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2話

  魔法使いに付いて行くと書斎に通された。壁一面が本棚になっていて、

 かなりの数の本が収められている。机には見慣れない文字で書かれた

 書物や、魔法陣のような幾何学模様を書き記したような羊皮紙などが

 置いてあり、彼がここで魔法の研究でもしているように思われた。


  「さて、まずは掛けるがよい」


  「失礼します」


  龍人(たつひと)は促されるまま 部屋の隅にある応接用のソファーに

 腰掛けると、対面に魔法使いが腰掛け目深に被っていたローブを外し

 てこう言った。


「お互い何者かも分からないでは話が進まんからな。まずは自己紹介

 でもしようかの、わしはラウ・エンデミリオンという、昔は魔導の王

 なんて呼ばれたこともあったが、今はただの魔法使いじゃ」


  言葉遣いや、雰囲気から年齢は自分(たつひと)よりはかなり上だろう

 と考えていた。そして、根暗で陰湿で不気味というあまり良くない

「魔法使いの勝手なイメージ」を抱いていたが、ラウと名乗ったこの

  爺さんはそれとはかなりギャップがあった。


「魔導の王ですか?王様だったんですか!」


  王様だったということも驚きだったが、確かに、彼の纏うオーラ

 といか気品というか迫力を感じた。

  それに、かなり男前だった、白人系の顔立ちに、きれいな白髪を

 短く刈り込み、口元とに無精髭を生やし、なかなかに渋い爺さんだ

 った。魔法使いというよりは、勇猛な武将と言った方が似合っていた。


「ずっと昔のことじゃ、もう隠居の身じゃよ」


「そ、そうですか。俺は氷室龍人。家名が氷室で名前が龍人。サラ

 リーマンをやってました」


 「サラリーマンが何か分からんが、名は龍人か。わしのことは好き

  に呼んでもらって構わん」


  「魔導王だから魔王様…とか?」


  「…ラウで構わん」

  「それよりもお主を呼び出したことについて話そう…」


  ラウが語った話はこうだ。

  実は彼は1000年も昔に生まれた人物で、元々、魔法の才能がずば抜

  けてあり、それでも鍛錬を積み重ねて、世界最高峰の魔法使いと言

  われるようになった。

  ある時、幾つかの国同士で大きな戦争が起こり、彼の活躍によって

  大戦は終結したらしい。そして、ある地方を纏め上げ国の王として

  君臨したのだそうだ。


  「一千年も前って…どう見てもラウさんは70歳を超えてるようには

  見えないけど…」


  見た感じ、体格もがっしりとしており、歩く姿勢も真っ直ぐだった。

  60歳前後かなとと考えていたが、ここは異世界。まさに次元が違うよ

  うだ。


  「魔法の力でな、肉体の老化を防いでるんじゃ、70歳は超えてない

  はずじゃが…昔のこと過ぎて忘れてしまったわ」

  「元々、わしは王なんて柄じゃ無いのでな、わしは死んだことにして

  人気の無い山奥でこうして千年も魔導の研究をしていていたのじゃ」


  「魔法ってなんでもありだな…それで俺を召喚した理由は?」


  (地球の常識で考えるのと深く考えるのはよそう…)


  「…それなんじゃが、召喚魔法は通常、術に使用した魔力に応じて

  魔物や精霊を呼び出して使役する魔法なんじゃが…」


  「言っておきますけど俺は魔物でも精霊でもないただの人間ですよ?」


  「どうやらそのようじゃの。しかしな、理由は不明なのだが、わし

  が召喚魔法を使用した時に、唐突に真っ黒の空間が目の前に現れてな

  そこからお主が現れたんじゃが…」


  一旦言葉を区切り「…確証はないがお主。この世界の人間ではない

  だろう?」と言った。


  ラウが言うには召喚魔法は、この世界(テラ)にいる肉体を持たない者

(精神体や魔力体)を呼び出す魔法であり、人間を呼び出すこと、まして

  や、特定の者を呼び出すことは出来ないと語った。

  そして、黒い空間に関しても「あんなことは今まで一度も見たこと

  もないし起こったこともない」と付け加えた。


「隠しても仕方がないので…確かに俺はこの世界の人間ではないよ

  うです。俺のいた世界では魔法なんてありませんから」

「俺もこちらに来る前に、その黒い空間に飲み込まれたんです。俺

  のいた世界でもあんなことは見たことも聞いたことなかったです」


  ラウは「うーん…」と唸り考えるように間を置いた。


「はっきりとした理由はわからんが、あの時な、黒い空間がワシから魔力を

  全て奪いおった…そのことが原因で制御を失ってしまい召喚魔法は暴走した。

  結果はお主の考える通り。わかるじゃろう?」


  「暴走して、俺が現れたと?」


  「そうじゃ」

 

  「俺が元の世界に帰れる方法はあるんでしょう?」


  「…わしもな、返してやりたいが、方法がわからん…召喚の際、契約

  を結ばんとな、呼び出された者は自分で帰ってしまうんじゃ。だから

  送り返すという魔法は知らんのじゃ」

 

  「そ、そんな…じゃあ、帰れないってことか?」


  「あの黒い空間がなんらかの原因であると思うが、今の時点では、

  お主には悪いがわしにもどうすることも出来ん。…すまないの」


  龍人はガックリと肩を落とし落胆したが、ラウは励ますように言った。


  「龍人よ。お主のいた世界がどんなところか非常に気になるところ

  ではあるが、この世界にはわし以上に魔導に通じている者はおらん筈だ」


  千年もの間、こんな山奥で魔法の研究をしているのだからその積み

  重ねた知識は想像すら出来ない。ましてや龍人のいた地球には魔法は

  存在しないのだから。


  「ただ、あの黒の空間は魔法とは異なる現象じゃ。ワシの魔法が暴走

  した理由はあれのせいなのは間違いなかろう。あれに関してわしは何

  の知識も持っておらん。しかし下界では何かしらの情報を得ることが

  出来るかもしれん、勿論、わしも帰還方法を探る協力は惜しまないつ

  もりだがの」


  ラウが言うには、この世界は広く、人間以外の人種がいると。 エル

  フ、獣人、亜人、少数民族も多数いるらしい。この千年で、彼らの

  治める国がどうなったかは分からないが、色々な街や大きな都市で

  調べれば少しは手掛かりが掴めるかもしれないと。


  「人間以外の人種ですか…さすが異世界ですね」

  (おおぉ!エルフだってー?獣人?亜人?み、見てみたい!)


  「ところで、お主はどこから来たのじゃ?お主のいた世界はどんな

  世界なのじゃ?」


  「えーと…地球…日本って国です。僕たちの世界には人間以外の種

  族はいなかったんです。どんな世界か…ここと違って魔法がない代わ

  りに科学が発展した世界って言えばいいかな」


  「ほう、科学とな…魔法がない世界に住んでいる種族は人間だけか

  …なるほどな」


  ラウは自身が見知らぬ世界の話に興味津々という表情だったが、一

  つ咳払いをし、姿勢を正した。

 

  「…まだまだお互い聞きたいこともあろうが、今日はこの辺にしよ

  う。最後に、この件はわしも責任を感じておる。必ずお主を元の世界

  に戻せると確約は出来んが、やれる限りのことはするので安心してく

  れ、あと、住む家に関しては屋敷に空いてる部屋も沢山あるのでな当

 面はここに住むが良かろう」


  龍人は無言で頷いた。

  ラウと話し始めてかれこれ数時間が過ぎ、話を進めていくうちに彼に

  対する警戒心も少しずつ薄れていった。龍人を呼び出してしまったこ

  とに責任を感じているようだし、そもそも人柄も悪く感じられなかっ

  た。

  彼の言い分を聞くに、 召喚魔法の暴走が原因の一つのようだが、わ

  ざと暴走させたわけでもなく事故のようなものだった。言い訳の一つ

  もしなかった彼を一方的に責める気になれなかった。


  その後、続きはまた明日にしようとなり、簡易な夕食をご馳走になっ

  た後、龍人は与えられた客間で一人考え込んだいた。


  (ラウさんは、戻る方法は分からないと言っていた。話してみて悪意の

  ある人には感じられなかったし、実際、親切にしてくれている。ラウさ

  んも帰還方法を探す協力すると約束してくれた。最初はどうなるかと思

  ったけど、良い人そうで良かった…)


  今後どうするか。については、なかなか結論は出せなかった。


  (正直、年甲斐もなくワクワクしているところもあるんだよな…。今年

  で30か、地球には帰りたいって気持ちは当然ある。結婚はしてないし彼

  女もいなかったけど、友人や家族もいる。休みの日には、あいつらと飲

  みに行ってはバカな話で盛り上がったなぁ…両親は一人暮らしの俺を心配

  してたまに連絡きてたしな…仕事はサボってることもあったけど、それな

  りに顧客も持って信頼関係も築いてきたんだ。最近は、もう少しで新規の

 案件がまとまるって時だった。なのに異世界に呼ばれました。帰れません

  って…皆、心配すんだろうな…)

 

  龍人は「ふぅ」とため息を吐いた。


  (まあしかし、この世界のことを知らなすぎる…俺に何ができるって訳じゃ

  ないけどラウさん任せでっていうのも違う気がするしな。魔法って言葉に

  ちょっとテンションが上がったのは事実だ!せっかくの異世界だ、滅多に

  できない経験を楽しんでやろうじゃないか!)


  龍人も小さい頃からゲームやアニメ、漫画で馴れ親しんだ魔法が使える

  この世界に興味があった。出来るなら魔法を使えるようになりたいと。

  そして、せっかく来たこの世界を見て回りたいと。そう決心した。

  明日、ラウにこの世界のことと、魔法を教えてもらおう。そんなことを

  考えながらべッドに横になった。

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