海老原御門 008
さてさて皆さんお立会い。今回のオチのお時間です。
僕と先輩は翌日、灰原に写真を見せるため、またあの山に登る__
今回の一件は、男女の高校生が肝試しに行った、という話だった。
実につまらない話だったと思う。
だがまあ、この話を見れば、ちょっとは考えを改められるかもしれない。
最後まで付き合ってくれ。
今回の話はつまり、僕と御門が再開する話ではなく、僕と灰原が出会う話だったってことだ。
どうやら、先輩が神木から飛び降りた理由は、自分のトラウマを打ち砕くためらしい。
困るな。先輩がもっと強い人間になってしまう。
「おお、鷹ヶ谷南の娘。それに、座間味共美の息子」
夕暮れ。空が茜色に染まる時間。
あの神社に、もう一度来た。
そこに、座ったら三十秒以内にささくれが尻に貫入しそうな例の椅子に座った男、灰原はいた。白い本を持って。
この前は俯いていてよくわからなかったが、今回は普通に座っているため、よくわかる。
座高だけでも、かなり高い。立ったら、二メートルは、あるだろうか。
そして、曰く灰色の厚手のコート。もうそんな時期ではないだろうに。
もう一つ。顔面に、仮面を付けていた。
なんの柄も無い。まっさらな面。
目や、鼻の部分に穴さえ空いていない、まっさらな仮面を。
くぐもった声は、これのせいか。
「撮れたか?」
「ああ」
先輩はなんの疑いもなく、灰原に携帯を手渡した。
危機管理がなっていないというか、危なっかしいというか。
「ああ。確かにあの洋館だ」
違和感。
ちょっと待て、その面を付けていて写真が見れるわけが無いだろう__
「懐かしいなぁ__あの頃から、変わってないよ」
__ん?
ちょっと__ちょっと待て。
あの頃って__どの頃だ?
あそこは僕と、僕の姉妹が散々に暴れた場所だ。
それに、もともと家具も散乱していた。
例えば、灰原が、この洋館の持ち主だったとして、二ヶ月前のあの大暴れがあって、変わってない、だと?
「なんだ、あの家はお前のものだったのか」
「随分前の話だがな。今は別の人間の所有地らしい」
白魚の所有地だ。
「げっ、大丈夫か? 不法侵入とかにならないか?」
「ああ。大丈夫だ__なあ、そうだろう? 座間味共美の息子」
何故__このタイミングで同意を求める?
「まあ__誰にも見つかってないと思いますし」
背骨が疼く。
軋む。
誰なんだ、こいつは。
何なんだ、こいつは__
「今回は特にいい働きをした。鷹ヶ谷南の娘。礼だ。持って行ってくれ」
なんて言って、どこからともなく段ボール箱を取り出した。先輩はニヤけながら開封すると、灰原に礼を言った。
「ふ、ふふっ、悪いな。灰原」
「礼には及ばん」
「ああそうだ。水面。今回は付き合ってくれて有難う」
なんて言って、コアラのマーチを一箱、投げた。受け取る。限定品だった。
「じゃあ__俺からも礼を言おうか」
灰原はゆっくりと立ち上がる。
ゆっくりと、歩み寄る。
身長はやはり、二メートル近くあった。
身構えてしまう。その威圧感に。
灰原は屈んで、僕に耳打ちをした。
「海老原御門のパンツは、白じゃなくてピンクだぞ」
白じゃなくて、ピンク__
そうか、いい事を聞いてしまった。なんて、言えなかった。
おい、
おいおいおい、
なんで__
こいつは、僕が、色がわからないことを、知っている?




