(File32)鎌田正信の殺意①
今回の話は、文体・雰囲気が一変します。
サスペンスが苦手な方はご注意ください!
ミステリーツアーの優勝者が"南拓実"という少年であることを知った鎌田正信は落胆した。
しかも彼は小学生だという。
どうして両親の庇護下で育てられているだけの人間が、私のような中年サラリーマンを出し抜けるのか不思議で仕方がなかったが、これで決心がついたと割り切るべきだろう。
鎌田正信はそうスマートフォンに耳を傾ける。
そこには甥と兄の会話が機械音声で流れていた。
「私の誕生日プレゼントを、ちゃんと使っているようだな」
鎌田正信は、遠隔操作できるように細工したキッズケータイを甥にプレゼントしたのだ。
だから甥の行動は手に取るようにわかった。
それだけではない。キッズケータイにはGPSで保護者に居場所を届けるサービスが施されていることが多い。鎌田も漏れなくそのサービスを受けていた。
その理由は、甥を守るためではなく、殺すためなのだが。
ともかく、位置情報と音声は、常に鎌田の掌中にあった。
心理学用語でスティンザー効果というものがある。
特に会議をする際に用いられる技術で、対立意見やとことん話し合いたい場合には正面に座った方がよく、味方になりたい人がいれば横に座り、良好な関係を保ちたい場合は斜めに座るのがよいといった具合の意味合いだ。確かそうだったと思う。
鎌田正信は、列車に揺られながらそう考える。
真正面には、長椅子に腰掛けている兄と甥がいた。
鎌田と彼の兄は意見が対立している。
だが、それをとことん話し合うつもりは、少なくとも鎌田正信にはなかった。
だからこれは心理的な距離感を表しているのだと彼は思っている。
余命わずかな兄の遺産を、ほぼほぼ全て甥がもらい受けることに対しては、「ああ、自分は家族としてすら認められていないんだな」と悲しい気持ちで受け止めた。だから、今回の殺人を計画したのである。遺産相続人を亡き者にして、兄の視界に自分を入れてやるために。
そして決行するにいたった動機は"南拓実"である。
小学生のクソガキが、大人も参加するミステリーツアーで優勝したばっかりに、このような事態が引き起こされてしまったのだ。彼も同罪だ。
この謀殺が終了したならば、今度はそのクソガキを抹殺してやる。
「ねえ、西村さん。この暗号は僕には解けないって言ってませんでしたっけ?」
ロングシートの横で子どもがはしゃいでいる。
殺人に移る前はデリケートな時間だから、どうしても耳目が集中してしまう。
「ええ、言いましたよ。今のあなたでは解けないとね。ですが警備員さんに対して、謙虚に教えを請うていたそうじゃないですか。それならば今回の優勝も頷けます」
その男性はなぜか小学生にも敬語で話しながら、
「おめでとうございます。南拓実くん」と言った。
ふんっと少年が鼻を鳴らすのと同時に、鎌田正信は血が熱くなるのを感じた。
「お前がそうか……」憎しみを込めた呟きと同時に、鎌田は用意していたスイッチを押した。




