(File10)奇術と推理の対決③
「悪いな。これからアルバイトの面接があるんだ」
東川はマジックショーを終えて。
舞台裏で着替えてから、西村達にそう言った。
「鍵は渡しとくから、さきに乗車して待っていてくれ」
「経営責任者ともなると、マジックをやったり面接をしたり大変なんですね」
島崎は素直に感心して、そう発言した。
が。
東川には、島崎の発言は嫌味に聞こえたようで。
「そうだな。たしかに大変だ。――まあそうは言っても、監査業務は会計士に委任しているから、楽々だけどな。
まあ俺の仕事といえば、連結貸借対照表、連結損益計算書、連結剰余金計算書、連結キャッシュフロー計算書、連結附属明細表を作成したり、上場企業の確認および買収。それから試算表の作成に加えて、弊社の損益計算表、貸借対照表を公開したのち当期純利益を計算して……」
大学の経済学部に籍を置いたことがない島崎には。
東川の答弁がちんぷんかんぷんだった。
東川がわかりにくく説明しているのだから、それも無理はないが。
「連結財務諸表を作成しているということは、トラストかコングロマリット――いわゆる企業提携でもしているのですか? それは大変ですね」
西村が合いの手を入れる。
「そうだな。まあトラストは独占禁止法が施行されているから、主にコングロマリットに力を入れているがな」
東川は急いでいるからと言って、どこかへ行ってしまった。
「西村くーん。東川さんが怖かったよー!」
甘えているというわけではなく。
島崎は本当に涙声だった。
そうとう怯えていたのだろう。
まあだれだって専門外の話をされれば、戸惑ってしまうものだ。
それに東川は敵意を丸出しにしていたのだから、余計にタチが悪かった。
沈黙したら、それこそなにを言われるかわからない。そんな圧迫感もあったのだろう。
「東川さんはすました顔をしていますが、なかなかにプライドが高いですからね。
今度からは気を付けてくださいよ」
などと、西村は今更なことを言って。
エレベータに乗った。
行き先は――地下1階だ。
「あれ?」「え?」「……?」
階数表示ボタンには、地下1階という項目はなかった。
西村は【開】のボタンを押して、いったんエレベータから出ると。
メールを受信して、振動しているスマートフォンを手に取った。
From:東川州
Subject:駐車場
Message:駐車場を探求する者達よ。
どうかこのメールがそなたらを導く一助となることを願わん。
「愚かなる心や見えんます鏡」「ベリリウム」「扇」「ダイヤモンド」「松方正義」
儂はこれらの語句にシンパシーを感じておる。それでは健闘を祈る。
この小説はもはや、スマートフォンがないと成り立ちません。
まったくもう文明の利器に頼りすぎだよ、西村くん。
って、悪いのは西村くんじゃなくて、ぼくなんですが(笑)




