(File13)奇術と推理の対決⑥
「車に乗ってゆっくり話そうとは言ったけどさ、西村っち」
東川は西村に。
こっそりと耳打ちをするように言った。
「悪いけど、暗号の答えはここじゃないよ」
「えっ?」
「なっ?」
島崎も山村刑事も驚く中――西村は冷静にこう切り返した。
「じゃあ6階ですか?
縁起が良いとされる初夢は、全部で6つあります。
それと松方正義さんは第6代の総理大臣もつとめていますから……。『6』も共通項として浮上します。
しかしフェアじゃありませんね、東川さん。まさか少数派が正解とは――」
「6階でもないよ」
東川にそう言われて。
西村は絶句した。
そんなはずはないと、抗議したくなった。
あの推理大会を思い出しそうになったが、必死でこらえる。
「4と6。語呂合わせで、読(4)む(6)。読むといえば書店。書店があるのは3階だ。
と、ここまで推理して欲しかったね」
にやにやと、東川は嫌味たっぷりに微笑んだ。
「で、アルバイトの面接はどうなったんですか?」
西村は仏頂面を崩さずに言った。
「面接はしていない。時間にさえ間に合えばそれでオッケーだ。
今頃そのバイト君は、社員研修のビデオでも観ているだろうな」
東川は右にハンドルを切ってから、カーオーディオの電源を入れた。
西村には馴染みのない曲が流れ始める。洋楽だった。
「これを聴くと推理力が上がるんだよ」
「今は推理の必要性はないと存じますが」
音量が大きすぎたので、顔をしかめてつまみをひねる西村。
運転しているのは東川だが、うるさいものはうるさい。
「推理の必要性は、もしかしたらあるかもしれないよ? これから高速に乗るからね」
「それのどこに推理の要素があるんですか?」
皮肉とも知らずに島崎は尋ねる。
要は自分よりも推理力のない西村をののしりたいだけなのだ。
無意識に。
西村の意識とは無関係に。
あのときの推理大会の記憶がフラッシュバックしてきた。
あれは、定期テスト前日の日曜日だった。
学校の勉強を放置してまで、西村はその大会に心血を注いでいた。
なぜならそれの優勝商品は――引退した列車のハンドル。
当時電車オタクだった彼には、のどから手が出るほどの品物だったのだ。




