始まりの世界〜神話幻想〜
無数の世界が産み出され、その一瞬後には消えていく。 互いに死力を尽くしながらの戦闘だった。 目まぐるしく変わる世界でのそんな戦闘。
「カカカッ! こんなつまらねぇ世界、俺が一片も残らず破壊してやるよ!」
全身を黒衣で包んだ黒髪の男───破壊神が狂気の笑みを浮かべ腕の一振りで無数の世界を破壊する。 しかし、何事も無かったかのように無数の世界が再生する。
背中まである金髪に紅の瞳を持つ白のワンピースを着た少女────創造神は可憐な表情とは裏腹に素早い手際で破壊神の攻撃を防ぐ。
「あなたという存在は危険極まりない。 だからここであなたを倒します!」
そうして無数に展開される術式と光の刃。 その全てが破壊神へと向かっていく。 その攻撃に破壊神は凄絶な笑みだけで霧散させた。
「カカカッ、 笑わせんじゃねぇ……そんなチャチな攻撃1つで俺を倒せると思うな! 俺達がぶつかり合うだけで無限の世界が生まれ、そして破壊されてくんだ。今更そんな攻撃が効くと思うか?」
言って破壊が駆ける。 距離や時間を破壊して移動してくるため破壊神の移動速度は既に時間にすら縛られない速度へと達していた。
「 "連なる世界"」
破壊神の一撃が創造神に肉薄する瞬間、創造神と破壊神の間に全方向に連なった世界が顕現する。 創造神の力は世界を創る事に長けている。 破壊神が米粒より小さく見えるような世界が、様々な顔を見せながら蹂躙する。
隕石の雨が絶えず降り注ぐような世界、高濃度の硫酸で満たされた世界、重力の奔流で存在すら許されない世界────そんな世界を前に破壊神は尚も笑っていた。
「カカ……カカカカカッ! まだ分からねぇか? 俺は距離も時間も事象も現象も因果も全て破壊出来るんだぜ? こんな芸当が出来る俺にぃ……てめえの世界なんざ物足らなく感じるんだよ!」
右手に拳を作るだけで感じている世界全てを破壊した。 創造神は自分が創り出した世界が破壊されたと言うのに眉1つ動かさず、手の平に光の球体を出現させると、それを何の躊躇いも無く握り潰した。 そして握り潰した拳で破壊神の顔面に一撃を当てる。
「がっ……!!」
不用意に一撃を貰い、面白いくらい吹き飛ばされる破壊神。 そして吹き飛ばされている最中ですら無限とも無数とも言える世界が襲い掛かった。
「ちっ、やるなぁ」
破壊神の声が聞こえた瞬間には既に攻撃に移っていた。 自身に不可侵と不可視の世界を創り上げ、破壊神の周りには不条理と理不尽で構成された世界を無数に展開させる。 そしてその全てが破壊神の全てを蹂躙し、破壊し尽くした。
「 "圧縮世界"」
無限の世界を光の球体に圧縮させ、それらを背後に浮遊させる。 球体の1つ1つが無限の世界を破壊しても有り余る程の威力を有する。 そして光の球体を距離も時間も無視して破壊神に撃ち込んだ。
「があああああ!!!」
身動きの取れなかった破壊神はそれら全てが直撃し、痛みすら超越したその破壊の一撃に絶叫した。
「はぁ……はぁ……っ、まだまだっ!」
肩で息をしながらも破壊神を倒す事を目的としてる創造神は止まらない。 力を練り上げるとそれを解放した。
「 "天体創造"」
世界を内包する巨大な天体を創造する。この天体は創造神の意思でしか破壊されず、それ以外のあらゆる攻撃手段を拒絶すると言った規格外の技だった。 中で何が起きているのかは創造神ですら知り得ないが、壮絶な環境下での生存は困難を極めるだろう。
(これで多少の時間は稼げる……少しでも力を溜めておかないと……!)
破壊不可能な天体創造ですら時間稼ぎにしかならないと断言する創造神は自身を凌ぐであろう破壊神の強さに歯噛みする。 そしてついにその時が訪れた。 破壊不可能な筈の天体にヒビが入り、粉々に砕け散った。 爆風で複数の世界が消し飛んだが今はそれどころでは無かった。
「味な真似してくれるじゃねぇか……ええ? 創造神よぉ」
不敵な笑みを携えるのは絶対の破壊神。 全身傷だらけの満身創痍と言った感じだったがそんなものは露程の影響も無いだろう。 傷を負ったという事実を破壊すれば良いだけなのだから。
破壊神は自身の身体の損傷具合を確認すると身体にこびり付いた自身の血を舐める。そして再び凄絶な笑みを浮かべると同時に破壊神の力が噴き出した。
「ははははは!!! さぁ、やろうぜ創造神……お前と俺、どちらかが朽ち果てる迄の永遠とも言える時間の殺し合いを!!」
「 "圧縮世界"」
熱り立つ破壊神を尻目に創造神は破壊神と言う存在そのものを圧縮した。 表情1つ変えずに無表情のまま行うそれは戦慄を覚えるだろう。
「カカカッ! 俺にそんなの効くわけ……っ!?」
破壊神の言葉が切られ、目を見開いた。 その視線の先には先ほどまで無表情だった創造神の淡い笑み。 ゆっくりとその口が動き出した。
「 "封印世界" 。 これからあなたを私の創り上げた空間と世界の中に封じ込めます。 無数とも無限とも言える世界で、さらに無限に増え続ける世界で、無限に引き伸ばされた感覚と時間の中で、別次元に隔離した空間であなたは孤独と共に永劫その世界で生き続けるでしょう。 では、御機嫌よう。 願わくばもう2度と出会いたく無いですね」
憐れみが見え隠れする表情の創造神は世界に引きずり込まれる破壊神を射抜いていた。 対する破壊神は自分が封印されると言うのにやはり口角を吊り上げ、嗜虐的な笑みを浮かべて創造神に高らかに宣言した。
「ははははは!! 上等だ! てめえの創り上げた世界全てを破壊した時、俺はまたこの世界に顕現する! その時がてめえの最期だ創造神! 俺が壊すまで死ぬんじゃねーぞ」
最後に笑い声を響かせながら封印されていった破壊神は最後まで創造神を苦しめた。 創造神は苦虫を噛み潰したような表情をし、その場で崩れ落ちた。
創造神と破壊神による戦闘は、創造神の勝利に終わった。 残ったのは無限の世界と1人の少女。 創造神の少女は1人きりで永劫とも言える無限世界で生き続けた。 この世界の始まり。これが創造神エールと破壊神レヴアールの神話だった。