(File18)予備試験②
「これは難しい問題だな、西村っち!」
東川は不敵に口角を上げる。
「最近の暗号文は、漢字やアルファベット、数字やひらがな等、何かべつの文字に変換して考えさせる傾向にあります。今回の設問もその例にもれないとしたら、どんな文字に変換していくかが鍵になりそうですね」
そう五十音表や英語を書き並べて、「あ」と「a」に1、「い」と「b」に2といった要領で数字を振っていく西村。紙やペンについては前座席の背面についている網に入っていた。
折り畳みテーブルもしつらえてあるため、筆記する環境には適していた。
「しかし、英語は26文字に対して、ひらがなは50文字だぜ。ただ数字に変換すればいいってわけじゃないと思うけどな」
東川はそう茶々を入れる。その額にシワを刻みながら。
「なんなんだ、このヘンテコな問題は……」
「最初に、神は天と地を創ったって言ってたけど、それはヒントじゃないのかな?」
島崎鳴海は首を傾げながら言う。
「私たちを混乱させるためのトラップでしょう。おそらく」
西村はペンを止めて腕を組む。
「ふぉっふぉっふぉ。最近の若者は旧約聖書も知らんのか」
後部座席からバカにするような笑いが飛んできた。
振り返ると、頭頂部が禿げ上がり、シャンプーハットのように側面にだけ髪の毛を生やした男性が、黄ばんだ歯を見せながら笑っているところだった。
「旧約聖書の冒頭じゃよ。最近の若者は無宗教じゃな」
「は、はあ」とあいづちを打つ西村。
無宗教なのではなく、多神教なのだが、それは言わないでおこうと思った。
「まあこれは暗号が解けた後に、補足で必要になる知識じゃからな。このまま解けないようなら考えるだけ時間の無駄じゃよ」
「時間の無駄? ということはおじいさんは答えがわかったんですか?」
「当たり前だのクラッカー。もちのろんじゃ! この北方謙二に解けない謎はない!」
老人はふんっと鼻をふくらませた。
西村は、「そんなに早く解ける問題なのか?」と思いつつ、暗号の解読方法や文字列の法則性に頭を悩ませる。
あるはずなのだ、突破口は!
漢字とアルファベットが無差別に並んでいるように見えるが、何かしらの法則性があるはずなのだ。よく考えれば漢字も限定的な範囲でしか使用されていないし、アルファベットについても何か思い出せそうな気がするのだが、思考がうまくまとまらない。




