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鉄道警察隊、西村のスイリ。  作者: オリンポス
【10回目のスイリ】
33/46

(File31)最終関門⑤

「どうやらここは違ったみたいですね」

 明治神宮の木造建築の本殿を眺めながら、西村はため息を吐く。

「御本殿まで来て、ご利益もあったことですし、それでは出直すことにしましょう」

 お賽銭を入れて、参拝まで済ませた西村は手帳を開く。


「ちょっと待って」

 しかし、島崎はその背中を引き留めた。

「ねえ、せっかくここまで来たんだし、恋みくじやって行かない?」


「え、恋みくじですか」

 西村は苦笑しつつも、

「わかりました。引きましょう」

 そう窓口の神主さんにお金を払って、おみくじの入った棚を開ける。棚には1~99までの番号が振ってあった。丸まったおみくじを開くと、【大吉】星座:射手座がよい。血液型:AB型がよい。干支:辰年生まれがよい。方位:西か東がよい。結婚:もう少し待ちなさい。との文言が書かれていた。


「ねえ、西村くん」

 それを見て、島崎は低い声を出す。

「西村くんはさ。結婚、とかって、どう考えているの?」


「え、どうしたんですか。藪から棒に!」

「ずっと気になってたんだ。婚活パーティのときから」

 島崎は神妙な面持ちになる。

 明治神宮は恋愛のパワースポットでもあるから、恋の話題になるのは自然な流れだった。


「結婚ですか。正直に言いますが、それは視野に入れていません」

「そう……だよね」

「私には転勤がありますし、趣味であちこち飛び回る根無し草です。そんな私が結婚となると、奥さんに多大な迷惑が掛かってしまいます」

「それでもいいよっていう奥さんだったら? それならどう?」

 島崎はここぞとばかりに畳みかける。

 西村と恋の話をするのは初めてだった。


「いいですか、島崎さん」

 西村は諭すように言う。

「警察官という職業は、世の中の人が思っている以上に危険な職業なんです」

 ふっと目線を逸らすと、恋のまじないを祈る絵馬が、風に躍っていた。


「犯人を組み敷くのが危険だとか、ヤクザの抗争に巻き込まれるとか、そういう大きな事件ヤマに当たるのはごく稀ですが、そうではなくて、例えば不起訴処分になった容疑者だったりとか、例えば逮捕・拘留した容疑者だったりとか、理由はさまざまですが、そういった方々にはひどい逆恨みをされていることだってあります」

 若いカップルが集まるこの神社に、このムードは、いかにも不釣り合いな光景だろう。

「警察官にとっての日常は、常に危険と隣り合わせなんですよ」

 いつしか開き始めた2人の間に、いじわるな風が吹く。

 どうせならうっそうとした感情も吹き飛ばしてくれよと西村は目を細めた。


「それでもさ。私はそれは逃げだと思うよ」

 島崎はぼそっと呟いた。

「夫婦生活って、そういう苦悩とか苦難を、いっしょに共有して、解決していくものだと思うんだ。旦那さんが危険な職業をやっているなら、私もそれに負けないくらい強い女になる」

 一蓮托生だよ。

 その言葉に対して口を開きかけた西村だが、呑み込んで下を向くと、

「わかりました。私もそれに負けないくらい強い男になります」

 そう宣言した。

「いつになるかはわかりませんが、大切な人を守れるくらいに強くなったら、私から声を掛けます。それでもまだ島崎さんにその気持ちがあるなら、そのときは結婚しましょう!」


「うん、そうだね。西村くん」

 島崎は悲しそうに笑うと、

「今夜は惜しくも、満月じゃないからね」

 じゃあ行こっか。そう鳥居を抜けて駆けだした。

 それと同時に今大会の優勝者がスマートフォンに通知されていた。

ミステリーツアー編はこれで完結です!

あと明治神宮に恋みくじはありません。

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