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異世界転生してもお前らがぼっちなのには変わりはない(嘲笑

作者: 王様

 ぼくこと山田朗太やまだろうたはぼっちだ。

 わざわざ自宅から電車で二時間も離れたそこそこの進学校を選んで高校デビューを狙い華やかな高校ライフを夢見ていたものの、極度の上がり症と人見知りの性格がすぐに克服できるわけでもなく、高校生活一週間目で新たな人間関係構築レースから脱落。


 高校生活二週目にはまだ起死回生のチャンスはあると思い、教科書や筆入れをわざと忘れて隣や後ろの席の級友に声をかけてみたものの、ぼくの声はただでさえ小さく、それに緊張でどもったりもして、「え? なんて?」という相手の面倒くさそうな顔と、全身から静かに発するこちらと関わりたくないオーラに撃沈。無口で忘れ物が多いダメな奴というキャラが確定。


 そして三週間目には透明人間扱い。体育の授業ではペアから零れ落ちる恐怖に保健室のお世話に。

 気がついた頃には休憩時間には寝たふりをして過ごすという、中学時代となにも変わらない高校生活を送ることになっていた。


 こんな生活があと二年半も続くのか……

 いや、二年生に進級すればクラス替えがあるからその時に……

 しかしリア充という生き物はクラスというカテゴリーをあっさりと越えて、こちらが知らぬ間に交友ネットワークを広げている恐るべし生き物だ。ぼくなんかが今さらその人間関係に割り込む余地がないことなど中学時代にとっくに経験済みだ。


 そして一度貼られたレッテルは卒業まで続くことも。

 そんなものはテロリストが学校を占拠するなかで、実は小学校時代にデルタフォースの一員として戦っていたという殺人兵器キリングマシーンとしての才能を全校生徒の前で披露するとか、実は両親がアンドロメダ星人でその子供であるぼくはスーパーヒーロー並の超能力を宿していて、その秘密を隠すために無口キャラを押し通していました、くらいの奇跡でも起きないかぎり、一度貼られたレッテルを剥がすのは絶対に無理なのだ。


 もしくはゲームのようにリセットボタンを押さない限りは……


 そんな風にいつもの学校からの帰りの電車の中で、ぼくはうじうじぐだぐだと自分の呪われた青春時代について悶々と逃げ道を探していた。

 しかしドアの前でたむろっていた六人の高校生グループがバカ笑いをしたので、ぼくは貴重な瞑想タイムから現実へと引き戻されてしまう。そのグループは途中の駅から乗ってきたバカで有名な高校の生徒たちで、髪も茶髪だし制服もなんだかだぼっとした感じに着崩している。しかも男女三人ずつというのもなんだか気に食わない。


「ちっ、うるせえーな……」


 ぼくは舌打ちをしてスマートフォンを見た。小説家になろうでお気に入りの異世界転生ものでも読んで気分転換でもしよう。

 しかしふと視線を感じて顔を上げてみると、さっきの高校生グループのうちの一人がぼくを睨んでいることに気がついた。髪は茶髪で襟足を伸ばしたホストみたいな髪形をした男子生徒だった。

 どうやらぼくの舌打ちは思ったよりも大きくて、彼らの耳にも届いてしまったらしい。


 や、やべえ……

 ぼくは腋の下にいやな汗をかきながら懸命にスマートフォンをいじった。

 メガネは高校入学と同時に新しいやつを買ってもらったばかりだったけど、度が合ってないふりをしてメガネを拭いたり目を擦ってみたりなんかする。

 そして視界の端っこにそのグループの一人が近付いてくるのが見えた。


 ピーンチ! 大ピーンチ!

 ぼくは心の中でそう絶叫しながらも体が石のように固まって動けないでいた。スマートフォンの画面はお気に入りの異世界転生ものではなくて、終末ヒロイン乙とZという聞いたこともないマイナー作品が写し出されていたけれど一心不乱に読み続けた。面白かった。


 そして――


「よう、お前さっき――」


 とホスト風男子高生がぼくの前に立って冷たい目で見下ろしていた。


 その時、電車が激しく揺れたかと思うと視界がひっくり返り、その中をたくさんの乗客が転げまわるのが見えて、ぼくは全身に押しつぶされるような衝撃と圧力を感じて気を失った――




 気がつくとぼくは平原に立っていた。

 しかも着ていた筈の学生服はなく全裸で。

 持っていたはずの学生カバンもスマートフォンもない。


「もしかして死後の世界ってやつ……?」


 でもぼくはそんなに悲しんでもいなければ驚いてもいなかった。

 むしろあの針のむしろの上に座らされているような高校生活から逃げ出せたのかも知れないと思うと、重たすぎてぼくでは支えきれなかった肩の荷がようやく下りたような開放感と喜びのほうが大きい。


 それにぼくはいつの日か異世界へ行けるものだと思っていた。それが大学生になる頃か、成人を迎えるころかはわからないけれど、ぼくが異世界に行けないわけがないと信じて疑わなかった。

 だからぼくは驚かない。

 むしろこれは当然のことである。

 これはきつくて辛い学校生活をぼっちで耐えてきた、耐え続けてきた可愛そうなぼくへの神様からのプレゼントなのだ。

 きっとあの時に起こったのは電車の脱線事故だ。

 そしてぼくだけがこの異世界へと飛ばされた。

 そうだ。そうに決まっている。

 ちょっと残念なのは異世界に来られたものの転生ではなかったことだ。

 なぁに、しかしそれくらいは大目に見よう。

 これまで得てきた知識やゲームスキルを基に、ぼくは赤子からこの世界でやり直して英雄になるはずだったけれど、そこまで神様に求めては酷というものだ。

 きっと神様の力をもってしても出来ることと出来ないことはあるのだ。

 転生はさせてあげられなかったけれど、裸一貫その異世界で頑張ってくれたまえ、それが神様のメッセージのはず。だからこその全裸。

 ぼくは興奮していた。

 悲しみも驚きもなかったけれど、喜びだけがあった。

 そしてそれは当然のことなのである。


「うひょひょひょひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!」


 ぼくは平原を駆け出した。全裸のままで。

 歓喜の雄叫びを上げながら。

 全力でこの奇跡をかみ締めていた。


 しかし一時間後にはぼくはぐったりとして平原に寝そべっていた。

 どこまで行っても見渡す限りの平原にぼくはすっかり嫌気がさしていた。

 三百六十度見渡す限りの平原と地平線である。

 どれだけ歩いてもぼくが武器や防具を調達するはずの村もなく、井戸水を汲みに行っている途中で盗賊団に襲われる美人の村娘を助けるというイベントが発生する気配も微塵もない。

 そうやって平原に寝そべって考えあぐねていると、どこからともなく声が聞こえてきたのでぼくは慌てて飛び起きた。


「ありゃまー、こりゃまたお久しぶりの異邦人さんでねえか」


「ふぁっ!? だ、だれ!?」


「おやまぁ、やっぱ異邦人はわしらの姿が見えねえんだべ?」


「え!? なに!? ちょっとなんなの!? どこにいるの!?」


「そんなに驚かんでもいいさねえ。わしはあんたの目の前にいるから」


 と、突然誰かに右手を握られる感触がしてぼくは腰を抜かした。


「ど、とうゆうこと!? もしかして透明なの!? 透明人間なの!?」


「んん、透明人間ちゅーかぁ、どうも異世界からやってくる人らにはわしらの姿は見えないらいしんだよねえ」


「え!?」


「なんちゅーの、どうもわしらの体を構成している分子が異邦人さんの眼球じゃ上手く見えないらしくての、たまーにあんたみたいに異世界から人がやって来るんだけどもみんなわしらの姿が見えないと騒いでおっての」


「そ、その人たちは今は……?」


「さあ知らん。みーんなわしらのこと怖がって逃げていったから」


「そ、そんな……じゃあぼくのこれから始まる英雄譚は……? 美しいお姫様とのラブロマンスは? 魔導師たちとの激しい魔法合戦やドラゴン退治でもらえる秘宝はどうなるの……?」


「ねえパパ、このお兄さんなに言ってるの?」


 と、突然聞こえてきた釘×理恵みたいないかにも可愛らしい幼女チックな声に、ぼくの胸は思わず高鳴った。


「ふぁっ!? 誰!? 今の誰!? もしかして娘さん!?」


「んだ。わしの娘だ」


 そこでぼくはようやく自分が全裸だったことを思い出して慌てて両手で股間を隠した。異世界でのヒロイックファンタジーライフの夢は潰えたとしても、釘宮ボイスの少女とのロマンスの道はまだ残されている。


「は、はじめましてぼくは――」


「ねえパパ、どうしてこの人のおチン×ンはパパと違うの?」


「ああ、それは仮性――」


「いやあああああああああああああああ!!! 見ちゃらめえええええええええええええ!!!」


 ぼくは頭を抱えてしゃがみこんだ。

 頼むからぼっちにしておいてくれ。

 それがぼくの魂の叫びだった。


                                                         了  


ついカッとなってやった。今は反省して……ねーよw

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