(File21)第一関門①
「ええ。ですから、ここから先は関係者以外立ち入り禁止です」
「そんなはずはありません。旅行会社からなにか聞かされていませんか?」
西村は警備員らしき男に質問する。
「いいえ、そもそもここは旅行会社と提携をしたこともないのです。失礼ですが、なにか勘違いをされているのではありませんか?」
「しかし、この暗号を解読すると所在地はここになるのです」
「そう言われましても、こちらとしてもお通しするわけにはいきませんので」
丁重に頭を下げる警備員を困らせるわけにもいかず、
「わかりました。失礼します」
西村はそうしぶしぶ建物をあとにした。
「すいません。違いました」
そう外で待機をしていた東川と島崎に頭を下げる。
「警備員の方と押し問答になったのですが、ご存じないそうです」
地域文化浅草総合科はテナントで貸し出されているビルの一角にあった。
だがこれといった情報も得られなかった。
推理の方向性は合っていたはずなのに、肩透かしを食らった気分だ。
「そっか、残念だったね。西村くん」
島崎がなぐさめの言葉を投げると、地面の底から地鳴りのような音がした。
地下鉄が走っているのだ。
東京は天にも到達する巨大なタワーだけでなく、地下にも交通機関がある。
「それにしても日本の列車って優秀だよな、西村っち」
東川は感嘆したように息を吐く。
「最初から最後まで、ダイヤの乱れがほとんどないんだからさ。外国の鉄道はここまで時間に正確じゃないらしいぜ」
「それは常々思っていますよ」
頭を抱えながら、隅田川方面と雷門方面を右往左往する西村。
最初から最後までダイヤに乱れがないのもそうだが、もしも遅延してしまっても、その遅れは途中の駅で取り戻しているのだ。
だからもしもここで出遅れてしまっても、その遅れはツアーの終盤までに取り戻せば……。
「ん?」
最初と最後。
地下鉄。
地域文化浅草総合科。
「そういうことでしたか。確かに目的地はここではありませんね」
西村は思い切り手を叩いた。
「気付いてしまえばなんということもない。さもありなんといった感じです」




