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TRACK-5 錯綜 1

 墓場屋敷に駆け込んだ直後、にわか雨が降り出した。

 ここまでの道のりの間に薄暗い朧雲が現れ、冷たい風が吹いてきたので、ひょっとしたら降るかもしれないと思っていたのだ。間一髪、濡れずにすんでよかったと、エヴァンは汚れた窓から灰色の空を見上げた。

 

 小降りだった雨は、いまや本降りとなり、奏でられる雨音が屋敷中に響き渡っている。

 窓ガラスに張りつくようにして外を見ていたエヴァンは、首を巡らせ、部屋の方に顔を向けた。

 応接室に集まった仲間たちが、三手に分かれている。ドミニク、ユイ、ロゼットの女性陣は、ソファに座らせたリカの周りを、守るように囲んでいた。

 その向かいのソファにはレジーニが座っており、難しい表情でリカを見つめている。

 ガルデは、オツベルとともに廊下にいる。少し開いた扉の隙間から、ときどきかすかな話し声が聞こえてきた。なかなか興奮が治まらなかったオツベルを、ガルデはずっとなだめている。

 彼らが廊下にいるのは、オツベルをリカに近づかせないためだ。

 

 襲撃者の手から、リカを救い出したまではよかった。問題はそのあとだ。興奮冷めやらぬ状態のオツベルが、リカに襲いかかったのである。

 襲いかかった、というのは語弊があるだろうが、リカにとってはそう見えても仕方がないだろう。危うく攫われかけたというのに、この上巨体の異形が覆いかぶさろうとしてくれば、誰であれ“襲われた”と思うに違いない。

 だが、あれは襲おうとしていたのではない。少なくともエヴァンにはそうは見えなかった。

 

 あれは――、抱きしめようとしていたのではないだろうか。怖い目に遭い、怯える子を慰めるように。

 

 オツベルからは、悪意が微塵も感じられなかった。リカが拒絶すると、オツベルはしゅんとして、おとなしく引き下がった。それでも、墓場屋敷に戻る道中、しきりと彼女を気にしており、いつの間にかそばに寄っている。リカを不安にさせないため、常にレジーニとガルデが間に入っていたが、オツベルの様子は明らかに異様だった。


(オツベルがあんなにリカを気にするのは、やっぱりあの子の能力ちからのせいか?)


 攫われそうになったリカが、とっさに能力を発揮し、彼女の危機を察知したオツベルが救出に向かった。リカの能力は無意識に作用し続け、自分を守るようにオツベルに指令を下した。そういうことは考えられないだろうか。

 温厚なオツベルを暴走させたほどだ。リカの力は、想像以上に強いのかもしれない。

 オツベルの暴走といえば。

リカを攫おうとした男を、エヴァンが見たのはほんの数秒足らずだった。その男は、ふらつきながら瓦礫の中から姿を現した。レジーニから聞いたが、オツベルが投げ飛ばしたらしい。

 パンクスタイルの痩せた体躯に、アシンメトリーの髪型の男は、エヴァンたちを見るなり、表情を歪めて逃走した。追いかけようとしたのだが、それよりも今はリカとオツベルの方が優先だと、相棒に引き止められた。

 あの男もマキニアンだ。彼を見たドミニクとガルデが、「ゼル」と名前を呼んでいたので、〈処刑人ブロウズ〉の一人だったのだろう。

「ゼル」を覚えているかどうか記憶を探ってみたが、エヴァンの頭の中には、彼の姿はなかった。失くした記憶の欠片に、「ゼル」のことも含まれていたようだ。 シャイン・スクエア・モールで遭遇した、ベゴウィックと同じである。

 あの二人はおそらく、ともに行動しているはずだ。〈SALUTサルト〉の残党組織として。

 彼らの目的は何なのか。

 考えるべき事柄が山積みだが、あいにくエヴァンの脳は、長時間の考え事には向いていない。加えて、重苦しい雰囲気も苦手だ。

 静まり返った空間にいると、その静寂を破りたくなる。今がまさにそうだ。冗談ジョークのひとつでも飛ばして笑わせたいところだが、レジーニに怒られそうなので、当たり障りのない言葉で、どうにか会話のきっかけを作ることにした。


「雨、降り出す前に戻ってこられてよかったよな。天気予報じゃ、今日一日晴れだって言ってたんだけど」

 エヴァンが声を発すると、全員が一斉に顔を上げた。最初に応じたのはユイだ。

「ほんとそうだね。もう少し遅かったら、みんなズブ濡れになるとこだった。天気予報もあてにならないね」

 ユイが無垢な笑みを浮かべ、同意を求めてロゼットを見やる。無表情なロゼットは、「そうね」とだけ答えた。

 ドミニクがリカの肩に手を添え、顔を覗き込む。

「大丈夫ですか? 少しは落ち着きましたか?」

 優しく微笑みかけると、リカは少しだけ口の端を持ち上げて頷いた。青褪めていた顔色も、今は血色を取り戻している。

 リカの視線が扉の方へ向き、それから正面のレジーニへ移った。少女の目線を受けた相棒は、ふっとため息をつく。表情に変化は見られないが、機嫌はよくなさそうだとエヴァンは思った。

「あの男を知っているか?」

 レジーニは、リカではなくドミニクに尋ねた。あの男というのは、ゼルのことだろう。

「ええ、もちろんです。エブニゼル・ルドン。私やエヴァンと同じ、〈処刑人〉の一人でした」

 頷いたドミニクが、エヴァンに話を振った。

「お前、彼のことは?」

「全然、覚えてねえ」

 フルネームを聞いてもピンとこないエヴァンには、肩をすくめて首を振るしかなかった。

「そう。まあ、二人はあまり接点がありませんでしたし、ゼルはそもそも、他のメンバーとも、大して話をしませんでしたから。口を利いていたのはベゴウィック・ゴーキーくらいなもので」

 エヴァンは反射的に指を鳴らし、その指でドミニクを指した。

「そいつ、ゆうべシャイン・スクエア・モールで会ったぞ。会ったっつうか、襲ってきやがったんだ。妙なメメント引き連れてさ」

「ベゴウィックに会ったですって? どうしてそういうことを早く言わないの、お前という子は」

 形のいい眉を吊り上げるドミニクに、エヴァンは唇を歪めて抗議の意を示す。

「文句言うなよ。ガルデのこともあったし、さっきまではオツベルのことで手一杯で、話すヒマなんかなかったろ」

「妙なメメントを引き連れてって、どういうことです」

「あいつら、身体の一部が変形すんだよ。俺たちみたいに。で、ベゴウィックがさ、言ったんだ。今日のは“挨拶”で“奴らの試運転”だって」

「私たちのように、変形?」

 ドミニクはおうむ返しに呟くと、ユイとロゼットを交互に見た。少女たちも困惑気味に、顔を見合わせる。

「ゼルというあの男は、自分たちを〈VERITEヴェリテ〉と呼んでいた」

 レジーニが両膝に腕を乗せ、手を組み合わせて前のめりになった。

「マキニアンのように、身体の一部が変形する連中が暗躍しているらしい、という話を聞いたばかりなんだが、それがこの〈VERITE〉と名乗る奴らのことなんだろう」

 相棒の碧眼が、エヴァンを一瞥する。

「奴らはゆうべ、シャイン・スクエア・モールで奇襲をかけてきた。そのとき連れていたメメントには、たしかに変形能力があった。どう考えたって、人工的に造られたモノだ。メメントに〈細胞置換技術イブリディエンス〉を施した生物兵器、といったところか」

「なんだよそれ、最悪だな。今まで俺たちが戦ってきた相手を、逆に武器として利用するって、そんなの〈政府サンクシオン〉がやろうとしてたことと同じじゃねえか」

 エヴァンは嫌悪を隠すことなく吐き捨て、手近にある壁を殴りつけた。古びて脆くなった壁に、蜘蛛の巣状のヒビが走る。

 

 エヴァンたちマキニアンを誕生させた研究施設〈イーデル〉では、政府の命令により、メメントの軍用計画が水面下で進行していた。死骸をメメントに変異させる物質モルジットを収めたカプセルを、生物の体内に埋め込み、人為的にメメント化させて軍事利用するという、極秘プロジェクトである。

 計画の一端を担っていたのは、アルフォンセの実父、フェルディナンド・メイレインだ。 


私たちマキニアンを裏切った政府と、同じことをしているのですね、彼らは」

 ドミニクが嘆息し、藍色の目を瞑る。

 彼女の複雑な心境は、エヴァンにも理解できた。たとえ記憶が欠けていても、ベゴウィックとエブニゼルは、チームメイトとして共に戦ったはずの仲間である。そんな彼らが、多くのマキニアンの命を奪った政府と同じ轍を踏んでいるなど、冗談にしたって性質たちが悪い。

 レジーニが、ずれた眼鏡の位置を正しながら言った。

「奴らが姿を見せたのは、変形するメメントの実地試験じゃないだろうか。試運転とは、そういう意味なんだろう。あえて、エヴァンやドミニクたちがいる、この街を選んでね」

「俺たちに用があるなら、直接来りゃいいんじゃねえか」

 エヴァンは率直な疑問を述べる。

「いいえエヴァン。ベゴウィックやゼルが、自分たちではなく変形メメントを差し向けたのには、理由があるはずです」

 思案顔のドミニクが、右手を顎に当てた。

「試運転。つまり変形メメントはまだ完成形ではない、あるいは改良の余地がある段階、ということでしょうか。だから、実際に戦わせて」

「戦闘データを採取する」

 レジーニが言葉を引き取ると、ドミニクは頷いて同意した。

「エヴァン、ベゴウィックは、他に何か言っていませんでしたか?」

 エヴァンは腕を組み、ゆうべのやりとりを思い出そうと首をひねる。

「そうだな、『いずれ本番が始まる』って言ってたっけ。あと……」

 思い出した内容は、あまりいいものではなかった。話すべきかどうか迷ったが、「なんだ、言ってみろ」と相棒に促されて腹を括った。

「これから大勢が、俺のせいで死ぬって」

 再び重い空気が漂い、言うんじゃなかったとエヴァンは後悔した。

「それって、どういう意味?」

 ユイに尋ねられても答えようがない。

「俺が聞きたいよ」

「じゃ、そのこと考えるのはまたにしましょ」

 ロゼットのそっけない提案を、エヴァンはただちに採用した。

「憂慮すべき点は他にもある。リカのことだ」

 レジーニに名を呼ばれ、それまで静かだったリカが顔を上げる。二人の視線が一瞬絡まるのを、エヴァンは見逃さなかった。

「エブニゼルはリカを狙って来た。連中に彼女の力が知られたということだ。このままにはしておけない」

 リカが物言いたげに口を開く。しかし結局何も言わず、その口を閉じた。

 ドミニクたち女性陣には、まだリカの事情を知らせていなかったことを思い出したエヴァンは、彼女たちに簡潔に説明した。三人は、リカにメメントを操作する能力が備わっていることに、驚きを隠さなかった。そこへレジーニが、彼女にはモルジットを視る力もあると付け加えたものだから、さらに混乱が増した。その力については、エヴァンも初めて聞いた。

 当のリカは、自分に注目が集まり、居心地悪そうにもじもじしている。

「ドミニク、頼みがある」

 レジーニがソファから立ち、ジャケットの内ポケットから携帯端末エレフォンを取り出す。

「はい、何でしょう」

「リカを匿うためのセーフハウスを用意してある。場所を教えるから、彼女をそこに連れて行ってくれないか。それと、一晩付き添ってやってほしい」

 リカがはっと息を飲み、レジーニを見上げた。

「ええ、それはかまいませんが……」

 ドミニクは、リカの様子を気にしつつも、頼み事を引き受けた。

 レジーニがドミニクに、セーフハウスの場所を説明している間に、エヴァンの携帯端末が鳴り出した。ディスプレイに表示された発信者名は、アルフォンセである。通話をONにすると、愛しい声がエヴァンの名を呼んだ。

「もしもしアル? どうかした? あ、いや、用がなくても電話してくれるのは嬉しいけど」

『急にごめんなさい。あのね、今晩の夕食、何か食べたいものがあるかな、と思って。でも、ひょっとして、レジーニさんから連絡があったんじゃない?』

 さすがというか、女性ならではの鋭い勘である。エヴァンは少し迷ったが、アルフォンセにも今の状況を伝えることにした。

 話し終えるとアルフォンセは、『私にも手伝えることがある?』と訊いた。エヴァンは端末を耳にあてたまま、首を横に振る。

「だめだめ、アルを巻き込むわけにはいかねえよ。こっちのことは気にしなくていいから」

 エヴァンとレジーニの専属武器職人アーメイカーとはいえ、アルフォンセは非力な一般人だ。いつ何時、敵が再襲来するかわからない渦中に、最愛の人を引っ張り込みたくはない。

 しかし、端末の向こうから返ってきたのは、不満げな声だった。

『私って、そんなに頼りない? エヴァンやクロセストのメンテナンス以外には、ただ待ってるしかないの?』

「違う、違うって! そういう意味じゃなくて、俺はただ……」

 慌てて弁解しようと声を張り上げると、レジーニが怪訝な表情でこちらを見ているのに気づいた。相棒は目で「どうかしたのか?」と問いかけている。エヴァンは端末のマイクを手で覆った。

「アルに事情を話したんだ。そしたら、何か手伝うことはないかって訊くから」

「自分から手伝いたいと言い出したのか?」

「ああ、でも」

「ならちょうどよかった、貸せ」

 言うなりレジーニは、エヴァンの手から端末をもぎ取る。取り返そうと手を伸ばすも、相棒は無視して部屋の隅に移動し、電話で話し始めた。

 レジーニはほどなくして戻り、エヴァンに端末を突き返す。電話は切れていた。

「おいレジーニ。お前アルに何言ったんだ」

「リカに食事を作ってやってほしい、と頼んだだけだ。安心しろ、ストロベリーと一緒に行くように言っている。一人にはさせない」

「あのなあ、彼氏の俺を差し置いて、そういうこと勝手に決めんなよ。アルを巻き込むことになるだろ」

 詰め寄ると、レジーニは鼻で笑った。

「どうせ“手伝う”“だめだ”の押し問答が、延々と繰り返されるだけだったろうが。アルは自分の意思で“何か手伝わせてほしい”と申し出たんだ。彼女が何の覚悟もなしに、そんなことを言うと思うのか?」

 正論を叩きつけられて、ぐうの音も出ない。

 裏社会に身を置くエヴァンやレジーニと関わることを選んだのは、アルフォンセ自身だ。その選択が招く危険性を、充分承知の上で。

 彼女の覚悟を受け止めなければならないのは、他ならぬエヴァンである。それを、相棒によって改めて思い知らされたのは、何となく癪に障る。が、反論できない以上は、口を閉ざすしかない。

 

 いつの間にか、雨が止んでいた。吹き込んでくる隙間風に、濡れた土や草木の匂いが沁み込んでいる。

 セーフハウスに向かう前、ドミニクはユイとロゼットに、家に帰るよう言い渡した。少女たちは口々に抗議し、ここに残れないならセーフハウスについていくと主張した。しかし当然のように、ドミニクはそれを許さなかった。

 ユイとロゼット――特にユイ――は、ぶつくさ文句を垂れながらも、義姉あねに従い墓場屋敷を出て行った。

 ドミニクとリカを送り出すとき、レジーニの眉間には、終始シワが寄っていた。

「ドミニクなら君を守ってくれる。部屋に着いたら、少し休むといい」

 リカにかける言葉そのものは優しい。だが、声色や抑揚に苛立ちが滲み出ているのが、エヴァンにはわかった。

 リカも、レジーニの心境を敏感に察したのか、俯いたまま目を合わせようとしない。

「二度と勝手な真似はしないように」

 レジーニはそう言い含め、リカとドミニクを見送った。エヴァンは相棒に対し、目を細めて不快感を表明する。

「お前、今のはよくないぞ。よくない」

「何がだ」

「リカへの態度だよ。もっと言い方ってのがあんだろ」

「充分気を遣っている。何の文句を言ってるんだ」

「あの子が心配なのはわかるけど、八つ当たりすんなっつってんだよ。本心と言葉が噛み合ってねえ。お前そういうとこだぞ」

 レジーニの片眉が吊り上った。図星だったようだ。

 本音をなかなか明かさないレジーニだが、近くにいてよく見ていれば、何を考えているのかわかることもある。相棒歴一年を経たエヴァンは、彼の小さな心の機微が、少し汲み取れるようになっていた。

 レジーニはリカを気にかけている。それが、保護しなければという責任感からなのか、それとももっとデリケートな想いなのか。そこまでははっきりしない。

 ただ、自分を探し続けていたというリカに対して、何らかの特別な感情を持っているのは間違いなさそうだった。

 

 レジーニが何か言おうしたとき、応接室の扉の片側が開いて、ガルデが顔を覗かせた。

 ガルデは室内を見渡し、エヴァンに尋ねる。

「ドミニクたちはどうしたんですか?」

「ドミニクはリカを、安全な場所に連れて行った。ユイとロゼットは帰らせたぜ」

「そうでしたか。オツベルを廊下の奥に連れて行っていたので、出て行くのに気づきませんでした」

 ガルデの視線がレジーニに移る。エヴァンは相棒とガルデの間に立ち、それぞれを紹介した。

「レジーニ、こいつはガルデ。俺と同じマキニアンだ。ガルデ、俺の相棒のレジーニだ。一緒にメメント退治してる」

 ガルデは頷くと、レジーニに右手を差し出した。

「ガルディナーズ=ミュチャイトレル=ヌルザーンです。ガルデと呼んでください」

「レジナルド・アンセルム、レジーニでいい」

 レジーニが握手に応じると、ガルデは左手も重ねてがっちりと握り、上下に振った。

 やや長い握手から解放されたレジーニが、嫌味のこもった目つきでエヴァンを見る。

「礼儀正しいマキニアンは、ドミニクだけだと思ってたよ。少しは見習ったらどうだ」

 エヴァンは相棒の毒に応えず、口の端だけで笑った。思い込み全開で暴走するガルデを目の当たりにしてなお、同じことが言えるなら考えてやってもいい。

 気を取り直して、ガルデにオツベルの様子を訊いた。

「オツベルはどうしてる」

「もう落ち着きました。すぐそこで待っていてもらっています」

「リカに執着する理由は?」

 レジーニの質問に、ガルデは唇を歪める。

「それが、本人にもよくわからないそうで。リカというあの子に危険が迫っているのを察したから助けに行った、というんですが。それでも、はっきりとした理由がわからないようです」

「直接話を聞きたいんだが、呼んでもらえるかな」

「わかりました、ちょっと待っててください」

 ガルデが頷き、駆け足で廊下に出て行った。

 エヴァンは相棒を見やる。形の整った顎に片手をあて、なにやら思案顔だ。

「尋問する気じゃねえだろうな」

「ただの質問だ。言葉を理解し、意思疎通ができ、個体生命として確立しているメメントだぞ。訊きたいことは山ほどある」

「お前の質問は、九割あたり尋問になるんだよ。気をつけろよ、言い方。いじめるんじゃねえぞ」

 エヴァンが釘を刺すと、レジーニは一瞥をよこした。

「物言いは、時と場合で使い分けるものだ」

「お前マジでそういうとこだからな」

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