4話
人気のない山奥のさらに奥にその屋敷はあった。
高い山脈に囲まれた地形、広大な大森林、そしてその大森林を住処にしているのは
魔獣や魔物など危険な生物達で、環境的に人が生存できる土地とは言い難い場所だ。
屋敷の近くにある湖の畔では黒いローブを着た白髪の老人と、黒髪の若者の2人の
姿があった。
「なあ…ラウさん。いつまでこうしてればいいんでしょうか?」
「そうだのう、自分の魔力が感じられるまでじゃな」
(自分の魔力って…もう2時間近く経つけど一向に魔力ってものが感じられない…)
龍人が昨晩の考えを基に出した結論は、この世界を旅しながら帰還の
方法を探ってみたいこと、そのために魔法を教えて欲しい。そのことをラウに
告げた。
もとよりラウもそのつもりだったので快諾し今に至る。
魔法を扱うには魔力制御が必須であるとのことで、「先ずは己の体内にある魔力
を感知せねばならん」ということで、修行を開始したのである。
当然、地球で生活をしていた龍人にいきなり魔力を感じろ。と言ったところで
全く感知する気配はなかった。
「地球には魔力はなかったのに、本当に俺に魔力ってあるんですかね?」
「言ってなかったかな?お主は気付いてないかもしれんが、この地に来てから
お主の魔力は物凄いことになっておるぞ?」
「え?物凄いこと?いや聞いてないんだけど…」
「そうかそうか、うっかりしておったようじゃ、すまんな。ええと魔素につい
ては修行の前に話したと思うが」
「魔力の源でしたっけ」
「そうじゃ、この世界は魔素で溢れておる。空気、水、大地と至る所に。魔力
を持つ生命はその魔素を吸収することで魔力を得ている」
「魔素を吸収?することで魔力を得ることができる?」
「そうじゃ、魔素の吸収の上限、即ち魔力の上限は種族毎に大体決まっている。
そして人族はあまり魔力上限は多いほうじゃないんじゃが」
「じゃあ俺の場合はどうなんです?実感は無いですが魔素の吸収が止まってな
いわけだけど…」
「個体差もあるがな。先天的に人より魔力上限が高い、と言ったある意味才能
のある者もおる。わしの場合は先天的な才能と膨大な時間を修行に費やしたこ
とによって、魔力量は人族の範疇を超えておる。がお主はのう…」
「う、話の流れ的になんとなく理解しました」
「話のわかるやつでよかったわい。お主の魔素吸収がいつ止まるかは不明じゃ
が今の時点でわしを超えておるのは間違いない。感知する魔力量、上昇速度共
に異常じゃ」
「ええー!異常って俺の身体は大丈夫なんでしょうか?」
「まあ平気じゃろう、限界が来れば勝手に治まるはずじゃ、それに魔力がいく
ら多くても使い方が分からなければ何の意味もない、魔導の王たるわしが直接
教えるんじゃ、お主は余計なことを考えずしっかり学べば良いのだ」
異世界を生きるのに何かしらに力は欲しいとかんがえていた龍人だったが、知
らず知らずのうちにチート能力を得ていたようだ。
(どう考えてもラッキー…だよな?魔力量が相当多い?魔法を使う適性が高い
とかなのかな?と言うことは魔法は使い放題か!?…異世界チート凄え!)
思いもよらなかった幸運に龍人は心が躍る思いだった。がしかし、彼は少し勘
違いをしていた。
龍人をRPGのゲームで例えるなら、LV1でMPがカンスト状態に近い。確かにそ
れはチートと言えよう。
あるゲームで主人公達が敵モンスターから高LVの攻撃呪文を唱えられてしまい
ヒヤッとケースがある。そして「しかしMPが足りない」と不発に終わり安堵す
る。
龍人は逆だった。「MPは足りる、しかし呪文がわからない」と言ったところ
だろう、魔法に適性があり、やりたい放題、使い放題と思っていたがそれは
違ったのだ。いくらMPが多くてもその魔法を覚える、使い方を知らなければ
全く意味がない、宝の持ち腐れと言える。
力はあれど才能が人並みの彼がこのことに気付くのはもう少し後のことであった。
「よーし!やる気が出てきたぞ、俺の中の魔力…魔力… 魔力…」
「う、うむ。その意気じゃ」
魔法を自在に操る自分を想像し、俄然やる気になった龍人だったが、彼が行
っているのは、地球で言えば座禅に近い初歩中の初歩の修行にであり、身体を
自然体にし、体内にある魔力を見つめるというもの。
龍人が己の魔力を認識出来たのはこの修行を始めて1週間後のことだった。
「こ、これは…これが魔力ってやつか!」
「やれやれ、苦労したな龍人よ」
「長かった。この1週間本当に長かった!これが俺の魔力か…分かる!分かる
ぞー!」
「まだ修行の入り口に入ったばかりじゃぞい、本格的な修行はまだまだこれ
からじゃぞ…」
龍人は気付いてしまった。もしかして魔法の修行はとっても大変なのではと。
この先の苦労を考えガックリと項垂れた。
(これは教える方も一苦労じゃわい…)