番外・毒のない毒殺!?(前)
誕生日記念作品なので、ファイリングしません。
「本日は【ら~めん・食べちゃっ亭】の開店記念にお越しくださり、誠にありがとうございます。僭越ながら、当店自慢の逸品をご用意させていただきます」
店長の畑麦面は、カウンター席に並んだ客を一瞥しながら、満足そうに口を開いた。
「いやいや。こうして畑麦くんの開業記念に立ち会えて、ぼくは光栄だよ」
ラーメン評論家の石狩は目を細めて笑った。
「今度この店に取材をさせていただく照日だ。おいしいラーメンを期待しているよ」
グルメレポーターの照日は店内に充満した、スープの香りにすっかり心を奪われている様子だった。
「これからはここのラーメン屋も、うちのライバル店となるからな。視察に来てやったわ! こわっぱが」
初老の男性はつばを飛ばしながら、ちゃっかり店の宣伝まで行った。
「替え玉が無料と聞いたので、食べに来ました」
スーツを着たサラリーマン風の男性は、遠慮がちに目を伏せている。
「おいしかったら、ブログに載せますね」
鉄道警察隊の西村は。
空腹を訴えるおなかをさすりながら、厨房を注視していた。
畑麦が作っているのは、とんこつラーメンのようだ。
と、西村は考えた。
この香りは、とんこつベースで出汁をとっている証拠だ。
さらにとんこつスープに焦がし醤油をブレンドすることで、インパクトを与えようとしているな。
すばやく動く手元を観察しながら、西村はそう分析していた。
どんぶりがカウンターに運ばれて来る。
「ブラックとんこつらーめんです。お待たせしました」
「どうも」
西村はレンゲを使って、スープをすすってみた。
それは真っ黒に染まっているが、しつこさはなく、ガツンとパンチの効いた味付けだった。
麺は細麺で、そばのように歯切れが良く、ちゅるちゅるっと口の中に入って来る。
紅生姜やチャーシューなどのトッピングも、スープとの相性が良く、強い存在感を主張するスープに負けない個性を放っていた。
しかも替え玉が無料なのだ!
西村は、いつしか箸が止まらなくなっていた。
しかし、シメのおじやを食べているときに。
「うっ……。ぐ、苦じい――」
客のひとりが。
スツールから身を投げ出すようにして。
倒れてしまったのである。
(後)は1時間後に予約投稿しています。




