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君が最初に死んだとき

 最初に君が死んだとき、君は若かった。あのときは、二人の最初で最後の子供になった娘が、君のおなかにいね。君の死は理不尽だ。全ての死と同じように。


 なぜ、事故じゃなかったんだ。


 なぜ、もっとほかの、現代の医学で克服できる病気じゃなかったんだ。


 君は、なぜかいつもきっちり律儀に発病して、そのたびに美も若さもぐずぐずと崩れるように失って、あっという間に死んでいく。

 君の最初の死から変わったことは、たった一つ。僕たちは、二度と子供を作らない。それだけ。


 繰り返される死の、そのたびに君は僕に言う。もう終わらせてほしいと。

 この苦しみは、もう二度と味わいたくないんだと。

 永遠に終わりたいんだと。


 確認されうる二親等以内の血族全てが、死に同意しなければ、三十歳未満の死は全て再生の対象になる。

 契約だけでつながっている僕に、君を生の側に引き留め続ける権利はない。

 だから、君を苦しめているのは残念だけど僕じゃない。でも、血の繋がった人を憎めなくて、君は僕を憎む。そう、誰だって、他人を憎むのはたやすい。つまり、僕にだって、君を憎むことぐらいできるんだよ。


 君は本当に気付いていないのかな。


 人工羊水の中に浮かぶ君の裸体に魅せられる。君は本当に綺麗だ。まっさらな、生命維持のため以外に使われていない君の脳に、これまでの記憶がそそぎ込まれてしまえば、君は怨霊のようにとりついた、怒りと絶望の色に染まって醜くなる。だからいつも、君が帰って来る前に、まっさらな君を抱く。そして、なぜ、そのまま無垢なる君でいては駄目かという愚痴を、やっと飲み込む。


 誰がそんなことを決めたのだろう。


 ただ、こんなふうに哀しいまでに美しい君を見ていると、募る愛しさに理性的な思考が阻まれて、どれほど虚しくても、どれほど実りとかけ離れても、ただ欲しいという欲望に支配される。


 どうして、美しいまま、若いまま、時間はとまらないんだろう。


 美しかった君にもう一度会える。多分、この次も、その次も無念のまま逝く君と分かっていても、僕は永遠のさようならを言えない。


 どうして、この腕の中に君を抱きしめることを諦められるだろう。


 君の怒り、苦しみ、嘆き、絶望ごと、僕は生れて来る君を、多分性懲りもなく抱きしめる。

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