初の依頼
あらすじ:冒険者の飲み方は頭悪い
眼が覚めると例の馬小屋にいた。
思い出すと昨晩は酷いものだった……。頭悪い程飲んだせいで潰れそうだったので、治癒してもらおうと思ったのに、治癒能力の人は既に潰れていたのだ。と言うか治癒能力者が冒険者の中で1人しか居なかったんだが……。
何が潰れたら治すだよ……超頭痛いんだが。
口の中もネチャネチャするし寝起きは最悪だ。
これが噂に聞く二日酔いというやつか……。
「うぁ……水ぅ……」
とりあえず水が欲しいから俺は近くの川まで行き、水を飲む。
口の中の不快感は少しは和らいだが、今はキンキンに冷えた水が欲しい。
「あら、やっと起きた?」
水を飲んでいると後ろからエリスに声を掛けられた。
「あぁ……おはようエリス」
「おはよ、気分は……良いわけが無いわね。昨晩あんなに飲んで」
「うん、もう頭痛い……気持ち悪い……」
「でしょうね。イリスさんもエール一杯で潰れちゃうし……」
お酒弱っ!
あの先輩方め、絶対お酒弱いの知ってただろう。ひょっとして治癒能力者が潰れるの分かってて飲ませたんじゃ無いだろうな。
と言うか潰れた俺が馬小屋に居るって事は、誰かが運んでくれた訳だよな?
「あれ? 俺がここに居るって事は、エリスが運んでくれたのか?」
「まあね。道に放置するのもなんか嫌だったし」
「そっか……ありがとう」
「ふふん、感謝しなさい」
エリスは物凄い勝ち誇ったようなドヤ顔をする。
運んでもらった俺が文句など言えないが、こいつのドヤ顔はなかなかイラッと来るな……。
「エリスは二日酔い平気なの?」
「私は平気よ?」
「えぇ……すげぇな……」
あんな馬鹿みたいに飲む場にいて二日酔いにならないとは……こいつ化け物か?
「当然よ。だって飲んでないもの」
「おい冒険者の掟どうした」
「男女別よ。女性冒険者たる者、冒険者の華となれ。だってさ」
冒険者とかいう血生くさい職に就いていながら華もないだろ。
「……それ言ったの誰?」
「イリスさんよ?」
「華が酒で潰れるなよ……」
一番華から遠い人だった。
「さてと、そろそろギルドに行くわよ」
「えぇ……なんで? 先輩冒険者達に復讐?」
「違うわよバカ。昨日アルバさんがギルドに来いって呼んでたのよ」
「うえぇ……気持ち悪りぃ……吐きそう……」
「もう……夕方に出発するから風に当たりながら体調整えておきなさいよ」
「ごめんよ……」
あぁ……情けないなぁ……。
俺は昨日の飲み方を猛省すると同時に、二度としないと心に決めた。
――――――――――――――――――――――――
しばらく川で風に当たりながらゲロゲロした事により、ある程度は体調が回復した俺は、エリスと合流しギルドに向かう。
ギルドの扉を開けると一緒に飲んでいた先輩達が騒いでいた。
俺は今日の昼過ぎまで二日酔いで死んでいたというのに……奴らは不死身か……?
「お、やっと来たな。大事な話だから奥に来い」
テーブルで他の冒険者の人と喋っていたアルバが、俺達に気付きギルドの奥へと移動する。
「とりあえずそこに座れ」
ギルドの奥にはアニメで見るような、ちょっと豪華なテーブルと椅子が置いてあり、ちょっとテンションが上がる。
「さて、今日お前達を呼んだ理由だがな、明日早速依頼に行ってもらう」
「「明日!?」」
冒険者登録完了したの昨日なんだが。
「おう。内容はアスト村でのゴブリン退治だ」
「え? 内容ももう決まってるんですか?」
アニメや漫画では、依頼を自ら受注していく感じだったので、ここもそんな感じだと思ったんだが……。
「あぁ? 当たり前だろ。冒険者の能力に合わせて依頼与える、これがギルドマスターの仕事だ。身の丈の合わない依頼で死なれても困るしな」
「なるほど」
依頼を貼って各自で受注の方がいいのでは? とも思ったが、この世界の冒険者は人数が少ない。なので適切な依頼を与えていく方が効率がいいのかもしれない。
「アスト村までの馬車は明日の朝8時に馬車が門に来る。遅れるなよ」
「「はい!」」
「それとカズヤ、お前にはこれをやる」
「はい?」
アルバから渡された物は、冒険者が着ていそうな、いわゆるカッコいい服だ。
「お前まともな服無いだろ? 金渡しても変な服買って来るし……だから用意しといた」
「え!? いいんですか!?」
「今後の依頼からちょっとずつ引いていくから安心して使え」
「あ、はい」
貰えるわけじゃ無いのね……。
しかし、俺の今持っている服といえば、黄金に輝くド派手な服と、この世界に来た時に着ていたパジャマのみだったので、普通に有難い。
「ねえねえ! 私のは!?」
「ねぇよ。お前は自分のあるだろうが」
エリスも何か貰えると思っていたのか、目をキラキラさせて食い気味にアルバに尋ねるが、無いと即答されガッカリする。
「話は以上だ。明日に備えて今日は早めに寝ろよ。あぁそれと最後に……」
アルバはさっきまでよりも、真剣な眼差しで俺達の目を見て言う。
「これは命令だ。絶対に生きて帰ってこい」
その言葉を聞いて、口元が緩んでしまう。少々臭いセリフだが、本気で俺達の命を心配し、無事に生還する事を望んでいる事が分かるのだ。
だからこそ俺達はアルバの期待に応えてやろうと、依頼の達成と生還してやろうと、強く思ったのだ。
「「はい!」」
俺達はしっかりとアルバの目を見て、力強く返事をした。
アルバは俺達の返事に満足した表情をした後、俺達に退室を促す。それに従い退室したら大勢の先輩冒険者達に出迎えられた。
先輩冒険者達はまとまりは全く無いが、個人個人がそれぞれの激励を送ってくれる。
この世界の冒険者はならず者の集まりなどではなく、試験に合格した、いわゆる認められた認められた者のみが集まっている。
その認められた者達が少しでも生き残る為に、団結し、命の掛かった仕事をしている。
そしてその団結力が今、初の依頼に向かう新米冒険者に向けられている。それはつまり、『お前達はもう仲間だ』と認めてもらえているのだ。
そんなの嬉しく無いわけがない。やる気が出ないわけがない。
だから俺は、拳を頭上に突き上げ、声を張り上げる。
「俺達は絶対に依頼を達成して、無事に帰ってくる! だから帰ってきたら酒飲みながら、俺達の武勇伝聞かせてやるよ!」
「「「「「おおおおおおおお!!!」」」」」
俺の宣言で、ギルドの盛り上がりは頂天に達した。
「聞かせて貰おうじゃねぇか!」
「面白れぇ! 待ってるぜ!」
「これでしょぼい成果だったら恥ずかしいぞー!」
空気を読んでか、俺の宣言に対して、挑発的な、しかし不快じゃない野次が飛んでくる。
「と言うわけで今から飲みに行かねぇか?」
「……行かねぇよバカ」
空気の読めない人もいた。




