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鉄道警察隊、西村のスイリ。  作者: オリンポス
【1回目のスイリ】
1/46

(File1)ちかんは誰だ!?

改行・空白あり――2,800文字です。

ちょっと長いですが、楽しんでいただけたらうれしいです!!

「犯人はこの4人の中にいます」


 乗客の全員が下車した駅のホームでは。

 鉄道警察隊てっけいと、容疑者候補の男性4人がにらみ合って立っていた。


「なんで犯人が俺たち4人だけだってわかんだよ」

 右半分が金髪。左半分が黒髪の男性――クロガネは声を荒げた。


「理由はですね。この女性専用車両に乗っていたのが、あなた方4名だったからですよ」

 落ち着いて答える鉄道警察隊――西村。


「知るかよ、そんなの。空いているとこに乗ったら、たまたま女性専用だっただけだろ!」

 クロガネの弁解に便乗してなのか、「そうよそうよ」と彼を援護する者があった。

 それはクロガネの彼女ではなく、ひと目でオネエとわかるゲイバーの店主だった。


「女性専用車両なんだから、ワタシが乗ったって良いじゃない」


「老若男女を問わず、じゃ。このような不祥事には、鉄道警察隊は、自動改札の警備も固めて、乗客の全員に取調べをするべきではなかったのか? まあワシみたいな老いぼれには性欲など残っておらんがな」


 ホクロだらけの老人は自嘲気味に笑った。


 よく言うわ、とゲイバーの店主があきれ顔で老人を見る。

 老人の手提げ袋にはアダルト雑誌が入っていたのだ。


「とにかく、疑いを晴らせば無罪釈放なんだよな? 鉄道警察隊さん」

 頭にバンダナを巻いた青年はそう訊いた。


「その通りです。……が、残念ながら被害女性は一足先に警察車両に乗っているそうなんですよ。なんでも犯人との再会が怖いそうですからね。ですのでパトカーのマジックミラー越しで面割りをさせていただきます」


「だったら駅構内の駐車場に行けば良いんだな?」

 バンダナ男が結論を急ぐと。


「いえいえ。そんなお手数をかけなくとも、犯人がわかる方法があります」

 西村は冷静に切り返した。「ス・イ・リ・です」


「推理だと? ――内田康夫サスペンスの見すぎだな」

「なに言ってるのよ?  サスペンスといえば山村美紗よ」

「旅情ミステリの先駆けは松本清張じゃがな」

「トラベルミステリーの帝王は西村京太郎だろ」


「みなさん、所持品を確認させてください」

 西村は蛙鳴蝉噪あめいせんそうを聞き流し――そして言った。


 彼らの持ち物は以下の通りだった。


・クロガネ→スマホ、サイフ。

・ゲイバーの店主→スマホ、ハンカチ、ポケットティッシュ、サイフ、マッチ。

・老人→ガラケー、サイフ、アダルト雑誌。

・バンダナ男→スマホ、サイフ、タオル。


「わかりましたよ。ちかんをしたのが、だれなのか」

 西村はおごそかに言った。


「ちょっと待ってくれよ。推理の材料はどこにあるんだ?」

 バンダナは自信満々の西村に、待ったをかけた。


「失礼。被害者女性の証言によると――ですが」

 ――犯人の身体的特徴は覚えているが、対面したくない。

 こんな被害にあったのだから当然だろう。

 そればかりか、犯人やつの特徴を口に出すのもいまいましいのである。

 ヒントを与えるからそれを元に解いてくれ。

 ちかんをしたのは男性で……。


「前置きはいいのよ。早く核心をつきなさい」

 ゲイバーの店主が急かした。


 西村は言う通りにした。


「新聞紙を逆さにして読んでください。そうすればわかりますよ。ちかんは誰なのか――」


「なによ、それ?」

 ゲイバーの店主は困惑し。


「ふむ、新聞紙を逆さにして、か。

 なんだか意味深じゃのお」

 老人はあごに手をそえて考え始め。


「カッ! くだらねー」

 クロガネはイライラし。


「新聞、買ってきたぜ」

 バンダナ男はローカル新聞を購入した。


 4人は新聞を逆さにして読んでいたが。


「わからねー。降参だ」

 クロガネはそっぽを向き。


「逆さにしたら、読みにくいな」

 バンダナ男は両手を挙げて、降参のポーズをとり。


「知らないわよ。こんなの」

 ゲイバーの店主はさじを投げ。


「わからんのう。ワシらの負けじゃわい」

 老人が白旗を揚げた。


「おかしいと思いませんか?」

 西村は問いかけた。

「新聞紙を逆さにして読んでくださいって」


「なにがおかしいのじゃ?」


「文語なら新聞紙と呼称するのもうなずけますが、日常会話で、『新聞紙』なんて言いますか? ふつうは『新聞』と省略するでしょう?」


「たしかにそうじゃが……。育ちの良い家庭で生まれ育ったのなら、話は変わるじゃろう」


「ちかんをされて、犯人を告発する女性に多い心理は、じつは優越感です。私だってちかんされるんだぞってアピールしたいんですよ」


「そんなバカな」


「そういう学説もあるという話です。もちろん正義感を持った立派な被害女性がほとんどでしょうがね。

 しかし育ちの良い家庭で育った女性が、ですよ。ちかん被害を訴えるなんて、するでしょうか?

 品の良い女性なら、チクるのははしたないと思って、黙認するのではありませんか?」


「なにが言いたいのじゃ?」


「つまり、新聞紙とは、新聞そのものを表しているのではなく、新聞紙という言葉に意味があるのではないのか、ということですよ」


「新聞紙という言葉に意味が?」


「ええ、『竹やぶ焼けた』と同様の意味がね」


「上から読んでも下から読んでも、『タケヤブヤケタ』じゃが、まさかそれを表しているというのか?」


「ええ、その通りです」


「じゃがそれがこの事件となんの関係があるというのじゃ?」


「もういちど思い出してくださいよ。被害女性のセリフを。

 新聞紙を逆さにして読むと、『ちかんは』だれなのか、わかるそうですよ」


「うむ……。しかしのお」


「新聞紙とは所持品の一部ですよね」


「じゃがワシらはあいにく携行しておらんぞ?

 バンダナの男は買ってきたがのお」


「おいおい、じいさん。俺じゃねえよ」

 バンダナ男は怒ったように言った。


「ところで」

 と。

 西村は、構わずに続ける。

「『ちかんは』だれなのかって、おかしくないですか?」


「今度はなんじゃ……」


「ふつうなら『犯人は』って言うはずでしょう? ちかん被害がいまいましい記憶ならば、『ちかんは』なんて口述しませんよね」


「そうじゃな……」


「だったら『ちかんは』という言葉には、意味がありそうだ。ちがいますか?」


「早く答えを言わんか」


「では『ちかんは』を、反対から読んでみてください」


 西村は『ちかんは』と手帳に書いて、老人に読ませた。


「はんかち」


 瞬間。

 容疑者3人の目が、ゲイバーの店主に向いた。

 ハンカチを所持しているのは彼だけだった。


「仕方ないじゃない。心は女でも、身体は男なんだから」


 面割りによって、被害者女性の承認を得て。

 ゲイバーの店主は縛についたという。

連載小説というかたちをとってしまいましたが、どこまで続くのかは作者自身もわかりません。

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