次の日に備えて
あらすじ:冒険者になれた
「お前らバカなのか……」
事情を説明すると、アルバは呆れながらも俺達に宿代をくれた。
「じゃあなんだ? お前ら一晩寝ないでギルド探した挙句にそのまま試験受けにきたってのか?」
「まあ……そうなりますね」
「なあ……もう一回言うけどさ、バカなのお前ら」
「「あ、あははは……」」
俺もバカだと思うよ……。
「それとカズヤ、なんだその服は……」
「いやまあ、これしか無いから仕方なくですね」
「……」
アルバは財布から再びお金らしき物を取り出す。
「……これでちゃんとした服買ってこいよ」
「……重ね重ねありがとうございます」
俺たちは会場を出て、宿屋に向かう。
「ねぇ……お風呂のある宿屋ってどこにあると思う? 流石に身体を洗いたいんだけど」
「完全に同意するよ……ただこの服で泊まるのもあれだし、先に服買いに行かないか?」
「あ! 賛成!」
試験を受けて、汗で濡れた服で過ごすのも気持ちが悪いという事で、宿の先に服を買いに行く事になった。
流石に閉まった店の外見だけでは、衣服屋と判断は出来ないので、俺たちはそれっぽい店に片っ端から入って行き、お目当ての衣服屋を見つけた。
「さてと、どんな服買おうか」
「そうねぇ……お互いにコーディネートしてみない?」
「……え? エリスも買うの? 買えるの?」
お金は俺の分しか貰ってないような……。
「え? いやいや、だってお金くれたのギルマスでしょ? アグセムのギルマスがそんな器の小さい訳がないよ!」
「そうかなぁ……」
「そうよ! さ、選びましょ!」
エリスは足取り軽く店の中に入って行く。
うーん……そんなに余裕は無い気もするけど、流石に男の俺だけ新しい服を買うっていうのも、なんか嫌だししょうがないか。
俺もエリスの服を選ぶために店内を少し歩く。
とりあえず今欲しいのは普段着だろう。しかし、エリスがいつもどんな服を着ているのか見当もつかない。
悩んだ末に、あまり派手では無い大人しい雰囲気の服をチョイスする。イメージ的には、女子大生が着ている様な服だ。
これなら文句は言われないかな?
選んだ服を持ってエリスを探す。エリスも俺の服を選び終えたのか、俺を探している様だったので合流する。
「さて、カズヤは私にどんな服を選んでくれたのかしら?」
「ほら、多分似合うと思うぞ」
服を渡すと、エリスは顔をしかめる。
「え、ダメ? これ」
「地味」
「あー……こっちじゃこんな服は地味なのね」
「そうよ、こんな感じの派手な服がいいわね」
そう言って手渡された服は、金色に輝いており、『THE派手』としか言えない服だった。
「馬鹿。お前馬鹿。これ着るの? 罰ゲームなの?」
「はぁ? 何言ってんの? 派手なのがいいんじゃない!」
「限度があるだろ!」
「あんただってこの服クッソ地味な服じゃない!」
「俺の過ごしてた所だと、お前くらいの歳だとこんな感じの服着るんだよ!」
「センス無いわね!」
「うるせぇ文化の違いだ!」
しばらくの口論の末に、お互いの服を実際に着てみて、見せ合うことになった。
何が悲しくてこんな派手な服を着なければならないのだ……。
試着室で実際に着替えてみて鏡を見たが、これは無い。しかし約束は約束だから見せ合わなければならない。
「エリス着替え終わったか?」
「えぇ」
お互いに着替え終わったことを確認し、更衣室から出る。
「「……」」
エリスの姿は……普通に可愛い。素の状態でも可愛かったのだが、女子大生の雰囲気になって、より可愛く感じる。
うーん……この世界ではこの服装は合わないのだろうか。
「普通に似合ってると思うんだが」
「そう? うーんやっぱり地味じゃない?」
「いやいや、そんな事無いだろ」
「ふーん……そう」
エリスは鏡を見ながら答える。
「あんたは……ぷっ」
「おい待て、なんだその反応は」
「いやー……ぷぷっ」
「似合ってないんだろ!? そうなんだろ!?」
知ってたよ! こんな服似合う人居ないよ!
「いやぁ派手でいいと思ったんだけどなぁ」
「お前感覚狂ってるだろ……」
俺は更衣室に再び入り着替えて、この派手な服を返しに向かう。
ゲテモノの様な服が並んでいる所があったので、そこに戻そうとすると後ろから声を掛けられた。
「あのーお客様」
「ん?」
「大変申し上げにくいのですが……」
「あー場所違いました?」
「いえ、そちらの服の場所はそこで合っているのですが……」
とても言い難そうな顔で言葉を詰まらせる店員さんに俺は首を傾げる。
「そのお洋服なんですが……」
「はぁ」
「そんなに汗で汚されてしまいますと……ご購入という形にしていただかないと……」
「……え?」
俺は服を持ったまま固まる。
買うの? この服。
エリスの方を見ると下を向きながら肩を震わせている。
結局汚してしまったので両方買うことになったが、派手の服が無駄に高かった。その上、ギルマスの器は思いの外小さかった様で、元々入っていたお金も少なく、残金は雀の涙ほどしか残っていない。
「ねぇ……これ風呂付きの宿絶対無理だと思うんだが」
「そう? 私は宿すら怪しいと思うのだけど」
「ねぇ、どうすんのこれ」
「そうね……とりあえず井戸と馬小屋を探しましょうか!」
アルバにお金を貰ったのに結局、野宿の様な形で寝るのであった。




