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鉄道警察隊、西村のスイリ。  作者: オリンポス
【10回目のスイリ】
31/46

(File29)最終関門③

「アイラブユー。適齢期に結婚しよう。J.Y」

 取り残された南拓実はまだ唸っていた。


「アイラブユー」

 これは有名な青春映画のセリフだろう。アイラブユーは告白のシーンで間違いないはずだから、何かの舞台で使われたセリフだとすればしっくりくる。そして適齢期というのは、もしもその映画が邦画で、テーマが学生恋愛なのだとしたら、男子は満18歳以上、女子は満16歳以上でなければ結婚できないから、そうした恋の障壁を示唆している文言であると仮説が立てられる。


 しかし、本当にそうだろうか。

 本当にこんな当て推量で大丈夫なのだろうか。

 それに「J.Y」のこともほとんど考慮していない。


「今のあなたでは解読できませんよ」


 西村という男性の言う通りの結果になった。

 今の僕では解読できないと、あの男は言った。

 そう考えたのにはなにか理由があるはずだ。

 僕はなにか重大な見落としをしていたんじゃないのか。


 それはもしかしたら、夏目漱石という文豪に関する知識なのかもしれない。


「あの、すいません」

 南拓実はおずおずと頭を下げて、等身大パネルの横に立っている警備員に聞いた。

「夏目漱石って、告白のときに、アイラブユーって言ったんですか?」


「ん? どうしたのかな?」

「いや、ちょっと。自由研究のテーマにしようと思って……」

 膝を曲げて、同じ目線の高さで話してくれる警備員に恥ずかしさを覚えて、南拓実は声をどもらせた。

「告白のセリフまでは知らないけど、アイラブユーを"月が綺麗ですね"って和訳したのは有名な話だよ」


 その言葉に、南拓実の電気信号は反応した。

 脳内に、シナプスがつながった感覚がある。

 そうか、そういうことだったのか。


 アイラブユー。適齢期に結婚しよう。

 これは、月が綺麗ですね。適齢期に結婚しましょう。

 という文章に置き換えて考える必要があったのだ。


 次に適齢期というのは、月齢を表すと考えられる。

 月齢とは、新月の時を"0"として計算し、満月のときの月齢は"15"の近似値になる。

 今月の月齢計算をすると、満月になるのは20日だ。


 そしてJYというのは山手線の駅ナンバリング記号だ。

 今回の暗号は、前回の暗号形式を踏襲する傾向にあるから、それでほとんど間違いはないはずだ。

 山手線で20のナンバリングが当てられている駅は渋谷駅だ。


 だから渋谷駅もしくはその周辺が正解だろう。

「ん、待てよ!」

 南拓実は思考を停止させずに、脳の回転を続ける。

 バスを降りる際にバスガイドはこう言っていた。


「東京駅の八重洲口にご到着しました。みなさまくれぐれもお忘れものには注意してください。何事も最初と最後が肝心ですからね」


 何事も最初と最後が肝心。

 最初というのは、最初の暗号ということだろうか。


「乙亥、Ar、丙戌、S、丙戌、Mn、甲戌、Al、辛巳、S、癸巳、Fe、丙子、Fe、甲申、C、丙子、Fe、丙子、Mg、甲戌、Ca、庚辰、C、甲申、Fe」


 いやいや、これではなんのヒントにもならない。

 他にもなにかあったはずだ。


 渋谷ヒカリエ(渋谷駅)

 ラフォーレ原宿(原宿駅)

 恵比寿ガーデンプレイス(恵比寿駅)

 ISI外語カレッジ(池袋駅)

 地域文化浅草総合化(浅草駅)

 上野動物園(上野駅)

 湯島聖堂(御茶ノ水駅)

 気象科学館(竹橋駅)

 東京中央郵便局(東京駅)

 数奇屋橋公園(銀座駅)

 汐留シオサイト(汐留駅)

 国立新美術館(乃木坂駅)

 アクアシティお台場(台場駅)


 たしかこんな感じのことが書いてあった。

 もしも渋谷駅が正解なのだとすれば、最終目的地は。

「渋谷ヒカリエだ!」

 彼はそう走り出した。

 バスに乗って最寄りの駅へと急いだ。


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