(File6)リーフの暗号④
整理すると――リーフ(?)の残した暗号は。
【十二、3、H、10、9、0。7、4、2、5、6、3、0、3】
容疑者は以下の5名。
【西村京三郎、男性、1月10日生まれ。趣味:写真撮影】
【島崎鳴海、女性、2月3日生まれ。趣味:裁縫】
【瀬波小春、女性、6月13日生まれ。趣味:料理】
【細川守、男性、10月3日生まれ。趣味:野球】
【岩井香苗、女性、7月4日生まれ。趣味:読書】
それぞれの人物にはリーフがつけたあだ名があり、
・西村→イトウ
・中山→リーフ
そのほか4名には下記のいずれかが該当する。
【にいさん】
【ムイミ】
【とうさん】
「ではまず、一番簡単なネーミングの謎から紐解いていきましょう。なんで私はイトウと呼ばれていたのか、それは誕生日が1月10日だったからです。1と10は語呂合わせでイトウですからね。
中山のリーフも同じ理由です。彼は8月8日生まれで、葉っぱ。葉っぱを英訳するとリーフです。
にいさんは2月3日生まれの島崎さん。ムイミは6月13日生まれの瀬波さん。とうさんは10月3日生まれの細川さんです。
7月4日生まれの岩井さんと被害者はおそらく旧知の仲だったんでしょう。いずれにせよ、中山さんのLINE履歴を調べればわかることです」
ふむふむと、内田警部はうなずいている。
西村はそのまま推理を進めた。
「今度は暗号の解読についてです。これについては予備知識として、被害者は漢字を読み書きできないという事実を念頭におく必要があります」
「その事実は客観的な事実なのかね?」
「ええ。私の名前はこの首かけ用カードに書いてあるので、最初は無難に”西村”と呼ぶはずです。しかし彼はそれをしなかった。なぜなら漢字がわからなかったからです。
もっと確証を得るために、私は受付で名簿を調べましたが、中山さんは平仮名でご自身の名前を記入されていました」
「なるほど」
「そしてものすごく字が汚かったんです。もしかしたら平仮名も満足に書けないのではないか、私はそう思いました」
「そんなバカな」
山村刑事は思わずこぼしてしまった。
「いいえ、あり得ますよ。ちょっと前の脳科学では男性脳は理系、女性脳は文系と考えられていました。数字は覚えられるが、文字は覚えられない。そういうことは十分にあり得る話です」
「もしもその過程が正しいとするなら、どうなるんだ?」
と、内田警部。
「私の推理がすべて正しければ、こうなります」
【十二、3(す)、H、10(て)、9(く)、0(れ)。7(な)、4(し)、2(に)、5(こ)、6(ろ)、3(さ)、0(れ)、3(る)】
【助けてくれ。ナシに殺される】
「なんでそうなるんですか? 語呂合わせでもなんでもない箇所がいくつかありますよ?」
山村刑事の問いにも丁寧に答えていく西村。
「その通りです。よく気が付きましたね。まず漢数字の十二ですが、じっくり見ているとゲシュタルトが崩壊して、平仮名の”た”に見えてくるんです。だから”た”と仮定します。
次の”す”は、3を英語でスリーですよね。だからその頭文字をとって”す”と仮定します。
次の”け”は苦しいですが、Hをものすごく汚く書けばそうなります。数学では英字を使うことがよくあるので、数字として覚えたのでしょう。
この調子で解読していけば、後はわかりますよね。
そして最後の”る”ですが、3をよく見ていると、平仮名の”ろ”に見えますよね。ですが、通して読んでみると、”ろ”でないことはすぐにわかります。よって”ろ”に近い字形の”る”を当てはめたんです。
つまり犯人はナシ。7月4日生まれの岩井さんです。
「しかしそれでは証拠がないのではないか?」
「いいえ、証拠ならあります」
胸を張って西村は宣言した。