チャゾ宙域での遭遇2
長すぎるので分割。次回も続きます。
作業を終えたばかりのチャルが艦橋に上がってきた。四朗は「お疲れさま」とねぎらいながら彼女が差し出してきた紙媒体のレポートらしきものを受け取る。
「チャゾからのレポートです。先の漂流物に関してのようです。」
紙なんて久しぶりに見たなぁと感心している四朗をよそにチャルが説明を続ける。この世界に来てから、紙媒体の資料に目を通すのは久しぶりであるし、通常は宙に浮かぶ電光の摩訶不思議の媒体のみだった。四朗には、それらが電子媒体であると断言できるほど科学に強いわけではなかったが、魔法だとも思ってはいなかった。
「一応、軍の暗号回線から送信されたものなので、欺瞞の可能性は限りなく低いと判断されます。」
この広い銀河連邦の中に警察は存在しない。その代りとなるのは軍だ。しかし、軍が一々、海賊行為や難破船の捜索等事件事故を取り締まるために動くわけにはいかない。それをするには軍は大きすぎたし、銀河は広すぎたのだ。そこで、軍はその解決のために必要な資格許可を持った民間の団体若しくは個人に協力を要請することができる体制になっている。要は民間委託だ。もちろん、その資格を取得維持するのは難易度は高いものだがマージンが良いので希望者は後を絶たない。こうして、名目上軍が関与することになるので立派な軍事行動になるので群から委託を受けたいわば協力者は、軍の回線を通して軍からの指示や最終的な報告を含めてやり取りをする。勿論、その回線は機密級の暗号回線なわけではなく、あくまでも民間とのやり取り用の「いつか解析されるかもしれないけど別にいいよね!」といった使い捨ての回線コードである。当然今回のミッションにおいてヤシマも受領している。
「さっきのチャゾへ要請した時、平文だったから。注意を兼ねてるのかもしれないね。」
四朗は少しおどけたような物言いをしながらレポートに目を通す。
本来なら、先ほどのチャゾへの要請も回線を通して行う行為である。単に四朗が忘れていただけだ。それほどまでに、この世界の通信技術というものは種類が多い。四朗も何回か民間企業からの依頼で荷物を届けてはいるがそれは通常の回線に暗号化を施した程度のものであり書類といった紙媒体のものは存在せずすべて電子媒体でやり取りをしていたために、単に忘れてしまっただけなのだが・・・流石の軍も面目を潰さぬようにと警告を与えてきたのだろう。
「ふーん。貨物船の残骸ねぇ。ん?うぉ・・・」
「どうしました?マスター。」
思わず、声が漏れてしまった四朗にチャルは問いかける。四朗の表情を分析してそれが驚きを隠せない表情をしていると結論を付けたところで四朗が答えた。
「いや、「銀河連邦軍所属の貨物郵送艦の撃沈と認む。砲弾痕が数か所受けており生存者は確認できず」とか、詳しい所属の明言は避けてるけど民間船じゃないなら護衛は当然あったはずだろ?なのに、生存者が出ないほどボコボコとか本当に海賊なのか?何があったんだよ・・・銀河連邦軍に喧嘩売ったんだぜ?誰がどう見ても勝ち目はないし、第一採算合わないだろ。ここにも、「なお、状況を鑑み当初の予定の2倍の戦力派遣を上申、認められば一週間で展開可能」だってさ、一度泥を塗られたら連中それこそ宇宙の果てまで追ってくるぞ。」
仮にも軍船を撃沈してしまっている。宇宙船の係留可能ステーションも軍の管轄だ。見つかれば必ず通報され包囲される。伊達に銀河統治をしている艦隊ではないので正面からなぞ論外、たとえ側面からでも圧倒的な物量で押しつぶされるような艦隊あいてにこんなことをしでかした奴の気が知れないのだ。そんな艦隊を相手にできる組織は存在しないし、第一採算が合わなさすぎる。
「マスター肝心の貨物のほうはどうなっていますか?」
チャルの疑問に、四朗は「ちっとまって」と答えさらさらと読み進めた。
「あ、あった。ここだ。えーと。「なお、貨物の一切は見当たらず残っているのは食料品の残骸鉄くずのみである。持ち出された可能性あり。」だってさ。なに運んでたかは明言してないな。」
四朗は一通り目の通し終わったそれを取りあえずポーチの中に押し込むと艦橋上部中央に設置された大型戦略モニターに目をやった。
「うちんとこに話が来たのは恐らく撃沈された輸送艦隊だと思うけど、連絡が取れなくなったからに違いない。漂流物とステーションの相対速度から言ってそうそう遠くで撃沈されたわけではないだろう。デブリにしては相対速度が亜光速に近かった程度しかないからな。」
現状、通常加速しても物理的に光の速度を超えることは不可能である。勿論特殊な機関と専用の装置があれば、時空を跳び超えることで疑似的に超えることは可能であるが。ロケットをどんなに強く吹かしても、光は越えられないのがこの宇宙での常識だ。
「いくら早いとは言え、せいぜいこれくらいかな!」
ヤシマの演算で撃沈されたと思われる地点を導き出す。予想地点はやはり1光年以内むしろ0.1光年にも満ちていない。
「お隣ですね。それならばチャゾが気づいていなかった戦闘。若しくは、我々には教えない秘密裏に動く必要があった件だったのか、という疑問が残ります。」
チャルは冷静にそう分析した。四朗は「そうだろうね。」とうなるようにつづけた。
「ま、亜空間航行中に攻撃を受けたらどこでやられたかはあまり意味をなさないんだけどね。」
その言葉を発した瞬間、チャルが首を傾げた。
「マスター、ちょっと待ってください。亜空間では一切の攻撃、通信は不可能です。工学兵器は軒並み使えませんから。それに、亜空間を襲うということは亜空間での対象の航路を確実に知っていなくてはなりません。合わせて飛ぶならともかく、亜空間深度を合わせることなど事実上不可能ではありませんか。」
「え?」
今度は四朗が驚く番だった。
「おかしいなぁ、ゲームではやれるんだけど・・・」
時空超越とはゲーム時代から頻繁に使われるごく一般的な航法だ。宇宙で自艦から発生させた大量のエネルギーで文字通り時空に穴を開け艦体を押し込ませるという方法で、ゲーム開始直後にとあるプレイヤーが製作した航法である。勿論、船によってどこまで飛べるかは差が出てくる。そしてこの航法は宇宙で旅するプレイヤーにとっては必須だったし戦争にも使われるため研究が進んでいく。ヤシマにもそれを想定した武装が積んである程度には警戒するに値するものなのだ。
時空航行中に撃沈されれば、たちまち安定して時空を跳ぶためのエネルギーを失いまた爆発でもすれば、細い時空回廊から外れ宇宙へ飛び出してしまう。もしくは、回廊内から永久に脱出できない可能性もなくはない。
「ごめん。確証はないんだけどたぶん出来るんだと思う。完全に思い付きなんだけど頭に入れておいて。」
四朗は、分からないことはやって見せたほうが早いと思っていたし、特に自分は説明がへたくそであると信じていた。チャルが了解するのを横目で確認しながらパックに入った飲み物でのどを潤すことでごまかす。
「そんなことより、任務のことだけど、このステーションを守るだけじゃ十二分なマージンは受け取れない。あくまでも最低限のものだからね、オプションで地方への配達任務につこうかなと思っているんだけど。」
早く新装備をそろえたくてたまらない四朗の言葉にチャルはしばらく考えるとNOを突き出した。
「流石に賛成できかねます。チャゾ宙域は非常に過疎地域で地方ステーションまで片道で30光年はあります。とても短距離時空超越だけで到達できる距離ではありません。数回は繰り返すことになります。」
チャルは、戦略画面に割り込むようにデータを映し出した。
「ヤシマは巡航機関に『べいれろーちぇ式最終半永久戦闘機関』4基を搭載していますが、連続で短距離時空超越をするためには専用の機関、本艦搭載の時空超越機関である『マカロニ君式機関ひとっとび君6号』へエネルギー充填を行わなければなりません。補助機関である『べいろーちぇ式半永久戦闘機関4号』が二機ありますので、其方も同時に動かしましても最低でも2時間はかかります。30光年になりますと少なくとも6回~7回はジャンプの必要がありますので12時間ほど必要になります。先ほどの輸送艦隊を撃沈できる程度の腕を鑑みますと敵勢分子が艦隊規模で動きかつ練度士気高い場合、通常の防衛艦隊のみでの防衛は不可能に近いのではないでしょうか?」
このふざけた厨二満載の名前の機関と遊んでるとしか思えない機関の名前はそれぞれゲームで設計した製作者の名前と機関名だ。べいろーちぇ、マカロニ君どちらもゲームでは有名な機関設計士の名前で巡航機関のべいろーちぇ、特殊機関のマカロニ君とそれぞれ宇宙で1,2を争うほどの天才である。少なくても彼らが作った作品は巡航機関部門や特殊機関部門でそれぞれ宇宙で3本指に入る。そして、特にこの二人は『変人』同士とても仲が良かった。
まず、この二人の共通点として、「全く妥協をしない」という点がある。今ある技術をすべてつぎ込んで作るため、部品数や機関製造の工期が宇宙で一番長い部類だ。勿論値段も宇宙1。その分巡航機関にしては、戦闘出力やその維持に長けており、特殊機関もその飛距離、エネルギー効率はピカ一だ。そしてお互いが到底通常の船には乗せられないいわば実用性を度外視した機関を手掛けていると自負しておりお互いに「うちの機関を使うならべいろーちぇ式{マカロニ式}で!じゃないと出力足りないから!」と宣伝している。実質この組み合わせはセットに近く、特に大出力機関のべいろーちぇ式はマカロニ式以外での特殊機関にはオバー出力すぎて扱いずらく、マカロニ式は他の機関では、出力が足りないというありさまである。ゲームでは重要と供給で価格決定されるため、ただでさえ高い両機関の金額がさらに高くなってしまうといった弊害も起きているが、両人全く気にしない。ちなみに、両機関も最終形態で、少なくとも四朗がこの世界に来る前に「新しい方式の機関を研究し始めました!」とゲーム掲示板ニュースに書かれていた。
「ヤシマで唯一誇れる機関なんだけど。」
この複雑すぎる機関は、銀河連邦では扱われていない。扱いに困る機関よりかは、
量産性に長け、安価な方が広まっていくのは当然の理だった。それゆえに、ヤシマの機関はもはやロストテクノロジーの分類である。
「ともかく、12時間というのは、宇宙での戦闘には致命的であると言わざる負えません。」
高速で飛び交う艦船と砲弾の戦いを強いられる宇宙では12時間は大きすぎるロスだ。ヤシマが慌てて帰ってくるときはもはや防衛艦隊は影も形もないかもしれないぐらい損害を受ける可能性がある。勝負は一瞬で決まってしまうことが多いのだ。
四朗がどうするべきか決断を迫られているとき、チャゾ行政府から回線開けの入電があった。チャルは四朗がうなずくのを確認してすぐさま指定の暗号回線を開く、中央モニターに映っていたのはチャゾ行政府長と呼ばれるチャゾ宙域を預かる役人の顔だった。
白髪頭で、やさしそうな眼もとしわと少々長いひげが特徴の齢80程度と考えられるその老人はまずは敬礼し四朗たちが答礼するのを確認して話をつづけた。
「取り込み中すまなかったな。私は、チャゾ宙域チャゾ中央ステーション行政府行政府長のモーリスだ。君が、ヤシマの艦長ミスターシロウかな?」
シロウは、言葉を選びつつ「お初お目にかかります。私がシロウです。」と返答。
「そうか。まずは輸送任務ご苦労。こちらは物資を間違いなく受領した。それから、先の不審船の通報だったね。ありがとう、こちらでは見落としていたようだ。」
見落としなんてことがありえるのか?と頭で考えつつも取りあえず受け流すことにしたシロウは「とんでもありません。」と当たり障りなく返す。
「時に、シロウ艦長相談があるのだが。よいかな?」
「相談でございますか?」
「うむ、単刀直入にいこう。我々はね、どうやら疲れてしまっているようなのだよ。」
モーリス老の話は簡単だった。もともと辺境の片田舎でしかないチャゾはその重要性も含め最下位でしかなかった。こんなところを荒らしまわる海賊の規模などたかが知れていて通常通りであればとっくに片付けることがで出来るはずだった。モーリスは元銀河連邦軍の艦隊司令だったし部下もそれに合わせて警備に訓練は怠ってはいなかったからだ。しかし、今回は違うという。
「度重なる、輸送船の略奪行為はすでにチャゾの限界を超えつつある。これでは干上がるのも時間の問題だ。打てる手はすべて打ったつもりだが、効果は上がらなくてね。管制官もなれない緊張状態が長期に続いてしまってほとんど使い物にならない。本来ならあの程度の漂流物はこちらが先に見つけるものだからね。」
「なるほど。」
「銀河連邦政府の認可を経て、我々はチャゾを自治してきたが別に軍人の集まりというわけではないから、どうしても限界がある。先ほどの報告通り銀河連邦には既に艦隊を差し向けてもらうようにしているが、その到着の前にやってもらいたいことがある。」
いったんモーリスがそこで言葉を切る。続いて画面に映し出されたのは、多数の×印が押されたチャゾ宙域の地図であった。
「これは、我々が観測してきた海賊被害発生ポイントを示した図だ。時刻も現場も一見ばらばらに見受けられるが、チャゾより外へは行こうとはしていない。それに、襲う日時に関してもどうやらそれなりに開きがあるようだ。長いときはおおよそ30日前後の開きがある。」
地図にさらに丸印が加わる。
「それらのデータを集計した結果彼らはおおよそこのあたりを根城にしているのではないかと見当をつけることができた。彼らも補給は必要だからね。君にはこの宙域に先行し偵察に出てもらいたい。」
「やってもらえないかな?」とモーリスは少々微笑みながら、それでも目と声は力強く四朗に提案をしてきた。四朗は熟考しながら「ここの守りも我々の任務なのですが、それは盤石ですか?」と聞く。
「過去に、彼らがここに手を出したことは無いよ。それに、念のため、多方面の警備艇を守備に回すことにした。抜かりはない。」
「しかし、先ほどの沈没船は軍所属だと聞いています。その実行グループとは関係ないのですか?」
初めて、ここでモーリスが眉をピクリと動かした。
「詳しくは、教えられん。いや、知らないのだが、軍の情報では別グループの犯行で間違いないそうだ。軍にはその犯人の狙いはわかっているらしく、少なくともチャゾではないと言われた。」
ますます、よくわからない展開になってきたぞ。と考え込むシロウだったが、敵情偵察任務ならば戦う必要もないしヤシマは足が速いのでうってつけだとも考えていた。
「懸念事項は残りますが、それが依頼ならこなしましょう。敵情偵察任務確かに承りました。」
四朗のことばにモーリスは「おお、やってくれるか!」と喜びの笑みをこぼした。
そのあと、2,3言葉を交わした二人であったが、やがて合意の上で任務の更新手続きを済ませ回線を切った。
「そういうことになったけど、仕方ないよね?」
四朗はおどけながら相棒に声をかける。
「マスター。ヤシマは巡航機関の出力を上昇中。いつでも行けます。」
頼りがいのある言葉に四朗は「発進!」と命じ。ヤシマはその言葉に従って、チャゾとの桟橋を切り離し加速していったのである。




