表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

4話 ゲーム開始 16~17歳

 前世の兄の影響で私は自分と同年代か少し上くらいの男性が恐ろしくてたまらなくなっていた。5歳の時に婚約者になったヘンリーも、あれだけ前世では好きだったのに一向に好きになれない。

 ヘンリーは5歳のときから16歳になった今までずっと親愛を寄せてくれていた。だから私に彼の熱い好意が向くことはない。その点はシナリオと同じだし安心していた。だけどもしかしたら前世の兄と同じように突然気持ちを告げられて襲われるのではという不安が拭えない。

 今でもあの時のことは夢に見る。そしてそれは深い傷として私の心に残っている。

 私はそんな不安を抱えながらヘンリーと過ごした。ゲームに沿うよう無理やり自分を律し、エマの振りをした。ゲームと変わらぬ反応を返してくれているからきっと可笑しなところはなかったはずだ。


 私は今世を何が何でも生き抜いてやると思っている。最初は少し自暴自棄みたいになって今世を生きることも諦めていたが、少し立ち直った私はこんな記憶を次の人生に持ち込みたくなどないと思った。それによく見知ったこの世界で私は婚約破棄という切り札を持っていることを知っている。その後には修道院。誰とも結婚することなく、一生を終える。それは自殺せずに今世を生き抜くことを目標とした私の、たったひとつの希望なのだ。その希望がある限り、私は私の幸せを祈ってくれた神様の為にも次の自分の為にも生きると強く決意した。


 もちろんヒロインが誰を攻略するかなど分からない。だけどヒロインに惹かれるヘンリーを理由に私にはヒロインに嫌がらせをしたり虐めたりという行為は出来る訳だ。例えどのルートを選ぼうと私は彼女に嫌がらせをして虐め抜いて、婚約破棄を勝ち取ってみせる。

 シナリオに歪が出て私が修道院にいけなくなる可能性が出る賭けではあるが、私はヘンリーが攻略されなかったらそれに賭けたい。

 兄を愛するエマになりきれない私は少しの不安を抱えつつも、シナリオからそんなに外れることはないだろうと心の中で自分に言い聞かせる。

 そして本日転入してくる私の救世主に胸躍らせて学校へと向かうのだ。





 ◇ ◇ ◇





 私たちが通うのは伝統ある王立魔法学校であるエーレ学院。魔法の使える者は貴族、庶民問わず12歳から入学し、7年かけて魔法を学ぶ。最初の2年で魔法の基礎をみっちり学び、次の2年では生徒一人一人の適性を見極められる。魔法の力が安定して使えるようになるのが大体14、15歳。それまでは少し不安定で、得意魔法がコロコロ変わることもあり、きちんとした適性が分からないからだ。そして残りの3年で自分の適正魔法の応用と研究をする。

 私はこの学院に入学した際に意外としっかりした学校の設定があったのだなと感心していた。『フラジール』の設定集にも学院に関してはあまり詳しく載っていなかった気がする。新たな『フラジール』の一面を知り、私は入学当初は毎日のように興奮していたものだ。もちろん心の中でだけれど。


 そんな学校に、ヒロインは遂に転入してくる。大体8~10歳くらいの時に魔法が使えるかどうかが判明するのだが、彼女のように稀に大きくなってからも魔法の力に目覚める者もいる。そういう者は転入生という形で入学してくる。

 途中入学だと他の生徒より魔法を学ぶのが遅れているため1年から始めればいいのにと私は思っていたのだが、どうやら補習という形で放課後先生や先輩方から学び遅れを徐々に取り戻していく形らしい。転入生に厳しい学校だと思ったが、そうでもないと攻略対象の剣士、魔法使いとの接点があまりなくなってしまうからだろうと推測した。彼らは私たちより一つ上なので中々出会える機会がない。こうでもしないと攻略が難しくなるからだろう。私は妙に納得してまた『フラジール』の世界に浸った。


 ホームルームの時間になる。教室には見慣れない愛らしい美少女が一人いた。クラスの男子だちはすこし騒めいている。先生が手を二度叩き、教室は静かになる。


「今日からこのクラスに転入することになったミア・ウィンベリーさんだ。ミアさん、自己紹介を」

「はい!」


 恥ずかしそうにしながらも口を開く。ミアの声は鈴が鳴るように美しかった。


「新しくこのクラスに加えていただくことになりました、ミア・ウィンベリーです!どうぞよろしくお願いいたします!」


 さっきのもじもじとした姿からは打って変わって元気な挨拶をするミア。にっこりと笑う彼女の顔に、多くの男子は目が釘付けになっている。

 そして私はヘンリーを見た。彼もまた、ミアに夢中になっている。熱を含んだ焦がれるような熱い視線を注ぐその姿に、私はゲームのミアとヘンリーの出会いのスチルを思い出していた。この光景はあのスチルそのままである。私は堪えきれずに少しだけ口角を上げる。


 間違いない。

 彼はヒロインであるミアに強く惹かれている。


 これから4年をかけてヘンリーが私とミアの板挟みになり揺れ動き悩む姿を想像して私は一見無表情にしか見えない顔の下で悶えていた。これが、これが生ヘンリーなのかと!彼のことは今も恋愛的な意味での好きにはなれないが、ゲームをしていた私は確かに彼を愛していたのだ。

 それにこれで私に恋情をぶつけてくることは確実になくなった。私は癖でガッツポーズしそうになるのを堪えた。ここが教室じゃなかったらガッツポーズしてそこら中走り回って喜ぶのにな。


 一安心した私はミアが転入してきてからもゲームのエマと同じ行動をして過ごした。特にミアに関わることはしない。無関心を決め込む。彼女が虐めや嫌がらせを始めるのは3年目の終わり頃。それまでは至って普通に学園生活を過ごそうと思った。せっかく『フラジール』の世界に生まれたのだから堪能しなくてはね!


 1、2年目は何事もなく過ぎていった。ただミアとヘンリーが一緒にいるところによく遭遇するなとは思った。これはヘンリーが大好きだったエマにとっては苦痛だったろうな。しかも徐々に彼らが仲良くなっていっているのが分かる。ヘンリーは決して私を蔑ろにしたりしない。ミアと一緒にいても私を見つけるとちゃんと話しかけてくれたし、プライベートな時間に会う頻度も昔と何ら変わらない。私をきちんと婚約者として思ってくれているのが分かった。

 それ故に、ミアといるときに私を見つけたとき、今ヘンリーの心は揺らいでいるんだろうなと思うと私はにやにやと笑いそうになるのを堪えそうになるのが大変だった。


 そしてミアに対して我関せずな態度を貫いていた私はゲームの先の展開を忘れそうになるほど充実した日々を送っていた。

 図書館に行って授業では習わないようなこの国の古い歴史を学んだり、ゲームをしていて行ってみたかった綺麗な噴水のある中庭でランチを食べたり、仕立て屋さんに行って好みのドレスを仕上げてもらったり。そしてそれを着てヘンリーにエスコートされ、夜会で踊ったり。お気に入りのヒロインと攻略対象とのイベントが起きる場所に行ったりなど聖地巡礼のようなことをした。完全にこのゲームのファンの行動である。正直言って物凄く充実した2年間だった。


 相変わらず私とこの世界での兄であるイーサンとの関係は変わらなかったが、それでもイーサンを見ても前ほど私の目は濁らず、怯えなくなったと思う。それくらい、この2年間は私を明るくしてくれた。


 ヒロインであるミアはというと、どうやら逆ハーレムルートを目指しているみたいだった。1年目に兄であるイーサンによくアタックをかけているところを見かけた。最初はイーサンルートかと思ったが他の攻略対象たちとも交流を深めている。しかもかなりのスピードで。これは逆ハーレムエンドだなと私はすぐに分かった。


 イーサンはミアが転入してから学校で会えるのは1年間のみ。すぐ卒業してしまう。だからイーサンを攻略&逆ハーレムエンドを目指すときは1年の間にかなりの頻度でイーサンとのイベントを起こさなければらならない。

 そして2年目にイーサンに会うためにはヘンリーともそれなりに仲良くなっていなければならない。イーサンは卒業後、父である宰相の補佐の為に城に勤める。ヘンリーとそれなりに仲良くなっていれば城に行くのがだいぶ楽になるからだ。そして逆ハーレムエンドでは他の上級生、教師ともある程度交流を深めていなければならない。

 ともかく1年目が勝負なのだ。如何にこの過密スケジュールをこなしていくのか。それに燃えていたのを思い出す。


 私は心の中で熱いエールをミアに送った。このまま逆ハーレムエンドに進むとライバル令嬢たちは皆婚約破棄される。他のライバル令嬢たちのことを思うと心苦しいが、私には待ち焦がれた修道院ライフが待っているのだ!

 彼女に頑張ってもらわなくては!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ