(File8)奇術と推理の対決①
この回は、西村京三郎の過去編へと続く前振りなので。
何度も何度も書き直しました。
「着いたぜ、西村っちご一行さんよ」
ネイビーブルーのトップスと、白のクロップドパンツをはいた――自称”奇術師”。
東川州は、自身が経営する大型のショッピングモールに、西村達をつれて来た。
西村達というのは――
「いやー。初対面の私までお誘いを受けてしまい、大変恐縮しております」
いつもなにかと西村が厄介になっている相手、山村刑事と。
「私も初めて会うひとばかりで緊張してます」
先日のお見合いパーティーで知り合った、島崎鳴海である。
「どうぞご心配なさらずに。
私にしても、ただ面識があるというだけのことですから」
「相変わらず冷たいねー、西村っち。さあ、降りて――」
東川に促されて。
車内から駐車場に出ると、そこは真っ暗な。
それこそ洞窟みたいに真っ暗な空間だった。
「ここは屋内駐車場だぜ。
日はほとんど当たらねーから、今みたいな夏場は涼しいし。
見ての通り、不要な個所に照明はいっさい使ってねーから、節約にもなる。
そうやって徹底的にコストを削減し、その利益をお客様に還元して運営してんだ。どうだ、驚いたか?」
東川は如才なくショッピングモールの特徴を紹介していく。
経営責任者としては仕方ないのだろうが。
公務員の西村としては、あざとい印象しか受けなかった。
「この駐車場は地下1階のD区分ですね。記憶しました」
【B1】と書かれた柱や、【D】とペイントされたアスファルトを見て――西村はそのように判断した。
「西村さん。高級車も近くに停まってますよ。こっちのが覚えやすいんじゃないですか?」
山村刑事はアウディを指さして、はしゃいでいる。
「山村刑事。お言葉ですがこの場合、非可搬物体の位置取りを覚えたほうが良いですよ。
自動車なんていつなくなるかわかりませんから」
「そうですよね」
しょんぼりと、山村刑事は肩を落とした。
「じゃあ、あの自販機は非可搬物体なの?」
島崎は素朴な疑問を口にした。
エレベータホールのすぐ近くに、自動販売機が2台並んでいる。
「正確には可搬物体ですが、今回は非可搬物体と見て間違いないでしょう。
根拠につきましては、この自動販売機が撤去される可能性がないからです」
西村が断言すると。
「おいおい、撤去される可能性がないって言うけどさ。
もしも俺が業者に頼んでいて、今日回収することになっていたらどうすんの?
そしたら可搬物体になって、せっかくの目印が消えてしまうんだぜ」
東川が水を差した。
「自動販売機は撤去される直前になると、硬貨口にガムテープなどでふたをされますし、紙幣投入口も同じようにふさがれてしまいます。しかしこの自動販売機にはそれが見られません」
「それはギリギリまで商売をするために、わざとふさがなかったのかもしれないぜ」
「東川さんはさきほど、おっしゃいましたよね。徹底的にコストを削減すると」
「それがどうかしたか」
「商品を保冷するためにかかる電気代を考えると、せいぜいあと数本しか売れない自動販売機をフル稼働させるのは非効率的です。そんなことをするくらいならば、自動販売機に入っている飲み物を倉庫にまとめて移したほうが経済的なはず」
「もしかしたら自動販売機に飲み物は入っていないかもしれないぞ」
「だったらなおのことですよ。商品がないのであれば、自動販売機に電源が入っていること自体が不自然ですし、商品のランプに【売切】【準備中】が点灯していないのはおかしいです。それに商品がなくなれば、サンプルの飲み物も撤去されているはずですしね」
「相変わらずだな。その洞察力。
初めて会ったときを思い出すぜ」
「こっちとしては、思い出したくない思い出ですがね」
リーフの暗号と同じく、5話完結です。
なんかすいません。長くなってしまって。