噂
月日が流れ、神の山の民の噂が国王にも伝わった。
国王:「大臣よ、そのほう『神の山の民』というのを知っておるか?」
大臣:「親愛なる国王様に申し上げます。残念ながら聞き及んでおりませぬ。」
国王:「そうか、なんでも手を使わずに物を動かすことができると聴いた。
ぜひ、会ってみたいものだ。」
大臣:「それはそれは、私目もぜひ会ってみたいものです。至急調べさせましょう。」
国王:「それでは、この件は、大臣に任せるとしよう。」
大臣:「お任せください。」
そのとき、傍にいた宮廷祈祷師が声を上げた。
宮廷祈祷師:「お待ちください。」
大臣:「何事だ、、、国王様の御前であるぞ。」
宮廷祈祷師:「恐れながら申し上げます。手を使わずに物を動かす等という者は、
人ならざる者に違いありません。
神は唯一神のみであり、複数存在するならば、それは天使か悪魔に違いありません。
天使ならば容姿で見分けがつきます故、天使の降臨との噂が入るはずでございます。
そのような噂で無い以上、悪魔としか考えられません。
謁見されることは、お控え下さいますよう申し上げます。」
国王:「しかしな、天使が人の姿を借りていることも考えられるのではないか?」
宮廷祈祷師:「そのような人を欺くことを天使がするでしょうか?」
国王:「うむ、確かに、そちの言い分もっともであるな。」
国王:「ならば、こうしよう、神の山の民のこと、そちに任せるとしよう。」
宮廷祈祷師:「仰せのままに。」
宮廷祈祷師は、玉座から下がると、自室へ向かって颯爽と歩いていった。
宮廷祈祷師:(なんとかなったようだ、手を使わずに物を動かすだと。
そんなことができるということは、他にも力を持っていると考えられる。
もし、未来を予知する力を持っていたら、私の立場を脅かすことにも繋がる。
まあ、持っていても、持っていなくても、居なくなってしまえば同じことだ。)
宮廷祈祷師は、自室へ戻ると助手を呼んだ。
宮廷祈祷師:「だれか、いるか?今すぐ占いの準備をしろ。」
助手:「かしこまりました、すぐに準備させていただきます。」
助手は、手際よく占いの準備を始めた。
宮廷祈祷師:(さて、どういう占いの結果にするのが一番よいものか?
人ならざる者がよさそうだな。
最初に会った者達を、人ならざる者を呼び出した罪人として。
こんなもので、よいかな。)
宮廷祈祷師はペンを持つと羊皮紙の上にさらさらと文字を書いていく。
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悪しき者達、闇を通り、人ならざる者をいざなう。
人ならざる者、柱に寄り添う時、柱崩れ闇が天を覆う。
悪しき者達、地に返る時、光柱になりて天を照らす。
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助手:「先生様、準備が整いましてございます。」
宮廷祈祷師:「わかった。」
宮廷祈祷師:(まあ、これでよいだろう。さて形だけの占いをしなければな。)
宮廷祈祷師は、いつもやっている動作を行い。羊皮紙の上に指を滑らせた。
そのとき、大臣がずかずかと部屋に入ってきた。
大臣:「占いの結果はどうなった?」
助手:「お待ち下さい、大臣様。ただいま先生様は、占いの最中でございます。」
大臣が奥を見ると、宮廷祈祷師が指先を紙の上に滑らせているところだった。
大臣:「おお、そうか、しばらく待たせてもらおう。」
宮廷祈祷師:(絶好のタイミングだ、こいつにも一役買ってもらうとするか。)
宮廷祈祷師は、指先を一通りの文字の上を滑らせると、羊皮紙を見て大声で叫んだ。
宮廷祈祷師:「これは一大事!!」
大臣:「何事か?」
宮廷祈祷師:「これはこれは大臣様、そこに御出ででしたか。」
宮廷祈祷師は、さも今気がついたというように言った。
宮廷祈祷師:「これをご覧ください。」
宮廷祈祷師は、羊皮紙を大臣に渡した。
大臣:「いつ見ても、よくわからんな。」
宮廷祈祷師:「柱とは、国王様のこと。置き換えて考えてみて下さい。」
大臣:「ん?柱が崩れるだと、、、むむ、これは、一大事!!」
大臣は、羊皮紙を丸め、右手に掴むと一目散に謁見の間に走っていった。
宮廷祈祷師は、いやそうな顔をしながら、あとに続いた。
大臣:「国王様、大変でございます!!」
国王:「大臣、一体何事だ。」
宮廷祈祷師は、大臣の傍に近寄ると、耳打ちした。
宮廷祈祷師:「大臣様、柱が崩れるは、お話にならないほうがよろしいかと思います。」
大臣は、その言葉を耳にすると、すこし考えた。
大臣:(確かに、これはお耳に入れないほうがよさそうだ。)
大臣:「あの者達は、魔の者に違いありません。すぐにでもあの者達を捕らえる必要があります。」
国王:「そうか、残念だが、そちが其処まで言うのなら、そうなのであろう。
出兵の準備をさせろ。それから、国民の間に混乱が起きないように事前に告知するように。」
大臣:「御意。」
大臣が玉座の前から下がると、宮廷祈祷師がその後に続いた。
宮廷祈祷師:「大臣様、捕らえるのみでは、地に返すことにはなりません。
王国につれてくる自体が寄り添うこととも読み取れます。
もしそうならば、柱が崩れてしまいます。」
大臣:「なるほど、そちは殺せというのだな。」
宮廷祈祷師:「国王様の御身のためでございます。」
大臣:「しかたあるまい。」
後世にも伝わる、異端者狩りの始まりであった。