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僕は悪くない、全部あいつのせいだ

作者: からから



怖い話の語り出しっていうのは、大抵決まってこうだ。



これは友人が体験した話なのだが、とか。



これは実際に友人の友人が体験した話である、とか。



これは去年の夏実際に体験した話で、とか。



どれも現実味を帯びさせようと自分の身近な存在の体験談だったり、実際に自分が体験していたりする。



まず、最初に言っておくが、今からする話は書き手である私とは一切関係のない、妄想によって書かれたものである。



どうかその辺りをご理解頂いた上で読み進めてほしい。



そうだな、では語り出しはこうしておこう。



昔々あるところに、と。



------




夜。



外は蒸し暑く、虫の声がうるさく感じるそんな日に、エアコンによって快適に冷やされた部屋で、テレビに向かっていた。



目を釘付けにしている番組は心霊もので、特番が組まれているらしく、いよいよ本格的な夏を思わせる。



画面の向こうでは廃病院に乗り込もうとする若手芸人と名前も知らないアイドル。



泣きそうな顔で向かう先には真っ暗な空間が広がっている。



よくこんなことができるものだ。



廃病院のなかでは、お決まりのごとく何かが起こる。



照明が点滅したり、変な音が聞こえて来たり。



極め付けにはついて来たアイドルが体調を崩し、専属の霊媒師に除霊を頼み始める始末。



毎年見る、もはや恒例のお約束を一通りこなして番組は終わった。



そうやって、冷静に冷めた思考で番組を見た後、入り忘れた風呂に向かう。



怖いものを見た後の風呂ほど嫌なものはない。



背後に気配を感じては、目を瞑るまいと必死に鏡を睨みつけながらのシャワーである。



どれだけ冷静に心霊番組を見ていようが、怖いものは怖いのだ。



まあ、怖がったところで何か起きた試しなど一度としてないのだが。



そんな自分の滑稽さに呆れながらも、目を瞑ることだけは必死に耐える自分はなんとも格好がつかないだろう。



時間は深夜2:22と、ゾロ目を見てしまっては何か不吉なことの予兆ではないかと一人ビビる。



そんな時間。



なぜこんな時間に心霊番組を見てしまったのか、少し前の自分に腹が立ってくる。



今聞こえてきたのは虫の音だろうか。



いや、人の声のようでもあった。



こうなってくるともうだめだ。



何を見ても聞いても心霊現象に置き換えてしまう。



恐怖心とは非常に厄介なものである。



自分の部屋に篭り、カーテンの隙間にいちいち怖がる。



もういっそ、何もないことを自分の脳に解らせてやろう。



そう思い立ち、カーテンの隙間から外の景色を一望する。



外には薄っすらと街灯が灯っており、その下に人が。



どくんと心臓が強く脈打つ。



夏だというのに、真っ白な肌には暑さを全く感じさせない、底無しの冷たさを纏っていた。



その人は顔が真黒の髪に覆われ、一点を見つめて固まっている。



白いワンピースを着ていて、何故か素足。



その女性を認識した瞬間、脳がアラームを鳴らした。



女性はゆっくりとこちらに顔を向け始める。



体は鉛にでもなったかのように動いてはくれない。



この手につかんだカーテンを思いっきり閉じるだけでいいのに。



そんな簡単な命令をこの腕は聞いてはくれなかった。



遂に目と目が遭う、



はずだった。



ガバッと、カーテンを思いきり閉め毛布に包まる。



ガタガタと真冬のように体は震え、思考は恐怖が支配する。



目が。



あいつの目が。



"なかった。"



目を瞑っても今まで感じたことのない強烈な恐怖は、瞼の裏に目のない女性の顔をしっかりと映し出す。



にたりと、口は裂けているかのように大きく三日月の形を浮かばせ、目は縫われていたのか傷だらけでグチャグチャだった。



やばいものを見てしまった。



その日はそのまま毛布に身を包み込み、朝が来るのをただただ願った。





目を覚ますと陽は昇っており、何事もなく朝を迎えたことを知った。



強烈な恐怖というものも、陽の光を受けたお陰か鳴りを潜め、幾分かマシになっていた。



あれは恐怖心が産んだ錯覚だったのではないかとさえ思えてくる。



あれだけの恐怖を受けて、しっかりと睡眠をとっている自分の脳の図太さに苦笑しつつも、学校への支度を始める。



------



夜。



またも心霊番組が流れていた。



昨日の今日で流石に見る気は起きない。



今日は何もせずに寝てしまおうと、風呂に向かう。



シャワーを浴び頭を洗う。



シャンプーを洗い流し、ふと鏡を横目に見る。



いた。



そこには、目のない女がいた。



------



目を覚ますと、裸で浴室に腰掛けていた。



体は冷え、若干怠い。



風邪をひいてしまったかもしれない。



時刻は午前4:44。



またもゾロ目。



鏡に映ったあの女は確認できない。



あまりの恐怖に幻覚でも見たのだろうか。



いそいそと体を拭き、服を着る。



鏡を見てみれば、何のことはない自分の間抜けな面が映るだけ。



ほっと、胸をなで下ろす。



ズキリと、痛みが走った。



今までに感じたことのない痛みだった。



慌てて確認する。



異常はなかった。



自分の"目"には何も異常はなかった。



------



夜。




目の痛みは大きくなっていた。



あいも変わらず、番組は心霊ものばかり。



ズキズキと痛む目に、一昨日見た女との関係性を確信していた。



目はかすみ、痛みは大きい。



このまま見えなくなってしまうのではないか。



根拠のない確信があった。



これは、ちゃんとしたお祓いを受けよう。



僕はその日、霊媒師に会いに行くことを決めた。



------



夜。



友人の勧めでこの辺りでは有名なお寺に向かった。



一人で向かうのは怖かったので、友人の健斗と二人で向かった。



道中は会話はなく、若干重苦しい雰囲気が漂っていた。



健斗は僕の飛躍した突拍子もない話を真剣に聞いて、力になろうと言ってくれた。



目が痛い。



暫くすれば立派なお寺が見えてきた。



中に入れば、ガタイのいい爺さんが僕たちを迎えてくれた。



伊藤さんと言った。



最近起こった話を伊藤さんに話した。



ニコニコと相槌を打つ伊藤さんを見て、僕は少しばかりの安心感を感じたことを覚えている。



そのまま滞りなく除霊は完了し、帰宅を勧められた。



時刻は22:22。



ゾロ目だった。



家に帰って、シャワーを浴びた。



異常はなかった。



目も痛くなかった。



------



朝。



学校へ向かう途中。



対向電車にあの女を見つけた気がした。



背筋が凍った。



午前5:55。



ゾロ目だった。



------



夜。



部屋で一人スマホで動画を見ていた。



イヤホンからは人の笑い声が聞こえてくる。



僕はお笑いが好きで、ここ最近の気分転換に漫才を見ていた。



ふと、背後に気配を感じた。



連日の騒動のせいで敏感になっているのかもしれない。



恐る恐る振り返ろうとして、やめた。



見なければいいのだ。



見なければそこには何もいない。



そうだろう。



そう思ってた。



視界が黒に染まる。



瞼の上に感じるのは冷たいもので、一瞬で理解した。



あの女が僕の目を奪いにきたんだと。



僕は思わずその腕を掴みとり、半狂乱になって前方へ投げ飛ばした。



「え...」



僕の耳に聞こえた声の主、目の前にある顔と目が合った。



その人物はひっくり返ったまま、首から地面に叩きつけられた。



みしりと、嫌な音がした。





地面に横たわる妹の美希は、首が変な方向を向いていた。



目は開いたまま、僕を見ていた。



時刻は21:34。



ゾロ目じゃなかった。



------



美希は首が折れて死んだ。



即死だった。



僕が殺した。



あの日、僕を驚かそうと後ろから目に手を回した。



地面に首から打ち付けられて死んだ。



今でもしっかりと思い出す。



























変に首の曲がった妹は血に滲んだ顔でにこりと笑う。



僕の部屋に彼女はいる。



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