もう一度だけ君に
大幅改稿を果たし、長くなりました!
お母さんからの夕飯を無視して、時計の秒針の音が目立つ暗い部屋の中泣き疲れた体を仰向けに横たえて、長い沈黙を経て今更ながら自覚する。
『私、こんなに凪の事……好きだったっけ?』
水乃ちゃん!
柔らかく、優しい笑顔で私に笑いかける凪を思い出してしまいまた涙が滲む。
『あぁ……うん、そっか……失って初めてってやつか……』
ようやっと出した私の声は先程まで泣き叫んでいたせいで喉でも潰れたのか、声もしゃがれていたし、凪を思い出しては涙が滲むので、声が震えた。
時計の秒針の音を聴き続けてどのくらいたっただろう……。
時計の音なんて気にしてる余裕なんて無いぐらいの事が起きた。
『……ちゃん』
『?』
『水……ちゃ……聞……え……?』
『えっ?』
『水乃ちゃん……見えますか?』
『な……』
凪の声が聞こえた気がする……。
いや、姿すら見えてる気がする。
思わず私は勢いよく起き、確認する様に呟く。
『な……んで……』
さっき涙も渇いた筈なのに、また涙がじんわりと溢れてくる。
凪……会えた。
『え、えへへ……』
誤魔化す様な笑顔が凪らしい。
凪の幻影なのだろうか……。
それとも……。
『凪……なんで……』
『え、えっとね……』
どこから説明すれば良いでしょうか……
そう言う凪を見ていて、幻影だとしても凪が見えてる事に変わりは無いと、そう思ったら涙が止まらなくなって……
無性に抱き締めたくなった。
凪の名前を何度呼んだだろう、凪の『あっ!待っっ!』という静止も聞かずに勢い良く手を伸ばして凪を抱き締めようとするが、手は凪をすり抜けてしまった。
必然的に壁にぶつかる。
きっと鈍く酷い音がした事だろう……。
『水乃ちゃん!大丈夫ですか!?』
『今……すり抜けて……』
『ごめんなさい、僕これでも幽霊なので……』
『幽霊……』
『未練があって一時的に戻ってこれたんです』
『未練……って』
『水乃ちゃんに伝えたい事、言えてなかったから……ですね』
『……伝えられなかった……事?』
『……水乃ちゃん、僕……
『待って』
『へ?』
『凪が……今私の目の前に居る凪が夢や妄想じゃないって証明して』
『えっ……』
『だって……いきなりこんな……あり得ないでしょ!?
都合良すぎる!!』
『水乃ちゃん……』
『ねぇ、貴方は本当に……凪なの?
私凪が死んだって聞いて、御葬式も行って
ずっと凪の事を考えて、それで貴方が……』
『違います』
『何が違うって言うの!?凪は死んだの!!
それに、幽霊になったら私の所じゃなくて家族の所に行かなきゃおかし
『水乃ちゃん』
『っ!?』
『落ちついてください
水乃ちゃん、混乱させてごめんなさい
でも嘘なんかじゃ無いんです』
『……』
『えぇ、勿論家族が心配では無いのかと聞かれてしまえば心配ですとしか答えられないし、先に死んでしまってごめんなさいとも謝りたいのは確かですが……
どうやら僕の姿を見せられるのは一人だけみたいなんです』
『そんな……一人までなんて誰かに言われたの?』
『いいえ、ですが不思議とそういったルールがあるって事を知ることが出来たんです』
『でも、それなら尚更家族の内の誰かに……』
『それじゃ駄目なんです
家族の内の誰かに伝言を頼むんじゃ意味がなくなっちゃうんです』
『……そう』
『でも、一番伝えたかった事が……
僕の願いはそれじゃなかったみたいなんです』
『……凪……』
『うん』
『本当に……凪なの……』
『はい、そうですよ』
『そう……なんだ……そうなんだっ!!』
『水乃ちゃん……』
『……うん、今ここに居る凪は私の幻影なんかじゃないわ……
だって私はそんな小難しい設定考え付かないもの』
『あはは……』
『ねぇ……凪の伝えたかった事って……何?』
『あぁ、えっと……あのですね』
『凪の伝えたかった事……
話終わったら約束……果たせる?』
『あっ……』
『……凪?』
『……ごめんなさい、水乃ちゃん』
『……へ?』
『僕は、未練を取り除いた瞬間……』
『……え……』
凪は決して明確には言わなかったけど、察した瞬間頭が真っ白になった。
凪に儲けられたルールも信じられなかったけれど、もっと信じられなかったのはせっかく再会出来た凪と直ぐに別れを告げなければならないと言う事実だった。
凪の伝えたい事を今まで聞かない様にしていたのに……。
でも、凪はこの夏休み期間を過ぎてしまえば悪霊になってしまう……。
そんなの嫌だけど……でもそれ以上に……
凪と……ずっと一緒に居たいよ……。
いつの間にか太陽は沈みかけて、海に綺麗に映り込んでいた。
「…………」
「…………」
長い沈黙の後、二人で示し合わせた様に口を開く。
「僕は、水乃ちゃんが好き」
「私は、凪の事なんか嫌いよ」
「それでも、僕は行かなくちゃ……」
「何でよ……」
「水乃ちゃんに迷惑かけたくないから……」
「私はそれでも構わないわ」
「そんなの、僕が嫌」
「私はむしろそれで良いって言ってるの」
「絶対に駄目」
「絶対に大丈夫よ」
「僕が僕を許せなくなっちゃう」
何で……。
このままじゃ凪は消えちゃうのに何で……。
どうして頑なに私から離れようとするの……。
「それでも私は……」
「だから、言って」
「嫌、絶対に言わない」
「お願い」
「嫌だって言ってるじゃないっ!!」
「水乃ちゃん……」
「私はただ凪に……」
どうして、何で……
先に行っちゃうの……
凪……お願い待って、私を置いて行かないで……
もう一度凪が私の前から消えてしまうと言う事実に視界が霞む。
「……どうか、泣かないで」
「もっと……っ……側にっ……」
「ごめんね」
「居て欲しい……っっ……だけなのにっ!!」
「……ごめん」
「ねぇ凪、貴方の意思は……どうしても変わってくれないの?」
「勿論……変わらないよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「私は……ずっと前から……」
「僕はこれからもずっと……」
「凪が好きだったわ」
「水乃ちゃんが好き」
夕日が海に沈みかけ、そろそろ暗くなり肌寒くなりつつあった。
「…………」
「…………」
「…………」
「さようなら、凪……有り難う」
海の風が私の頬を優しく撫でた。
最終回です!
最後までの読了、ありがとうございました!!