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鉄道警察隊、西村のスイリ。  作者: オリンポス
【11回目のスイリ】
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(File38)鎌田正信の殺意⑦

 島崎鳴海は背中から発生する、ずきんずきん、と脈打つような痛みに耐えていた。

 耳元で、西村が何かを叫んでいるが、列車の揺れが大きく頭に響き、音の波長をとらえることができない。

 全身から一気に血の気が引いていく。

 手や足がどんどんと冷たくなっていくのを感じる。指先の感覚神経がどの程度残っているのかもわからないほど、急速に、それは起きた。

 意識は痛みによりときどき覚醒するものの、順調に遠ざかっていく。なんだかすごく眠たい。

 車内の床が体温と溶け合って、ともすれば列車内で倒れていることを忘れて、揺籃ようらんの赤子のように眠ってしまいそうだった。


「島崎さん。島崎さん!」

 悲痛な叫びを子守歌にして、島崎鳴海は走馬燈を見ていた。

 死ぬ前に見る人生のダイジェスト映像は、あまり気持ちのいいものではなかった。


 彼女は、敗戦後の目覚ましい産業革命で名を馳せた、いわゆる名家と呼ばれる家の出身だった。

 その教育は厳しく、朝から晩まで、習い事をさせられていた記憶しかない。

 放課後になると、友人が井戸端会議に花を咲かせるのを尻目に塾へと通うのが常だった。


「鳴海。これもあなたのためなのよ」

 母親は、彼女が遊びたいと泣きついたときに、よくこの文句を口にした。

「これからはねえ、女も社会進出する時代なの。だから立派な()()役が務まるように、たくさんお勉強しなくちゃいけないのよ。わかった?」


「ねえお母さん。なんで()()なの?」

 彼女はあるときそう尋ねた。

「男の子よりも、私の方がいっぱい優れているよ。この前だって体育でね。男の子でもできなかった逆上がりをやって先生に褒められたんだ」

 先生に褒められた話をするとお母さんは喜ぶ。

 経験的にそれを学び取っていた彼女は、悪気もなくそう言った。


「ねえ、鳴海。男の子よりも目立っちゃダメよ!」

 しかしこのときは、なぜか叱られたのだ。

「女が男よりも活躍するなんて、はしたないわ!」


「え、なんでダメなの? 世界的にも女性のリーダーはたくさんいるじゃない。韓国の朴槿恵パク・クネ大統領やイギリスのメイ首相だって国のトップだったし、女子教育の先駆者である津田梅子さんや、女性の地位向上のために尽力した平塚らいてうさんだって、今でも高い評価を受けているわ。なんでダメなの?」


「日本の社会には男を立てる文化があるの。今でこそ"男女平等"とか、"ジェンダーレス"なんていう言葉が世間に根付いているけど、それは間違いだと思うわ。男に尽くすのが、女の幸せなのよ」

 彼女は初めて、母親の言葉が理解できなかった。

 気持ち悪いとさえ思ってしまった。

「なんでダメなのよ。意味がわからない。能力のある人が台頭して、みんなを引っ張っていけば、きっといい世の中になる」


 この日はずっと侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が続いた。

 しかし家庭の方針により、このままでは勘当されかねないと察した彼女は、「私が間違っていました」と心を改めることなく謝罪をして、これからは心を殺して、何事にも波風を立てずに、無難にやり過ごそうと決めた。


 それからは退屈な日々が続いた。

 何をやっても面白くない。

 これといった趣味もなく、生きている理由もわからなくなっていた。


「能ある鷹は爪を隠すなんて言うけれど、いつまでも爪を出さない鷹はバカだ」

 そう自身を嘲りながら婚活パーティに参加したときに、西村京三郎と出会った。

 彼は自分勝手な性格で、気の向くまま、思い付くまま、自由奔放な態度で参加していた。

「この人なら、私をどこかに連れ出してくれるかもしれない」

 島崎鳴海は本能的にそう感じて、西村に声を掛けたのだった。

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