(File15)西村くんのスイリ対決②
『第一問。
いえのほいけ
(寝癖をなおして考えろ)』
プラットホームで乗降客による雑踏を掻き分けながら、西村少年はあてどもなくさまよっていた。
「いえのほいけ。けいほのえい。ienohoike.ekiohonei.えきおほねい。
…………寝癖を直して考えろ。寝癖、癖? いえのほいけ。家のほ池、家のお池? 池ってなんだ? 池袋のことかな」
ぶつくさ言っているうちに、西村少年はホームの端っこに着いてしまった。
そこには簡易トイレと階段があるが、他にはなにもなかった。
電車が滑り込んで来たが、止まらずに通過してしまう。
どうやら快速列車だったらしい。
「そろそろ帰ろうか?」
親子連れがトイレから出てきた。
小学生くらいの男の子と、その父親らしき男性だ。
時刻はまだ朝方で、太陽が眠そうな空に向かっていくところだった。
「もう帰ろうよ。おじさんの家、もう飽きた」
男の子は頬を膨らませている。
まあここは田舎町だし、子どもには退屈なんだろうな。などと大人びたことを考えながら、西村は親子に目を向けた。
「帰ろうか、もう帰ろうよ。
期せずしてあの有名な邦楽の歌詞みたいになったな」
父親はおかしそうに笑ったが、子どもはキョトンとするばかりだった。
まあ幼い子どもが『home』を知っているわけがないか。西村は微笑しながら目を外した。
「ん? ホーム? ホーム、家……」
寝癖を直して、考えろ。
寝癖……か。
いえのほいけ。
寝癖は鏡を見ながら直すから……なるほど。
「わかったぞ」
西村は一目散に駆けだした。
トイレの洗面所で、手帳に五十音表を書きつけ、鏡に映した。
「この暗号の意味は五十音表で考えて、その対になる文字を答えればよいという意味だったんだ。
つまり『あかさたなはまやらわ』でいうところの、『あ行』の対は『わ行』。『か行』の対は『ら行』。『さ行』の対は『や行』。『な行』はちょうど真ん中に位置するから、読み方は変わらないといった要領だ。この法則にしたがって解くと……」
手帳に暗号文を書き写して、頭を整理してから、西村少年は言った。
「ゐゑのとゐれ(→いえのといれ)。家のトイレというのはホームのトイレということ。つまりトイレの周辺に係員がいるということになる」
トイレをひと通り調べたあとで、彼は先の親子連れに、駅の係員を見なかったか訊いた。
すると、
「君は受験者だね?」
父親らしい人物は西村少年のバッジを認めて、照れくさそうに言った。
「ついついヒントを口走っちゃったけど、ごめんね」
男性は哀願でもするかのように、両手を合わせて謝罪した。
「これが第2の試練だよ。がんばって解いてくれよ」
プリントアウトされた無機質な紙を寄越すと、例の親子連れはどこかへ行ってしまった。




