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鉄道警察隊、西村のスイリ。  作者: オリンポス
【10回目のスイリ】
32/46

(File30)最終関門④

「いよいよゴールですね。島崎さん」

「う、うん。そうだね。西村くん」

 西村と島崎は渋谷駅構内を進んでいく。

 ゴールデンウィーク中は人混みが多く、押し流されないように歩くのは一苦労だった。

 ここは満員電車よりも満員電車ですねと言いながら、自動改札をICカードで通過する。


「島崎さん。もし優勝したら、100万円、でしたっけ、それは何に使いますか?」

「それはまだ決まってないかな」

「そうですよね。私たちがほしいのは100万円じゃなくて」

 西村はそう苦笑してから続ける。

「大切な人と過ごす、この時間ですからね」


「え。西村くん。それって」

 島崎はあわてて訊き返すが、そこにはすでに西村の姿がなかった。


「どうかされましたか?」


 彼は、外国人女性に話しかけていた。

 その女性はスーツケースの車輪をカラカラ鳴らして右往左往しているところだった。

 長い金色の髪の毛をあっちへこっちへ振り回して、海のように青く澄んだ瞳は落ち着きなく揺れている。雪のように白い、透き通った肌は焦りを隠してきれてはいなかった。


「目を離したすきに、子どもがいなくなってしまったんです。名前はソフィアと言います」

 そう()()()()()で述べる彼女に、西村も同じく()()()()()で返す。

「そうですか。私は日本の国家警察です。必ずあなたの子どもを見付けます」

 さあ、こちらへ。

 そうみどりの窓口に案内してから、JR東日本の社員や私有鉄道の社員に電話をかけていく。


「はい。ソフィアという名前の女の子です。もし見かけたら私に一報をよろしくお願いします」

 西村は考えられる限りの各停車駅に電話をかけて、少女の保護を要請していた。

「島崎さん!」

 そして彼は言う。

「私の推理が正しければ、目的地はおそらく明治神宮です。島崎さんだけでも向かってください」


「え、でも」

 島崎鳴海はうろたえつつも、

「みどりの窓口に案内してあげたんだし、西村くんはそこまでしなくてもいいんじゃないかな。それにさ、あれだけ東川さんに勝ちたいって言ってたじゃん。早くいかないと間に合わないよ」

 そうなのだ。べつに事件が起こったわけではない。

 これが誘拐や殺人事件に関与しているなら話は別だが、そういう事情でもないのだ。


 西村が出る幕ではない。

 しかし――


「島崎さん」

 西村は言った。

「私は日本という国家の奉仕者です」

 そして続ける。

「この国に住んでいる方々、全員が安心して暮らせる世の中にするのが私の理想です。それはただの公務員である私にできることではありません。警察や消防、自衛隊や市役所。それぞれが相互協力して平和な社会は成り立っているのです。今目の前に悲しんでいる人がいるのに、公務員がそれを見逃すことはできませんよ」


「うん、そうだよね。だけど一体どこに行っちゃったんだろ」

 島崎が表情をくもらせていると、国有鉄道の制服を着た女性が、みどりの窓口の自動ドアを開けて入ってきた。流暢にフランス語を操りながら、少女と会話をしている。


「メール!(お母さん)」

 その少女は、母親と同じ金髪と、澄んだ青色の瞳を輝かせながら、スーツケースを持つ女性の胸元へと飛び込んだ。


「メール。メール」

 幼い碧眼にいっぱいの涙をためながら少女は泣き叫ぶ。


「東京オリンピックの開催が火付け役となったのか、訪日外国人は、年々増加傾向にあります。これからはさらに世界の注目は集まります。なのでテロへの対策はもちろんですが、犯罪のない平和な世の中を築きたいものですね」

 西村はそう腕時計に目線を戻してから、

「島崎さん、明治神宮へ急ぎましょう」と言った。

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