(File19)予備試験③
「乙亥、Ar、丙戌、S、丙戌、Mn、甲戌、Al、辛巳、S、癸巳、Fe、丙子、Fe、甲申、C、丙子、Fe、丙子、Mg、甲戌、Ca、庚辰、C、甲申、Fe」
この暗号を読み解くと、
渋谷ヒカリエ(渋谷駅)
ラフォーレ原宿(原宿駅)
恵比寿ガーデンプレイス(恵比寿駅)
ISI外語カレッジ(池袋駅)
地域文化浅草総合化(浅草駅)
上野動物園(上野駅)
湯島聖堂(御茶ノ水駅)
気象科学館(竹橋駅)
東京中央郵便局(東京駅)
数奇屋橋公園(銀座駅)
汐留シオサイト(汐留駅)
国立新美術館(乃木坂駅)
アクアシティお台場(台場駅)
これらのいずれかが該当するのだ。わからない。括弧内には駅名が書いてある。ならば鉄道のカルトクイズなのだろうか。いやいや、括弧内はただの最寄り駅でしかないし、問題文とは直接関係がないような気もするではないか。
ならば何だ? この暗号はどう解くのが正解なんだ?
情報が多すぎる。
処理しきれない情報は、思考能力を遅滞させる。
列車に遅延は許されないのに、特急列車は鈍行列車になりさがってしまう。こんなことではまた東川州に出し抜かれる。
「十干十二支」
ぼそりと東川が言った。
「え、どうしたの?」
島崎はその言葉を逃がさずに拾う。
「あの漢字の配列は、十干十二支を表しています。間違いありません!」やや興奮した面持ちで東川はサングラスをシャツの胸元にかけた。「平成元年は己巳、平成2年は庚午、平成3年は辛未といった具合で数字に変換できる。そしてアルファベットが26文字しかないように、この暗号文の数字も、平成26年までしか使われていない。平成から令和に、元号が変わったこの時期に、このクイズならば、意表も突けます!」
「それなら私も、アルファベットの意味ならわかったよ!」
島崎はそう親指を立てた。
「水平リーベ、ぼくのふね、ななまがり、シップスクラークか! 原子記号だよね」
「そう。原子記号の方も鉄(Fe)で終わっている。鉄の原子番号は26番目ですが、27番目の原子記号であるコバルトの表記はどこにもありません。よって変換すべき文字はアルファベットというわけです」
つまり、とメモ用紙に目を落とし、
「この文字列に以上の推理結果を代入すれば、きっと答えは出るはずです!」
東川はそう息巻いた。
バスの停車するタイミングに合わせてペンを動かしている。
「うーん」
いや、それはどうだろうか。
西村は順当に考察を進めていく2人を黙って見ていた。
たぶん推理はその路線で合っているし、代入していけば正解の近似値は導き出せるかもしれない。
でも先の老人、北方謙二が言っていた「暗号が解けた後に補足で必要になる知識」というものが引っ掛かっているのだ。いわゆる旧約聖書がどうのこうのと言っていた。気にしすぎだろうか。




