秋の日
母は優しく私たちを抱いてくれていた。
そよぐ風も心地よく、日の光も暖かかった。
私は一人ではない。母は私と兄弟たちを大切にとても大切に育ててくれた。
私はとても幸せだった。風の強い日も、照り返す日の強い日も、雨の日も、名も知らない鳥たちが鳴く日も、厭な虫が舞う日も母が守ってくれたから。
優しかった母も年老い腰が曲がる日が来、まだ年若い私たち兄弟が巣立つ日も近づいてきたある日、その事件が起こった。
それは正に大量虐殺だった。
私たちを守ろうとした母も、母と同じように子供たちを守ろうとした仲間たちも根こそぎ切り殺されてしまった。
もう腰の曲がってしまった母が私たちに謝る。
「ごめんね。あなた達を最後まで守ってあげられなくて。本当にごめんね」
私たちも涙ながらに母に言う。
「お母さん、今までありがとう。私たちは幸せだったよ」
「あなた達はまだこれから大きく育っていく小さな子供なのに本当に ー 」
母はその言葉の途中で鋭い刃物で切り倒されてしまった。
「お母さん!」
私や兄弟の悲痛な叫びももう母には届かない。
切り倒された母はそれでも私たちを抱きしめてくれている。
そんな母から私たちは引き剥がされた。
鋭い刃の付いた凶悪な機械が私と母の間を切り裂いていく。
私と兄弟達は悲鳴を上げながら気を失った。
次に気がついた時、
私は大勢の子供達と見知らぬ部屋に詰め込まれていた。
「ここは何処?」
私の疑問に周りにいた彼らが答える。
「わからない。私たちも気が付いたらここに居たの」
お互いの無事を喜びながら何が起こっているのか想像を巡らせた。
「あんなに酷いことを許せなかった誰かが私たちを助けてくれたんじゃない?」
「きっとそうだよ。
ここは暖かいしこんなに大勢の私たちを集めてくれているんだもの」
安心していた私たちの足元が崩れ、
またも悲鳴を上げながら私たちは滑り落ちていった。
最後に残った母の形見の服をはぎ取られる。
強い日差しからも冷たい雨からも私を守ってくれた心強い服をはぎ取られ、
私も仲間達も丸裸にされてしまった。
服だけでなく、ガリガリと皮までも削られてしまった私たちは
今度は冷たい水の中に沈められギチギチと押しつぶされた。
地獄のような責め苦がやっと終わり
冷たい水の中に取り残された私は周辺の異常に気が付いた。
冷たかった水が暖かくなってきたのだ。
「良かった。やっと終わったんだ」
安心した私の周りでは仲間達もほっとしているようだった。
しかし、地獄はまだ終わっていなかった。
暖かかった水はその温度をどんどん上げていったのだ。
正気では耐えられないほど温度が上がった水は熱湯と言えるまでになってしまった。
私たちはすっかりふやけてしまった体を寄せあった。
「なぜこんな目に遭わなくてはいけないの?」
「私たちが何か悪いことをしたの?」
「あの頃はいつか私たちもお母さんのように
かわいい子供達を育てて幸せに生きて行けるのだと思っていたのに」
涙ぐむ私たちは集団ですくい上げられて大きな入れ物に入れられた。
「やめて、もうやめて。私たちを助けて」
叫びも虚しく私たちは噛み潰されてしまった。
最後に誰かの声が聞こえた。
「お母さん。このお米おいしいね」
「精米したばかりの新米だからね」