(File27)最終関門①
漱石山房記念館は緩やかな上り坂の途中にあった。
西村一行はタクシー運転手に礼を述べてから建物内へと歩みを進める。
「そこにいる警備員さんに話を聞けば、次の暗号文が提示されるはずです」
西村は、背の低い漱石の等身大パネルの隣に立っている警備員を一瞥した。
「私が代表して聞いてきますね」
「ふぉっふぉっふぉ。思ったよりも早かったな、若き者よ」
そのパネルの後方から頭頂部の禿げあがった男性が姿を現した。
「そちらこそ、思ったよりも遅かったですね。北方さん、でしたっけ?」
南拓実は口角を上げて挑発を仕掛ける。
「隣のカフェソウセキで休憩がてら、孫にみやげを買っていたんじゃ」
そう牛乳色のビニール袋をかかげて見せる老人。
「ほれ、漱石の絵ハガキに、ネコがプリントされたクリアファイル、それにブックカバーも買うたわ!」
「はあ? そんなの興味ねーし!」
対する南拓実少年は表情を歪めた。
「吾輩は猫であるを読んだけど、つまんなかったし」
「まあまあ、感想は人それぞれでしょうが……」
西村は場をとりなしてから、
「次の暗号文を聞いてきましたよ。南拓実くん」
「おお、そうか。だったらすぐに教えてくれ!」
南拓実は目を輝かせるが、
「いいですけど、今のあなたでは解読できませんよ」
西村は辛辣に言い放った。
「はあ、ふざけんなよ! いいから教えろよ!」
「ああ、西村っち。俺にも早く教えてくれ」
「そうだよ。西村くん」
「ええ、わかりました。次の暗号が最終問題になるそうです」
西村は言った。
「アイラブユー。適齢期に結婚しよう。J.Y」




