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鉄道警察隊、西村のスイリ。  作者: オリンポス
【9回目のスイリ】
28/46

(File26)第二関門③

「とりあえず通常の解読方法と、アトバシュ暗号の二種類を使ってみました」

 そう手帳を見せる西村。

 上段が通常で、下段が変則だ。

「e,a,k,g,m,e,a,k,w,c,a,k,s,f,f,t,g,m,e,a,c,a,f,w,e,a,f,f,c,s,f,f」

「v,z,p,t,n,v,z,p,d,x,z,p,h,u,u,g,t,n,v,z,x,z,u,d,v,z,u,u,x,h,u,u」


「これは訳がわからないな」

「ええ、今回ばっかりはお手上げですね」

「うーん、西村くん……」

 島崎の言葉の接ぎ穂を、

「どうやらお困りのようですね」

 南拓実が刈り取った。

 いつの間に現れたのだろうかと気にする暇も与えずに、彼は憎まれ口を叩く。


「お年寄りの凝り固まった脳みそでは難しいとは思いますが、ここであなた方に恩を売っておこうと思います」上から目線の少年の物言いに対して、東川は「うるさい!」と一喝した。


「そう邪険にしないでくださいよ」

 彼は“新橋駅”と書かれた駅の案内板を示す。

「浅草からここまで来るのに、停車駅はいくつありましたか?」


「8駅です」

 西村は即答する。

「そうですね。だから8桁ずらして読むのが、今回の正解なんですよ」

 南拓実はリュックサックからノートブックを取り出して、解読済みの暗号を見せつける。

「ローマ字読みをすると、“みそうみせきさんぼうみきねみんかん”となります。おそらくここが目的地ですよ」


「みそうみせき? 西村っちそんな場所があるのか?」

 東川は首を傾げる。

 西村も眉をひそめていると、

「漱石山房記念館」

 そう島崎鳴海は高い声を出した。

「正解です」

 南拓実は手を叩いて祝福する。


「どういうことですか?」

 西村の問いに、島崎はゆっくりと答えた。

「まずは暗号文を見て!」そう単駅貼りポスターを指す。「そこには“緑色”の文字で暗号が書かれているでしょ。だから、“み”を“とった”んだよ!」


「なるほど。そういうことでしたか」

 西村は自動改札を通りすぎると、

「でもなんで南少年は私たちを助けてくれたんですか? ライバルを増やしてもいいことはないでしょう」

 不思議そうに南拓実を見やる。

「べつに理由なんてないよ。ただ僕は一番になりたいだけなんだ」


「だったらこんなところで油を売っている暇はないんじゃないか? それこそ北方健二とかいうじいさんに追い抜かれてしまうぞ」

 東川の発言に、南少年は被せるように言った。

「もう追い抜かれていますよ。彼はバスで向かっているはずですからね。僕も一歩遅かった。だけど、タクシーならまだ間に合います。さあ、せっかく知恵を貸してあげたんですから、僕のことをタクシーに同乗させてください」


「ふざけるな!」

 東川はそう一蹴するが、

「いいですよ」

 西村は承諾した。

「これで貸し借りはなしですね」

 そう笑顔を見せる。


「おいおい。いいのかよ、西村っち」

 東川は怪訝な表情を崩さない。

「ええ、構いませんよ。私は優勝には興味がありませんから」

 西村は続ける。

「それに東川さん。私はあなたに勝てればそれでいいんです」

 島崎はケータイ電話でタクシーの迎車をお願いしていた。

 西村一行は駅の出口へと向かっている。

「次回以降の謎解きからは、バディを解散しませんか?」

 東川はその発言にしばらく当惑したものの、こくりと頷いて見せた。

「いいぜ、西村っち。ライバルがいないと盛り上がらないからな!」

 そう歯を剥き出しにして笑う。

「あのー、一応僕もいるんですけど……」

 南拓実の言葉は無視して、彼らは全員でタクシーに乗り込んだ。

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