に入ってたりする」
こんな性格だから先輩冒険者達とも仲良くなれた気がするし、単純でアホらしいが、やってみると意外と楽しかったりするのだ。だから、最近はバカな挑発にノっちゃうのも好きだったりする。
「ルールは私が石を投げるから、地面に落ちたらスタートで、門を先に触った方の勝ちね!」
「おーけー。妨害は?」
「ぼ、妨害!? なしなし! 何考えてるの!?」
「くっ! 勝ち筋が1つ消えた!」
「馬鹿言ってないで早く荷物を渡しなさい」
「あ? そんなハンデ要らんわ!」
俺の鞄、軽過ぎて意味無いし。
それに俺には秘策がある。
「そう? じゃあ行くわよ!」
エリスが石を放る。その瞬間、俺は右手を突き出す。
「召喚。神の六面体」
「え!? ちょっ」
《神の六面体の召喚に成功。神の六面体を使用してください。》
時が止まり、アナウンスが脳内に流れる。
ふははは。妨害はしないが、能力を使っていけないなんて言われていない!
これであれば3か4が出ればいい勝負に、5か6が出れば圧勝だ。1と2は知らん。
俺は神の六面体を放る。地面に落ち、転がった神の六面体が示す数字は……。
《2。通常格を獲得。能力。帯電。微量な電気を蓄電する能力を獲得》
……あぁ、スマホがあったら便利だなぁ。
現実逃避がしたくなるような能力。これでどう勝てと?
時が動き出すと共に、石も動き出す。
こうなったら普通にやるしかない!
「っと待って!? それずるくない!?」
俺はクラウチングスタートの体勢を取り、スタートダッシュの準備をする。幸いなのか、エリスは俺が能力を使った時の反応からスタートするので、スタートはやや遅れるだろう。つまり、スタートが最大の勝気になるのだ。
石が床に落ちた瞬間、俺は勢い良く地面を蹴り、スタートする。案の定エリスはスタートが遅れ、多少差が開く。
しかし相手は英雄格だ、安心できない。このスタートの差がどれだけハンデになるか分からない。
俺は後ろのエリスの声を無視してゴールまで一直線に走る。
その瞬間、物凄い圧を背中に感じた。
チラッと後ろを確認すると、エリスとの差はほぼ埋まっており、次の瞬間には抜き去られていた。
「はっや!」
反則紛いのハンデがハンデになっていない。それどころか、ハンデ有りの勝負が勝負なっていなかった。
心が折れつつ、やっとの思いでゴールに辿り着く。
「ふふん。私の圧勝ね!」
「はぁ……はぁ……勝てるかぁ!」
「カズヤだって能力使ったじゃない! それにしては遅かったけど」
「はぁ……3分の1のハズレを引いたんだよ……はぁ……」
「ふーん……どんな能力?」
「帯電だってさ……どこで電気貯めるんだよ……」
「……試験の時と差が凄くない? ランダムってどんな感じの能力なのよ」
「うーん……馬車で説明するよ」
もしハズレじゃなければいい勝負になったのだろうか。
以前ゴルムと森で戦った時にも走ったが、エリスほど速く走れた記憶がない。これは能力の差だろうか、それとも本人の運動神経の問題なのだろうか。
もしも、本人の問題なのであれば、俺が強力な能力を得たところで、使いこなせないのではないだろうか。
「はぁ……これは鍛えないとまずいか?」
「体を鍛えるの? 確かに500メートルくらいで息切れし過ぎかも?」
「あー疲れた! なんで朝っぱらからこんな走ってんだよ!」
「私の勝ち!」
「うるさい!」
予想通り、大体7時に門に到着した。
門を出ると、集合時間にはまだ1時間ほどあるのにすでに馬車は止まっており、その横で男性が待っていた。
「え、はや。まだ1時間あるよな?」
「え、ええ……」
馬車に近付くと、男性は俺達にお辞儀をする。
「お待ちしておりました。カズヤ様にエリス様ですね?」
「「はい」」
「どうぞお乗りください。今回はあなた方お二人のみでございますので、ただちに出発してもよろしいですか?」
「「あ、お願いします」」
俺達は馬車に乗り込み、席に座る。席にはまだまだ余裕があり、確実に二人用ではない事だけはわかる。
二人だけでこの馬車に乗れるのか。なんか凄いリッチになった気分だ。
男性が操縦席の乗った時に、男性は俺たちの方を振り向き微笑みながら俺達に声を掛けてきた。
「勝負はエリス様が勝ったのですか?」
「……聞こえてました?」
男性はニコニコしながら頷く。
あぁ……すげぇ恥ずかしいなぁ!




