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チャゾステーションでの遭遇

宇宙空間は、完全な無で構成されているわけではない。真空ではないのだ。近い状態であると言ってもそこにはれっきとした、宇宙を構成する要素がキチンと存在する。


「間もなく、跳躍終了タッチダウン。総員ショックに備え。」


チャルの声の放送が艦内に響き渡ると乗組員は体をしっかりと支えるために身近な手すりやシートに捕まる。


「5,4,3,2…今。」


ヤシマは、そんな宇宙を物理的に引き裂き空間にその巨艦その巨艦を割り込ませることで文字通り、時空を跳んできた。


「付近観測開始。」


四朗の声に、チャルはすぐさま観測電探を動かす。

電探は、付近に船はおろかデブリすら存在しないと伝える。


「付近に、艦船及びデブリ無し。航行に支障なし。」


チャルの報告に司令椅子に座る四朗は頷くと、ヤシマの現在位置を正確に把握しながら原進路へとヤシマを進める。


「サリア、シーア。艦内自由行動許可するよ。」


マイクにそう声を投げつつ自分は手元の蓋つきカップのストローを咥えた。

ヤシマは現在チャゾ宙域と呼ばれる宙域に無事に到着したようであり、もしものことを考えて二人に室内待機を命じていたのだがどうやら杞憂に終わりそうである。


「ヤシマ、機関出力巡航に制御完了。対艦電探、飛距離優先で起動中です。」


特一級の警戒ぶりではあるが、残念ながらヤシマは観測は苦手な分野であったりする。ヤシマの電探は艦の大きさの割には飛距離も精度も悪い。理由としては、ヤシマに装備できるだけの性能と質のあった電探の開発が遅れたことに加えもともと、艦隊行動用の超長距離射程の移動砲台の役割を期待されていたヤシマは砲台や、それを補佐する電算機、標準機等、射撃命中精度のための努力は怠らなかったが、敵の位置補足のための電探は護衛を担当する巡洋艦、駆逐艦の役目であったのだ。それら護衛艦とヤシマが綿密な連携をして初めてヤシマの射撃が光る…という設計だったのだが…


「あーもう、予算ケチらないできちんと電探乗せるべきだったー。」


最早後の祭りである。


「残念ですねマスター。艦内記録では、ヤシマは何れの艦船とも艦隊行動をしたことがないと出ております。ヤシマは艦隊であの宙域を浮いていたわけではなさそうですので、一から艦隊を組めるかもしれないと考えればよいではありませんか。」


「それ、慰めになってないから。そもそも、どうやって艦隊組むほど艦買うんだよ。ヤシマの装備更新で手が一杯だってのにさ。一応ヤシマの艦内には、艦載機が種類豊富に積んであるけど古い型だから骨董品もいいところだし。」


「改造して無人観測機にするという手がありますね。ヤシマの設備なら艦載機程度は修理改造は容易でしょう。」


「そりゃそうだけどね。その知識があればの話だわな。」


いろいろ詰んでる状態のヤシマは、今圧倒的に専門職が足りてないのである。古くとも設備が充実しているヤシマは、実は艦内に小さな工場が入っていると表現しても良いほどに工作機械が積まれている。

ある程度の損傷なら友軍艦も自艦も修理部品を作ることが一応出来る。ただし、材料には限りがあるので何でもかんでもとはいかない。そして、この方法も専門職が居ないのがネックである。設計できなければ工作機械を動かしても物は作れないということだ。


「ゲームじゃ、簡単操作のパーツ組み込みだったからなー。」


「モジュールの組み込みにより艦船を建造するのは現在も主流です。しかしながら、そのモジュールを設計しなくてならないとなると話は別になると言えるでしょう。ある程度、資金の目途が立ちましたら、その手の設計会社に外注するのが手っ取り早いとは思いますが。」


「でも、お高いんでしょう?」


「モジュール内容にもよりますが、オリジナルで一からの設計ともなると需要と供給面から高くつくということは安易に想像できることかと。」


「AIが想像って…なんだかなー。」


チャルは、にこりともしないで四朗の顔を何やらジッと見つめていたが思いついたように言った。


「外部受注では、本艦の軍事機密が漏えいする可能性が高いので最終的には、我々の手で物を作ることが出来るようにすべきでしょうね。」


「いやいや。軍事産業でも始めるつもりなんですかね?一体何と戦うんだよ。」


四朗の突っ込みが入り、その会話はしばらくどうしようのない方向へと進むが、それはいつもの平和的なじゃれ合いで、見ていて微笑ましいものだった。




ヤシマが、チャゾ宙域を航行してそれから10時間はかからないところにチャゾ宙域の中核をなしている、自由浮遊ステーションの「チャゾ中央ステーション」がある。

ここは、チャゾという地域を管轄とする行政の中核があるステーションである。地方自治体本部があるという考えでいいだろう。銀河連邦全体で警察という組織は流石に存在しないが自治をするための武力は備え持っているようで少数ではあるが戦闘艇が専用ドックにて繋がれているのが見える。

トランスポンダを使用すると正確な位置が割り出され、ヤシマは相対距離と速度に合わせて減速をしていった。

大型艦船収容ドックは普段は使わないからだろう。駆逐艦や、巡洋艦が数隻繋がれていて、ヤシマが入れそうにない。管制局とチャゾ行政府との話し合いの結果、仮設橋を伸ばしその先端にヤシマとドッキングさせるという提案を受け入れた四朗はステーション、ヤシマどちらをとっても大きさに不釣り合いのまっすぐに伸ばされた細長い通路で両方はつながったのである。


両建造物からすれば、あまりにも細く長いそれは今にも千切れてしまうのではないかと心配をさせるには十二分な要素を含んでいるが、実際は炭素繊維でできた桟橋チューブが千切れたということは、大型デブリか、外敵の攻撃かのどちらかの事象が起きない限りは全くなかった。宇宙ではおなじみの光景であり、皆見慣れている。


直ちにコンテナは、チューブの外側をレーンで運ばれる。宇宙空間での使用に耐えうるコンテナには先ほども述べた通り日用品をはじめ様々な生活物資が満載されていた。ヤシマに詰め込めるだけ詰め込まれたそれらの物資はチャゾ行政ステーションの管理下に一時的におかれ行政府の護衛付き輸送が行われる予定であった。


「んー。暇だ。」


到着して、物資の詰め込みが始めるのと同時にヤシマの第一ミッション完了は銀河連邦中央政府に直ちに伝えられ報酬が発生した。報酬は滞りなく四朗の口座へと振り込まれているし、四朗としては作業が終わるまで動かせないヤシマの艦橋で腐ることしかできなかった。既に有能なチャルがチャゾステーションに対して運んできた物資の受け入れとそれから、次の任務に必要な弾薬類を効率的に詰め込めるように監督をしているし、サリアとシーアは自室で休んでいる。四朗としては流石に邪魔するわけにはいかない。ネットゲームに興じるのも一つの手段であったが、なかなか面白そうなのが見つからないので等に諦めてしまった。


そんなときであった、ヤシマの御世辞にも精度が良いとは呼べない電探が艦影らしきものをとらえたのは…


「チャル!艦橋に上がってこれる?」


四朗はすぐさまチャルに意見を聞こうとそう通信機に投げかける。


「マスター、私はヤシマのシステムの一部でもあります。艦内のどこにいようとも状況把握は可能です。レーダーの捉えた、艦船と思わしき反応の件でしょうか?」


いたって冷静な彼女の言葉に、警戒をしているとはいえ慌ててしまった四朗は自分を恥じつつ肯定した。


「エネルギー反応はあるかな?」


四朗の問いにチャルはこう答えた。


「観測されている中では、エネルギー反応はありません。しかし、デブリにしては、大きさにくらべ少々重すぎます。」


四朗は、考えても分からんと諦め早々にチャゾ行政府への直通回線を開いた。


「こちら、ヤシマ。本艦より観測されたデータに不審な物体を感知。そちらでの詳しい解析を頼みたい。」


ヤシマは直ちに必要なデータをチャゾへと送りチャゾの担当オペレーターは「了解しました。しばらくお持ちください。」と通常対応をした。


宇宙船に積める電探や、解析機などは搭載に制限がある。それは、法律で規制されているわけではなく、あくまでも価格の問題であったり、大きさの問題であったりするものが多い。しかし、最新機材が揃わないからと言って経済活動を行わないわけにはいかないし、政府も望まなかった。そこで政府の設営したステーションごとに、管制宙域を設定し船乗りなら基本的にだれもがステーションの設備を使うことができるようになっている。通信機器さえ生きていれば、ステーションへ要請が可能になるのだ。勿論無料ではない。がしかし、価格は割安だと認知される程度にされているため、この事業自体は政府の慈善事業のようなものだと一般的には認知されている。


四朗は、今回の任務で優先的にチャゾステーションの力を借りれたし、また、要請自体も必要経費として、政府が援助してくれる約束になっているから安心して利用できた。今回四朗が要請したのは、ステーションの大型スキャナーによる不審ま物体の観測と解析である。チャゾステーションの設備はお世辞にも高性能とは言えなかったが現在ヤシマに搭載されているものに比べれば、言わずもがなな性能を持っているのは間違いない。


「お待たせしました。」


担当オペレーターより発せられた声が、艶やかに感じてしまった四朗がドキリとしながら「どうでした?」と聞き返すと。


「確かにデブリではないようです。がエネルギー反応及び生体反応が皆無です。アマンナイト反応が検出されていますが、それだけでは戦闘用かすら分かりません。もうすこし、エネルギーが使用していれば細かく調べられるのですが…。現在、行政府の警備艦隊に出撃を命じました。ヤシマは、その場で待機してください。」


そういって、一方的に通信を切られてしまった。四朗は、まあ仕方ないかとか考えながら、ヤシマの一番砲塔を旋回させ始めた。彼がこの世界にきて一番よく学んだことは、とにかく疑うことだ。


しばらくして、警備艦隊と思われる古ぼけた艦影をヤシマがとらえた。巡洋艦が1隻と2隻の駆逐艦が単縦にて航行している。銀河政府の所有の物としては、あまりにも古い型の船ではあったが、ヤシマはそれよりも古いものだと思うと、四朗は目頭を押さえそうになった。


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