冒険者試験
あらすじ:冒険者はカッコつけたい
いよいよ試験が始まった。
「まずは…アスエル! 前に来い」
どうやら順番ではないようだ。
アスエルと呼ばれた男は立ち上がり中央に歩いていく。
「俺は剣を使うが、何か武器を使いたいか?」
「あ、はい。剣を使いたいです!」
「向こうに木剣があるから取って来い」
アリエルは走って取りに行く。
「俺は英雄格で能力は『見切り』。俺に攻撃意思を持った攻撃をしようとしたら攻撃する前にわかる。だから遠慮なく掛かって来い」
戦いが始まった。
アスエルは果敢に攻撃を仕掛けるが、その全てが躱され、弾かれる。
一瞬でも隙があればアルバはそれを逃さない。
おそらく凄まじく手加減された一撃が的確にアスエルに叩き込まれる。
アスエルとアルバの実力は比べるまでもなかった。
「流石ギルドマスターね」
「エリスはあいつに勝てそう?」
「どうかしらね、やってみないと分かんないわね」
5分とは意外と早く終わり、アスエルの試験は終わった。
アスエルは息を切らし肩で息をしているのに対し、アルバは息一つ切らす事なく平然と立っている。
「お前は残念だが、冒険者になるにはまだ実力が足りてない」
「そ、そんな……」
アスエルは無慈悲にも不合格を突きつけられる。
試験は続き、どんどん不合格者が増えていく。
少ない人数とはいえ合格者は1人も出ていないのだ。
そしてそのまま残るは俺とエリスだけになった。
「次はエリス! 前に来い」
エリスでダメだったら合格する事はほぼ不可能だろう。
俺は前に行くエリスを見ながらそう思う。
「お前は……英雄格だと?」
「ええ、そうよ」
「ふむ……英雄格なら試験なしでも構わないがどうする?」
英雄格はそれだけで合格できるのか……。
英雄格になるには英雄になること。つまり、なんらかの戦いすなわち『冒険』をして、生き延びた者だ。
既に生死を分けるような戦いを経験しているんであれば、試験は不要ということか。
「いえ、私も戦いたいです」
「ほぉ?」
「貴方と戦ってみたいです」
「そういうことか。いいだろう」
エリスが木剣を取る。
そしてお互いに木剣を構える。
「行きます」
その一言をきっかけにエリスはアルバに向かって走る。
その速度は他の受験者とは比べものにならない程の速度だ。
しかし、アルバはそれにしっかりと反応する。
エリスの剣はアルバに完璧に弾かれるが、エリスは構わずに斬りかかる。
激しい剣での攻防。エリスの攻撃は全て弾かれているが、攻撃の手は一切緩むことが無いため、アルバに反撃を許さない。
長きに渡る攻防、その間木剣は激しい音を立てながらお互いにぶつかり合う。
英雄同士の戦い、それは激しくそして見ていて美しく思う程のものだ。
俺はこの戦いをずっと見ていたいと願ってしまう。
しかし、その願いは叶わない。
「「あ」」
英雄格の力で激しく打ち合えば木剣はそう長く持つはずもなく、決着が着く前に両者の剣が折れてしまった。
「はぁ……残念だけどここまでね」
「ふぅ……エリスの嬢ちゃん……お前強えな。勝てる気がしねぇや」
「よく言うわよ。私の攻撃全部捌いておいて……」
「はっはっは! 避ける、捌く、弾くは俺の得意分野だからな」
アルバは紙をエリスに渡し。
「お前は合格だ。とりあえずこれ持って待ってろ。あと1人やったら登録するからよ」
エリスは頷き、紙を持って俺の方へ歩いてくる。
「エリス、お前半端ないな」
「ふふん。少しは見直したかしら?」
「マジですげぇ見直したよ」
「当然よ。カズヤも頑張りなさいよ?」
「ああ。いろんな意味で幸運を祈ってくれ」
「はぁ?」
俺はどんな能力が出るかわからないから、とりあえず素手で前に出る。
俺の姿を見たアルバは、手元にある書類に目を通して。
「あー……ムラカミカズヤ……いくつか質問していいか?」
「え? どうぞ」
「まず、ランダムってなんだ?」
予想はしていたが、そんなにランダムって異常なのだろうか……。
「書いてある通りです。俺……僕は時間によって能力が変わる感じの能力なんですよ」
「戦えるのか? 冒険者ってのは仲間と共に戦うもんだが、足手まといはいらねぇんだよ」
試験前から足手まといと言われるとは……。
流石にイラッとした。
「戦えますよ! それを確かめる試験だと思ったんですけどね!」
「まあそうなんだが……まあいい。今の能力は何だ?」
まだサイコロを振ってないから、俺には能力が無い。
「あぁ……すぐ確認します」
俺は右の手のひらを上に向けて前に出す。
「召喚! 神の六面体!」
前回と同様に、サイコロが俺の手のひらの上に現れた。
《神の六面体の召喚に成功。神の六面体を使用してください》
俺はサイコロを振る。
アルバの能力はサイコロの目で言うとおそらく4だろう。
今回の合格条件はアルバに勝利するのではなく、アルバに実力を認めてもらう事。つまり、3以上であればいいのだ。
サイコロは放物線を描きながら地面に落下し、少し転がってから動きを止める。
《6。神格を獲得。能力。時間操作。自分およびその周辺の時間の操作が可能》
出た目はまさかの6。過剰としか言えない能力を獲得してしまった。




