(File4)リーフの暗号②
「ごめんね、西村くん。トイレに行ってくるね」
顔を赤くしながら島崎は席を外した。
「はい。ごゆっくりどうぞ」
返答しながら、西村は思考する。
中山がリーフと名乗っている理由と。
西村がイトウと呼ばれた理由を。
たとえ中山のあだ名がリーフだとしても。
お見合いの席でそれを述べるとは思えない。
それに。
西村をどう間違えれば、イトウになるのか。
わからない。
まったくわからない。
これはどういうことなんだ?
「ぐぎゅるるる」
西村の腹が、風雲急を告げる。
――下痢だ。
便器に座りながら、スマートフォンを操作する西村。
LINEで友だちの欄を確認すると――
積極的な島崎。
消極的な瀬波。
マッチョの細川。
華奢な岩井。
四則演算の中山。
この5名が追加されていた。
「ブブッ……」
スマホが振動した。だれかがトークをしてきたのだ。
さっそく確認してみる。
中山からだった。
【十二、3、H、10、9、0。7、4、2、5、6、3、0、3】
「はあ?」
西村はすっとんきょうな声を上げた。
「なんだ、この文章……」
立食パーティーのメニューは、肉や魚などのメインディッシュから。
ケーキやフルーツなどのスイーツ系へと移行していた。
「遅い」
西村はLINEで送られてきた謎の暗号文の意味を。
発信元のリーフにたずねようと待っているのだが。
彼はなかなかトイレから戻って来なかった。
もしも西村がこの段階で。
中山がリーフと名乗った理由と、西村をイトウと呼んだ理由がわかっていれば。
LINEのメッセージはすぐに解けるはずだったのだが。
残念ながらそうはいかなかった。
「島崎さん、すいません。トイレに行ってきます」
西村は言った。
リーフを探すのが目的だった。
体育館内はおろか、トイレや洗面所、休憩室や喫煙所にもリーフの姿はなく、受付に訊いても途中退席者はまだ出ていないとのことだった。
もしかして上の階にでも行ったのか?
このビルには階段やエスカレーターがない。
西村はエレベーターを呼んだ。受付からはちょうど死角の位置にあった。
階数表示ボタンは1F~6Fまである。
西村は2Fを押した。
2階は照明が灯されていなかった。
すくなくとも今、この時点では使われてはいないようだ。
「ぐぎゅるるる」
また下痢だ。
西村はトイレへと駆け込んだ。
「なっ……」
そこで彼は、衝撃を受けることになる。
便所の床で。
うつぶせになって倒れている中山を発見したからだ。
そしてリーフの手にはスマートフォンが握られていた。
首には索状痕。
他殺と見て間違いなさそうだ。
問題なのはリーフからのLINEの暗号文である。
これはリーフ本人が、だれかに襲われている際に打ったものなのか。それとも犯行後に犯人が自ら打ったものなのか。
はたまた事件とは無関係なのか。
もしも前者だとするならば、犯人がわかるはずだし。
後者の2つだとしたらまったくの無意味。
いったいどっちだ?
そういえばリーフは西村を、”イトウ”と呼んでいた。
もしかするとそのまま”イトウ”で登録されているかもしれない。
だったらほかのメンバーはどんな名前で登録されているのだろうか?
ハッキリ言って、この暗号は難しいです。
頭をもうひとひねりしてください。