(File39)鎌田正信の殺意⑧
視界がだんだんと赤黒く染まってきて、島崎鳴海は目を閉じた。
しばらく経ってから開閉してみる。
すると、もはやまぶたの裏側を見ているのか、それとも外の景色を見ているのかわからないくらいに、視覚情報は断絶されてしまっていた。耳もほとんど機能していない。身体の感覚もない。音も色も温度も匂いも何も感じない。永遠に虚無が続いている。
それでも西村さんは、大声で私の名前を呼び掛けてくれているんだろうな。
そう思う。思考力だけは、まだ生きている。
「警察官という職業は、世の中の人が思っている以上に危険な職業なんですよ」
明治神宮での西村の言葉がよみがえる。
「犯人を組み敷くのが危険だとか、ヤクザの抗争に巻き込まれるとか、そういう大きな事件に当たるのはごく稀ですが」
……ごく稀なんだ。
でも、良かった。南拓実くんを守ることができて。
「いつになるかはわかりませんが、大切な人を守れるくらいに強くなったら、私から声を掛けます」
ねえ、西村くん。
もしも私が死んだら、あなたは悲しむかな。
ねえ、西村くん。
私はあなたにとって、立派な補佐役が務まったかな?
もっといっぱいあなたと話したかった。
もっといっぱいあなたに会いたかった。
ねえ、あなたの大切な人ってだれ?
私以外の人かな?
もしもそうだとしたら私のことなんかすぐに忘れてね。
私は、主役にはなれないのだから。
ああ、せめて最期くらい。
最期くらいは、西村くんの推理が聞きたかったな。
今までまでありがとう。
そして、サヨウナラ。




