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習作

総合的な問題: Integrated Question = Integrated Problem

作者: 小槙

【Ⅰ】次の文章[A][B]は、それぞれ2054年、2070年に書かれた記事である。これらを読んで以下の問いに答えよ。[配点 20点]


[A]

「不幸虫の正体、判明」 ○△日報(2054年10月21日 16:59配信)

 本日15時から行われた会見において◇※大学は、「不幸虫」と呼ばれていた謎の発光する虫について、発生場所の近隣に位置する当大学の研究施設から流出したものとする検証結果を発表し、謝罪した。当大学の小野崎勉調査チームリーダー(理学部教授)は会見の中で、この虫は発光に関与する酵素の遺伝子を人工的に改変することで紫外線に対して発光できるようにしたゲンジボタルであるとの調査結果を明らかにした。さらにこのホタルの遺伝子が、当大学の生命科学系の研究室において作製されたものと一致したと報告し、謝罪した。本件については、今夏に行われた調査の中間報告において、付近には約二千匹が生息しており、その形態とゲノム情報はゲンジボタルに類似していることがすでに発表されている。


[B]

「ドキュメント あの事件のその後を追う 第3回 不幸虫と宇宙人」 □×ウィークリー(2070年7月5日 14:31配信)

■宇宙人からのメッセージか?

 読者の皆さんは覚えているだろうか。かつてワイドショーでこぞって取り上げられた不幸虫騒動。いつの間にか見られるようになった発光する虫の発生地付近で、立て続けに交通事故が起きたのが事の始まり。それが実は近くの大学の研究施設から流出したものと判明し、多くの大学関係者の処分に発展した。今、この事件が新たな展開を迎えようとしている。なんと不幸虫の発光が、宇宙人からのメッセージだというのである。これでも筆者は少年時代にクラークやブラッドベリを読み漁り、宇宙人との邂逅を夢見てきた一人。胸を高鳴らせながら筆者がまずお話を伺ったのは、宇宙人との関連性をいち早く報じた月刊誌ザ・アトランティスの編集長、松原氏である。

「私たちがこの興味深い事実に気付いたのは、事件発覚からしばらく経った頃でした。編集部に虫好きが一人いるのですが、彼が発光の間隔がおかしいかもしれないと言い出したんです。手当たり次第に集めた発光の映像はどれも不鮮明なものでしたが、その周期性は火を見るよりも明らかでした。早速、暗号の専門家に解読を依頼しました。それは難解なものでしたが、試行錯誤の末にその意味に辿り着いたのです。『われわれは、宇宙人だ』というね。まあ実際は、住んでいる惑星の銀河系における位置だった訳ですが」

 そう言って、松原氏は銀河系の地図を指し示した。

「太陽系が位置しているのは、銀河系の中でもこのオリオン腕と呼ばれる領域です。一方、メッセージが示しているのはペルセウス腕と呼ばれるこの部分にある恒星系に属する惑星です。今のところ正式な名称が無いため、私たちは『惑星X』と仮称しています。まだ解読の途中ですが、この『惑星X』には地球と同等かそれ以上の水があるようです」

 実際筆者も半信半疑ではあったが、話を聞いてみると確かに否定出来ない部分が多かったように思う。特筆すべきは、発光の周期性と素数との関連性だろう。1から100までの数字のうち素数である数字のタイミングで発光が生じる時間帯が有り、これが暗号のアルゴリズムの解読に繋がったという。これが素数ゼミとも関連しているという話に目をつぶれば、十分信用に足る内容だと思われる。


(中略)


■ついに不幸虫の生息地へ

 続いて私は、**県**市近郊の山の中腹に流れる小川へと向かった。今もなお発光現象が起きると言われている不幸虫の生息地である。現場周辺は関係者以外の立ち入りが禁止されているが、今回は特別に発光現象検証チームの調査に同行することで取材をすることができた。検証チームは、元々は不幸虫の流出経路の特定が主な活動だったが、現在ではその発光現象の原因の究明にも取り組んでいる。

 その小川の流れる一帯は鬱蒼とした樹々に覆われていて、日中でもひんやりとした空気に包まれていた。この星のものではないような神々しささえ感じられた。こうした現場周辺の様子は事件発覚当時から変わりないのかと尋ねると、検証チームのリーダー、小野崎氏はこう答えてくれた。

「えぇ、幸いにして環境は汚染されておりません。ですから今でも遺伝子改変型ホタルたちは生息できています。遺伝子改変型ホタルは野生型のホタルとは子供を作れないので、野生型が生息している場所ではすぐに数を減らしてしまうのですが、ちょうどこの場所だけは野生型のホタルが生息しておらず、かつホタルの生存に適した環境が整っていたために、長く定着していると考えられます。奇跡的ですね」

 それから調査が終わるまで、小野崎氏にはホタルの生息に適した環境について詳細な講義をして頂いた。ここで全てを紹介できないのは非常に残念である。


■不幸虫の生みの親は……

 最後に私が向かったのは某国立公園。ここにも、事件についてよく知る人物がいる。レンジャーの詰所に案内された私を出迎えてくれたのは、遺伝子改変ホタルを作製した張本人、井上氏であった。彼は、流出問題の責任をとって辞職した後、研究の世界からは足を洗い、この国立公園のレンジャーとして自然保護活動に取り組んでいた。

「私は根っからの虫屋(注:虫好きの意味)でね。虫に関われる仕事なら何でもよかったんだよ」

 トンボやカミキリムシの写真が所狭しと貼り付けられた壁を背にして、熊のように恰幅のいい井上氏は豪快に笑った。早速、小野崎氏からは伺えなかった調査の進展状況について、知っているところを伺った。

「自発的には発光していないところまでは分かったそうだけど、当たり前だよね。発光原理からすればさ。あの検証チームは物理の先生とかが混じってるから、そういうレベルから始めないといけなかったんだろうけど。でも、そこから先はよく聞いてないなぁ。結果が芳しくないみたいで」

 ますます宇宙人からのメッセージである可能性が高まってきた訳だが、それについて井上氏はどのように考えているのだろうか。

「その可能性も否定はできないよね。実際、あのホタルを光らせるのに必要な紫外線量を作り出すためには、強力なエネルギーが必要なんだから」


 では本当に宇宙人はいるのだろうか。後日改めて小野崎氏に電話で質問すると、こんな答えが返ってきた。

「現在、我々検証チームは現場近くのサイクロトロン施設の影響が高いと考えております。サイクロトロンの稼働期間が、謎の発光現象が確認された期間におおよそ一致しているのです」

 どうやら宇宙人とのコミュニケーションができるのは、まだまだ先のようである。


問1. この流出したホタルにおいて改変された物質名を、次の選択肢から選べ。(5点)

a) ラクトース

b) β-ガラクトシダーゼ

c) ルシフェリン

d) ルシフェラーゼ


問2. 卵を持った1匹の母ホタルが自然界へ流出したとすると、遺伝子改変ホタルが流出したのは何年頃と予想されるか。(5点)

 ただし以下のように仮定する。

 ①1匹の母ホタルから雌雄が1対1の比率で20匹の子ホタルが生まれる。

 ②全て成虫へ成長したのち、全ての雌ホタルが母ホタルになって産卵する。

 ③全ての成虫は誕生から1年で死亡する。

 

a) 2050年

b) 2051年

c) 2052年

d) 2053年


問3. 文章[B]は、なぜ宇宙人の存在に否定的な結論になったのか。その理由として最も適当なものを次の選択肢から選べ。(5点)

a) 流出した遺伝子改変型ホタルが全て駆除されてしまい、規則的な紫外線の発生源について十分な研究が行われなかったため。

b) 紫外線発生の周期性に着目して解析した結果、太陽系外惑星からのメッセージであることが判明したため。

c) 規則的な紫外線の発生源が、近隣の研究施設であると考えられたため。

d) 遺伝子改変型ホタルが自発的に発光していることが、小野崎氏らによって判明したため。


問4. 2070年7月31日、地球人と宇宙人との交流が始まった。この出来事を何と呼ぶか。次の選択肢から選べ。(5点)

a) カンブリア大爆発

b) ルネサンス

c) プラハの春

d) ファースト・コンタクト


20点未満は追試です。

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