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5話 イレギュラー 18歳

 ミアが転入してきて3年目に突入した。こうなってくると逆ハーレムエンドの過密スケジュールは少し落ち着いてくる。そしたら後は安心してミアがそのまま逆ハーレムの道を進んでいってくれることを祈るばかりだ。まあ3年目の終わりから私は嫌がらせと虐めを開始するのだけれども。


 この頃になってくると他のライバル令嬢たちが少し憔悴した様子でいるのが分かるようになっていた。ライバル令嬢たちはそれぞれ婚約者が大好きなのだ。この2年の間に少しづつミアと自分の婚約者が惹かれ合っていくところをゲームの強制力ともいえる程の力で見せつけられている。

 最初は婚約者のことを信じて安心していた令嬢たちも少しずつ変わってゆく自分の婚約者に胸を裂かれるような思いだったのだろう。


 たまたま昨日攻略対象である魔法使いの先輩とミアのイベントシーンに出くわしてしまった私は、その時に近くに先輩の婚約者である令嬢がいることに気付いた。彼女は二人を虚ろな目で見詰め、仲良さげに笑いあうところでは涙を零していた。そして声をかける間もなく静かに走り去ってしまった。

 自分のことではないのに胸が痛んだ。もう私が泣きそうだった。そうだよね、辛いよね。

 そして今年度の終わりには、嫌がらせや虐めが始まるのだろう。私はヘンリーを好きではないので全く心は痛んでいないがもちろん参加する。そうしなければ修道院ライフが送れない。



 そんな3年目を迎えた春、シナリオにないイレギュラーが起きた。なんと転入生が入ってくるというのだ。私は『フラジール』はやり込んだけどこんな展開は知らない。一体何が起きた?

 そしてそのイレギュラーは私にとんでもない衝撃を運んできたのだ。


「はい、皆さん静粛に。えー今日は新しくこのクラスに加わることになった転入生を紹介します」


 そう先生が言うと扉を開けて入って来たのは、濡れ烏の髪に紫紺の目をした、一度だけ見たあの顔。あの白い空間で私と出会った男。


「ジョシュア・アダムズと言います。よろしくお願いします」


 私は何が起きているのか分からなかった。確かに今見ているのはあの時の男…神様。私が動揺していると一瞬、彼と私の目が合った。彼はその目を細めてにこりと笑った。やっぱり神様だ!


「エマ…?」

「え、はい、なんでしょうかヘンリー様」

「いや…なんでもないよ」


 動揺し過ぎて隣の席のヘンリーに心配をかけてしまった。私としたことが3年目初っ端からこんな失敗をするなんて。しかし何故神様がここに。彼は自分は管轄から外れると言っていたような気がする。何か問題でも起きたのだろうか。

 充実した2年間を過ごしていた私には彼の突然の登場はあまりにも大きな不安として降りかかった。少し体温が下がるのが分かる。何か私は失敗をしたのだろうか。嫌な汗が出る。

 私は後で彼に事情を聞くことを決意し、休み時間を待った。





 ◇ ◇ ◇





 授業の合間の休み時間に神様…ジョシュアに聞きに行こうとしたが女生徒の壁が立ちはだかり、いつの間にか昼休みになってしまっていた。

 私は動揺していて気付かなかったが、ジョシュアはよく見ると甘いマスクをした男だった。そして物腰柔らかで紳士的な対応。婚約者のいない女生徒に群がられている。婚約者のいる女生徒も思わず彼を目で追ってしまっている。

 これは彼に話しかけるのは難易度が高い。さて、どうしたものか。


「エマ・セルヴィッジ嬢」

「はい、なんで…」


 ランチに行こうと席を立つと声をかけられたので声の方へと振り返る。そしたらいたのだ、あの男が。動揺して言葉が途中で止まる。


「どうかしましたか?」

「いえ、なんでもございません。それでなんでしょうか?」


 突然のことに動揺したがすぐにいつもの淑女の仮面を被る。何故彼の方から話しかけてきたのか。


「先生から分からないことがあれば委員長である貴女に聞くようにと言われまして。まだ学院の中を把握していないので食堂の場所が分からないのです。宜しければ案内していただけないでしょうか?」


 去年までは第二王子であるヘンリーがクラス委員長を務めていたのだが6年生となった今年からは彼は生徒会に入った。その為忙しくなるので今年は変わりに私が委員長を務めている。

 私はちらりとヘンリーを見る。これは最大のチャンスではあるが私には婚約者がいる。気軽に婚約者以外の男性と一緒にいることは出来ないので一応婚約者である彼にお伺いを立てなければ。

 彼は私の視線と意味に気付き、小さく頷く。それを確認し、私も頷き返す。


「分かりました。ではご案内いたします」


 私は彼を連れて食堂へ向かう。途中、沢山の女生徒の視線に晒されたが委員長の仕事なんだから仕方あるまい。恨みがましい視線を跳ね除け歩みを進める。

 すると突然彼が話しかけてきた。


「上手くやっているようだね」

「…なんのことでしょう」

「この会話は周りには聞こえないようにしてるから前みたいに話しても大丈夫だよ」

「…神様って便利ですこと」

「便利でしょ。次その角を曲がって」


 彼に言われるがままに廊下の角を曲がる。この先には空き教室しかない。


「この教室でいいかな。中に入ろう」

「一応私婚約者がいるんですが。密室に男女2人きりでいたなんてところ他の人に見られたら…」

「大丈夫、僕神様だよ?その辺は任せなさい」


 彼は自信満々そうにして手を自分の腰に当てて胸を張る。そこまで断言するならと私は大人しく空き教室に入る。ヘンリー以外の男性と二人っきりなんてこの世界では初めてかも。だけど彼には恐怖心も何も起きない。同い年の男だけど、神様だからかな。

 寧ろなんかこう…胸の奥が疼く。だけどその疼きは私のものではないような何とも不思議な感じだ。

 ぶんぶんと首を振り、私はせっかくのチャンスなので彼に聞きたかったことを聞くことにした。


「で、なんで神様がここに?」

「今はジョシュアだよ」

「…ジョシュア様はなんでここに?」

「ジョシュア」

「はい?」

「ジョシュアって呼んで?」


 艶やかな笑みで私に名前を呼び捨てにすることを強要する。それは何故か断れない気がした。あざとい。この神様あざとい。


「…ジョシュアはなんでこの世界に?」

「君が心配だからだよ」


 思わぬ発言に胸の鼓動が少しだけ速くなる。乙女ゲームの攻略対象みたいにサラッと心配してるだなんて言ってのけるこの男、とんでもないタラシ神様に違いない。


「失礼なこと考えたでしょ?」

「いえ別に。それで心配とは一体どういうことでしょうか?私は何かとんでもないことでもやらかしましたか?」

「そういう訳じゃないんだけど。君お兄さんと仲良くないよね?」


 ドキリとした。嫌な汗が出る。


「このままだとあまり良いとはいえないかな」

「…え?」


 最悪だ。最悪の事態だ。あまり良いとはいえないとはどういうことか。兄と仲良くできなかったことでシナリオに歪が出る?

 やはり兄との関係もゲーム通りにしなければならなかったのだろうか。


「だけどまだ今ならなんとかできると思うよ」


 今ならなんとか出来る。それは私に希望を抱かせた。

 だけどジョシュアが次に放った言葉は、私を恐怖に陥れるのに十分な力を持っていた。


「忌まわしい記憶は、2度と繰り返したくないでしょ?」


 ジョシュアのその言葉に私は血の気が引き、体の震えが止まらなくなった。



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