(File11)奇術と推理の対決④
From:東川州
Subject:駐車場
Message:駐車場を探求する者達よ。
どうかこのメールがそなたらを導く一助となることを願わん。
「愚かなる心や見えんます鏡」「ベリリウム」「扇」「ダイヤモンド」「松方正義」
儂はこれらの語句にシンパシーを感じておる。それでは健闘を祈る。
「西村さん、これはまさか……」
山村刑事は表情を引きつらせていたが、言葉の続きを述べることはしなかった。
「ええ、そのまさかです。これは暗号ですよ」
代わりに西村が引き継いだ。
「でもなんで暗号なんかを送ってきたのかな?」
島崎の問いに。
「私達にとって、暗号は鎹みたいなものなんですよ」
西村は答えた。
西村と東川にとって、暗号は鎹みたいなもの。
――もしくはそれ以上なのだ。
もし暗号がなかったら、2人は出会うことさえなかったかもしれない。
「要するにこの暗号を解けばいいんです。単純明快でわかりやすい」
西村は忌々しい記憶を振り払うために、努めて明るく言った。
「ちょっと待ってください。暗号なんてどうでもいいじゃないですか。
――駐車したスペースって、本当に地下の1階でした?」
山村刑事は不安になったのか、そんなことを言い出した。
「ええ、間違いありません」
西村は即答した。まるで迷いがなかった。
「だとしたらおかしいですよ。
見取り図を見ていただければわかるのですが、ここには地下1階なんて、もともと存在しないんですよ。
それなのに私達は地下1階にいた。じゃああそこはいったいどこだったんですか?」
取り乱し、オロオロとし始める山村刑事。
西村は、内田警部の苦労がすこしだけわかるような気がした。
「見取り図によると、ここのショッピングモールの屋内駐車場は、1階から6階まであります。
そして私達が東川さんといっしょにエレベータに乗ったとき、箱は下降していました。
つまり私達がいた駐車場は、2~6階のどれかとなります」
「じゃあ教えてくださいよ。どうして私達は地下1階だと勘違いしてしまったんですか?」
「ミスディレクション。――まずそもそもの前提が間違っていたんですよ。
私は【B1】と書かれた柱を見て、あたかもそこが地下1階であると思い込んでしまいましたが、これは間違いでした。
もしかしたら従業員を使って、柱に細工を施していたかもしれない。
と、そこまで考えるべきでした」
「じゃああの、アスファルトの塗装も、偽物だったんですか?」
「いいえ。【D】というペイントは、おそらく本物です。
雨の降らない屋内駐車場で、あれだけ大きなペイントをしてしまったら、そう簡単には消せませんからね。
ヘタをすれば私たち以外のドライバーまで巻き込んでしまう可能性だってあります」
「ねえ、西村くん」
服のすそを引っ張って。
島崎は西村を呼んだ。
「なんでしょうか?」
「ひょっとすると、この暗号に書いてある――
【儂はこれらの語句にシンパシーを感じておる】っていうのは、
①【愚かなる心や見えんます鏡】
②【ベリリウム】
③【扇】
④【ダイヤモンド】
⑤【松方正義】
この中から、共通項を探し出せっていう意味なんじゃないのかな?」
「なるほど、一理ありますね」
「それでいちおう、私なりに推理してみたんだけどね」
①は保留。
②は水素、ヘリウム、リチウムに続く、4番目の原子記号。
③はうちわだから、時期的に夏。
夏といえば春夏秋冬でいう2番目の季節。
④も保留。
⑤は保留。
「結論から言うとね――。この暗号の答えは、なにかの数字だと思うんだけど、どうかな?」




